徹底して争いを無くせば人間社会は素晴らしくなるだろうか

 朝起きたら、ウチの二人の子どもがケンカしていた。

 テレビのチャンネル争い、というやつである。正確には、DVDの再生争い。お姉ちゃんはディズニー映画が見たいと言い、弟は妖怪ウォッチのDVDが見たい、と言って互いに譲らない。

 結局、その戦いはお姉ちゃんが勝利したが、負けた弟の不機嫌状態は続かず、ケロッとして姉と一緒に同じものを見ていた。



 筆者はその時考えた。

 たとえばウチが金持ちの家で、豪邸で部屋数も広さも十分あって、テレビが何台でもあったら?と。大きなテレビが何か所かにあったら、そもそも争いが起きない。

 でも、それはよいことだろうか? テレビが何台もあるからケンカにならない、という争いの回避は、本質だろうか?

 そんなことで争いが起きないことが、本当に人の宝足り得るだろうか?

 私は、単に争いが回避できれば何でも素晴らしいとは思わない。



●ある工夫で争いを回避できたなら、その工夫ができない状況や望み得ない状況では、不可避だということである。

 そこで人間の弱さが露呈するなら、それまでの「偽りの平和」に価値はない。

 人の真価は、「どんな時にも変わらず発揮できる争いの回避能力であり、優しさ」である。その訓練となる機会が、皮肉にも「不便な時どうするか」なのだ。



 家にテレビが何台もあって(それ以前に子どもたち皆に立派な個室とテレビがあって)、チャンネルごときで争う必要がそもそもない子どもと、フツーの数人兄弟の家庭でギャーギャー争って育った子どもと、いざというときの適応能力が高いのは、もちろん後者である。

 金持ちの子は、この世界の平和と社会体制が確実に続き、お家の繁栄も傾かず、一生涯守られ通したとするなら、その育ち方でも問題はない。しかし、諸行無常のこの世界で、「何かがあるおかげで」平和に過ごせているというのは、危なっかしい。常にその「頼る何か」が無くなってしまうかもしれない可能性と隣り合わせに生きているからである。

 裕福に守られ生きてきた皆が皆、小公女セーラのようにすぐに強くなれるわけではない。



 だから、人を育てる時には「何かがあって便利だからケンカがない」よりは「何がなくても、周囲との衝突をどうしていくのか、どう折り合っていくのかを学ばせる」 ために、あまりなんでも物の豊かさに頼らないで、「乏しい中であえて知恵を出して乗りきる」ようにしたい。もちろん、付き合う大人は少々しんどいが。(笑)

 人を育てない平和よりも、直面し乗り越えることで「人間力」のつくケンカのほうがいい。

 今の時代、スピリチュアルは雰囲気先行となり、愛とか平和とか善とか、そういう完全なる色合い一色が好まれる。でも、そんなものが育てる人材は、いい時だけ聖人のような雰囲気を醸成するだけの者達である。平時にはよいが、いざひどいことが人生で起きて直面せざるを得なくなった場合、本性を表す。



 把握力の低い人、抽象化能力の低い人は勘違いするかもしれないので、言っておく。今回の記事の趣旨は、皆便利さを捨てて貧乏になれ、モノがないからこそ、そこでどう生きるかのサバイバル人間関係術が学べるのだ、ということではない。ましてや、金持ちはわざわざテレビを1台にして子どもにケンカさせろ、と言っているのではない。



●あなたは置かれたその場所で、使えるものは使い自然に生きればよい。

 ただ、何でもオカネやモノで安易に解決して、それが本当によいものをもたらすのかどうか、意識の片隅でもいいから考えてほしい、ということ。

 容易に争いを回避する方法が、長い目で見た場合に本当に益になるものか考える。



 そういうことを言えば、本書の存在もそうだ。

 大抵のスピリチュアル発信では、読む人に発信者の好印象を与えるいいことしか言わない。はっきり言えば、皆「客商売」。

 お客は大事でも所詮は「他人」だから、嫌われる可能性をかぶってまで人を成長させようとは思わない。

 つまりは、あなたのくだらないプライドや気分を掻きまわさないという安心感があるので、安心して好きになれる。応援できる。そういうのエゴが大賛成なのだ。

 でもここは、あえてあなたの心をかき乱す。一定の思想・信条をもって生きている人をあえてカチンとこさせるように書いている。それは、筆者が皆に嫌われたいという「マゾ」だからではない。

 あえて、スピリチュアル実践者にケンカを売るようなことを言う中でその人が、「そう言われようが私はこの道を行く。やっぱり私にはこれなんだ!」と、改めてなぜそれをするのか、という原点の強化になれば、と思うからこそなのである。

 筆者の言葉は、「それでも、あなたはその道を行くのか?」という問いかけなんだと理解して、利用していただけたらと思う。

 この世界では、そういう形で問われる、試されることでしか成長しない部分もあるのである。

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