私の代わりはいくらでもいる、という病

 大物芸能人の体調不良が相次いでいる。

 最近の例で言えば、広瀬アリス、仲間由紀恵、松井珠理奈。

 ちょっと前の話で思い出すのが、深田恭子。三浦春馬や竹内結子が亡くなった事件もそう昔でもない。



 大物芸能人というと、知名度のチもない一般人からしたら「うらやましがられる」対象である。彼らは生まれつきルックスに恵まれ、チャンスに恵まれ、成功を手にした。そして名をあげた者の多くはそれなりの豪邸(あるいは高級マンション)に住め、年収も収める税金も一般サラリーマンとはケタが違う。

 いいなぁ! 私もあんな人生だったらなぁ! なんて思うのは、有名人の生態など何も知らない一般人の悪いところである。

 彼らは、めちゃくちゃ大変なのだ。



 筆者は芸能界に詳しいわけでもなく、ましてや上記に名をあげた人に会ったこともない。それでも、報道されている情報をある程度正しいという前提で言うと——



●体調不良になる芸能人の傾向として、仕事に対して真面目でストイックというのがあるという。



 視聴者(要するに世界)が要求するものに忠実なのだ、と言えば聞こえはいいし俳優の鑑みたいに聴こえる。

 でも、いったい何が彼らをして体や心を壊してまで無理をさせるのか?

 それは、この記事のタイトルにもあげたが『私の代わりなんていくらでもいる』という恐れなのではないだろうか。

 芸能界は、露骨な競争社会である。常にレースに出ていないと、走り続けていないと、今現在どんなにトップでも後ろに流されていく過酷な世界である。分かってない私たち一般人はネットニュースに『いつも見てます。元気をもらってます。どうかお気になさらず、ゆっくり休んでくださいね!』などとコメントしてしまう。自分はいいこと言ったという完全な自己満足付きで!

 彼らにしたら、とんでもないことだ。ファンには信じがたいだろうが、彼らは総じて自己イメージがそう高くない。こちらは『あんな個性的で素敵で唯一無二なタレントさんはいない』と好感を持っていても、向こうにしたら「自分はここに立ち続けていないと」という胃の痛くなるようなプレッシャーの中、気を張っているというのが現実なのだ。

 良心的な視聴者の言うとおりに休みを取り続けていたら、逆にそのほうが心と体を壊すことさえあるのだ。ムリに休むと、余計に心の中に不安と恐怖が増幅される。皮肉なことに、そういう人物は休みの日にも仕事関係のスケージュルで埋めることによって安定を得ているという側面もあるのだ。その限界が来てやっと、しぶしぶ休むのだが、公式ブログのコメントで『でも連ドラの撮影は途切れさせたりしません! それは頑張ります!』などと結局は言う。



 私たちは、タレントやアイドルで成功した人物というのは、完璧なる自己肯定力と高い自己イメージを持っていて、そのおかげでキラキラと輝けて好きなことを仕事にできて幸せそうだな、と単純に考える。

 でもその実は逆なことも多く、常に自分が今いる座を失うことに内心ビクビクしている。大衆という名の見えない怪物に捨てられる日が来るのをおびえている。その恐怖から、理性を超えて過剰に防衛してしまうので、度を越した忖度(最近話題の権力者の性暴力・枕営業など)ということが起きてくる。



●有名人というのは、自己肯定力や自己イメージの高い人間ばかりだと思わないほうがいい。

 そうでないほど、頑張ってしまう。頑張りすぎると、体調を崩す。それは一般人が風邪ひいちゃったから今日は休むわ、という程度の話ではなく、分かった時には相当の深刻さになっているものだ。



 話が変わるが、世の中には「有名になることがマイナスになる有名人」というのがいる。

 俳優(タレント)や歌手、お笑い芸人など「そもそも大勢の目にさらされることが前提」の人種ならば問題がない。彼らはその下積みの過程からすでに「人目にさらされる」中で自身のポテンシャルを十二分に引き出すことを訓練されるのだから。そういう意味では政治家も大丈夫だ。ただし腹黒いのはいるかもだが!

 筆者が怖いと思うのは、たとえば漫画家。そして似たところで小説家。そして一部のユーチュバーや特技を持った一般人。

 彼らに共通しているのは「最初は、自分が好きなことを孤独に発信していただけ。それがある時を境に多くの人々の注目を浴びる展開になってしまった」というところ。最初から「オレは売れてやるぜ!」と目立つことを目的としている者は別だ。

 だから、もともと大勢にチヤホヤされることに耐性がなく、そういう時のメンタルの持ち方の訓練すらしていない一般人はどうなってしまうか? 

 次の2タイプに分けられる。



①舞い上がって、調子に乗ってしまう。



②冷静に「これ以上は自分にとって危険だ」という線を見極め、それ以上はメディアに出たり露出が増えすぎないようにする。そんなことをしていてはいずれ人気は下降線をたどるだろうが、そもそも一般人でむしろこんな経験ができただけでも一生モノと思えば別に損でも何でもない。



 言っちゃ悪いが、漫画家や小説家なんて、発想がすごかったり絵がうまかったりするだけで、メンタルはほぼ一般人だ。むしろ社交的な一般人よりも内向的な人だって少なくないだろう。だから、冷水から一気に熱湯の中に入れられるような急激な変化、すなわち先生と呼ばれステータスの高い人や美男美女が寄ってきて知り合いになれる状況に、我を忘れる。

 具体例で言うと、キングダムという有名なマンガの作者などがそうだろう。最初は、漫画がうまいということを除けば、一般平均的な良き父親であったと思うのだ。それが……である。



 筆者は再三再四、有名人になるのは怖いことだと言ってきた。

 別になるなと言ってるわけではない。ただ、「敵を知り己を知れば百戦してあやうからず」という孫氏の兵法を分かっておかないと、本当にそれを実現できてしまったらそのあとこそが実はタイヘンだよ、と警鐘を鳴らしたいだけだ。有名人になれればいいことづくめ、なんて単純に考えている人たちに!

 私も、分不相応に名前が広まってお仕事が多かった時期に、いろいろと要求された。それは世間的によいイメージを持たれる戦略であったり、この先生には頭を下げたほうがいいという種類の「忖度情報」がもたらされた。あと、こういうことは言わないほうがいいとかも。

 もちろん、私たちが形成している人間社会はそれをまったくゼロにしては成り立たない。ある程度は必要悪であることは筆者とてわきまえているつもりである。この世界をまったくの無菌室にすることを要求するほど筆者も愚かではない。

 ただ、「度が過ぎる」ことには注意したほうがいい、と思っているだけである。ただ現実に、その「度を越したもの」が実に多いということがある。



 今後も本書では、大仰なスピリチュアル的情報暴露路線とかではなく、ただ皆さんが少しでも生きやすくなる小ネタ・小情報をささやかながら発信していきたいと思っている。

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