あなたが自分の仕事をちゃんとやっていたら世界が変わらない

 皆さんが子どもの頃、『伝言ゲーム』をやらなかっただろうか。

 集団を数グループに分けて並ばせ、最初の者に「もとの文章(正解)」を伝え、そこから暗記したそれを次の者の耳にささやくのだ。そうして2番目は3番目に、3番目は四番目に……と伝わっていくうちに、少しづつ記憶違いや覚えきれず捏造されてしまった言葉などが混ざり、最後とんでもない文章になって皆が笑う。

 名作漫画『パタリロ!』の中にもそんなネタがある。(第7巻)



「黒い懺悔のプリンス懺悔が現れた。充分注意を要す」

「黒い山河のプリンス変化があらわれた。十分に中尉が様子」

「黒い山地のプリンス遍路に祓われた渋面弔意だよう」

「黒井さん家のプリンスメロンに払われた10円ちょうだいな」



 伝言ゲームは基本、皆一生懸命ということがある。チームの勝利のために最善を尽くしていても、ボイスレコーダーのような機械じゃないので悪気なく間違う。まぁ、ひとつの集団にひょうきん者や悪ふざけ君は一人や二人いてるので、ウケ狙いでわざと面白く言うヤツもいるが、そういうのは今回考えない。

 要は、それだけ『個人の認識』という世界は独特であり、あなたが成した言動は他人のそのまた他人にはあなたには思いもよらぬ認識をされてしまうことがある、ということだ。



 あなたは、個人として客観的に世の中のニュースを見て「世界は平和で、すべてがうまく回っていて問題はない」と見えるだろうか。

 見えないなら、なぜそのようなのか。基本的に人は、ものごとを良くしていきたいと思っているものだ。問題があるなら解決したいと思っているはずだ。なのになぜ、人類歴史はトータルとして問題のほうが多いのか。よくするどころか、悪くしてやると言わんばかりの行動で世の中があふれているのはなぜか。

 それは、先に紹介した「伝言ゲーム」の中に答えがある。



●あなたを起点として、二番目・三番目先の関係者になると、まったく独特のワールドを2、3個経由することになるが、その時点で「歪み」が生じるため。

 あなたは多分日本や世界の政治にはからんでないだろうが、その世界まであなたが行きつくには多分200番目・300番目の関係とかになってくるだろう。

 そこまでの伝言ゲームがどんな結果になるか分かるだろう?



 あなたは、あいだをすっとばして最終的な伝言ゲームの結果だけを眺めるから、「おかしすぎる!」となるのである。でも、その過程をもしつぶさに知ることができたなら、あなたは苦笑して納得するしかないだろう。

 そこには、憎めない人としての差異・価値観の違い・良かれと思ってやっていても立場の違う者には迷惑だったり、など無数の人の思いがとんでもない結果を出力したりするのだ。

 つまり、人が変われば認識などびっくりするくらい変わるということだ。だから、この世界は「常に立場の違う者同士でいがみ合いが絶えない」のだということを前提として考える必要がある。



 そんな世界を変えたいですか?

 変えたいなら、変わらないのはなぜですか? あなたのように考える人は他にもいるし、過去にも大勢いたはずです。



●みんな、置かれた場所で真面目に忠実に仕事しているからです。



 みんな、凶悪犯罪が起きたら起こしたやつを一方的に叩く。

 確かに、そいつが一番悪い。でも、悪いからやるな・やったら厳罰じゃ! では永遠に世界は変わらない。

 成功哲学とかの悪いところは、「この世界の擁護者」である点。あくまでも今の世の中のシステムを変えず壊さず、守る範囲での成功のみを奨励している。

 今の世の枠組みじゃ皆幸せになれるわけないのに、自由競争社会だから頑張ればあなたも成功できる(できないならあなたは頑張っていない・怠け者)と言ってしまう。椅子取りゲームなのが実態なのに、「みんな望めば座れるよ!」というきれいごと(大うそ)を吹聴しているのが、成功者の「私はこうしてうまくいった!」というお話なのだ。


 

 守る(キープする)意味があるのは、その守る何かが「望ましい状態」であるから。もしこの世が「この状態を保つに値する」のなら、今のままで良かろう。

 もし値しないなら。変えたいところがあるなら。何もしないで変わるなんてムシのいい話はないことは分かりますか?

 この世界で、あなたが世の歯車として今日も明日も自分の分担に忠実でいる限り、あなたが支えるその世界は同じように回り続けるでしょう。



●世界を変えるなら、あなたの今日の言動がどこか変わるしかない。



 あなたの人間関係の300番目くらい先で行われていること(政治・事件)がニュースとかになって流れてきた時。その無茶苦茶な伝言ゲームの結果を見て「私の眼からはゼンゼン違うよ!」ということをその三百人目に思い知ってもらう必要がある。あなたの視点など知らない(あるいはどうでもいい)から正さないのだ。いや、最初の出発の文章を知らないから間違っているとすら分かっていないのだ。

 遠いところのことなら、世の人がもっと声を上げること。(口汚いただの罵詈雑言じゃなく)

 そして、身近なところで違和感を感じたことなら、できるだけあなたの言葉と気持ちを伝えるようにする。

 これをするだけでも、世の中の想像を越えて無茶苦茶な伝言ゲームを少しはマシにすることはできる。なによりもまず、伝えるということをしないと始まらない。



 もちろん、短絡的に革命を起こせとか百姓一揆のようなことをしろ、と言うのではない。あなたにも守るべき大事な人がいて、生活もあることだろう。それらすべてを正しいと思ったことのために投げうて、とまで言うつもりはない。

 ただ、ちょっとでもいいからできる範囲で、「変化」を起こせるような種を今という時に植えること。今すぐには効果を確認できないだろうが、それはボクサーのボディブローのようにいつかじわじわと効いてくる。

 何せ、同じことをしていては、守ることだけしていてはその守られるものは変化しない。変化させるにはただ守る以上のことを要求されるのだ。

 世界というのは、ひとつの生き物だ。世界に住む一人一人は愛すべき良い人でも、集団を作ればその個人個人の優しさはあまり関係なくなる。そして生じた全く別の意識が個々人をコントロールする。社会はその時、独自の意識を持つ怪物となるため、これと戦うのはタイヘンだ。

 そういう、タイヘンなラスボス戦がまっているRPGゲームが、今の世界なのだ。私たちは今、これを攻略する必要があるのだ。さぁ、この討伐戦のパーティメンバーに志願してくれるのは誰だ?

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