誰かが起たねばならぬ時

 時々、スマホにどこぞのスピリチュアルサイトからのメルマガが届く。

 筆者は賢者テラになる以前、興味をもって色々なところで購読を手続きしたので、その名残である。今は、もう読む必要も感じないため、来ないように購読解除すればいいのだが、いちいち購読解除も面倒なので来るままにしている。

 そして、来るたびに削除で済ましている。だが、たまにヒマな時出来心で、ゴミ箱行きにする前にメールを開いてみることがある。ネタになるかなぁと。(笑)

 そうやって久々に目を通してみたあるスピリチュアルサイトのメルマガが、トンデモなかった。



 それは、あるスピリチュアルなサイキック能力を開花させると謳ったセミナーの宣伝だった。「霊性を開花」 させる効果があるらしい……のだが、こんなQ&Aが載っていた。



Q.霊性が開花するということですが、それで怖い霊が見えたりしませんか? 不安です


A.安心してください。「愛のある高い存在」とのアクセスとなりますので、低い低級霊との交信をプロテクトできますよ。



 これを読んで、「ああこれは並のスピリチュアルだな」と失礼ながら思った。

 怖い霊が見えるのが怖くて、霊性を開花させようなんて笑止千万。

 大型バイクの免許を取ろうとしていて、「スピード出しててコケたら痛いですかね?」というアホな心配をしているようなものである。そら、痛いわな。でも、それでも乗りたいから乗るんとちゃうの? そうならないように、訓練を積んで注意をする力を付けていくのとちゃうの?

 私は、「真の霊性の開花」とは、自分だけ(あるいは似た高級な仲間だけ)が幸せになる道ではないと思っている。

 むしろ、並行して「そのような存在(低級霊)とも付き合って行く」ことも、霊性開花の道程には含まれてしかるべきだと考える。「低い低級霊」という言葉自体「頭痛が痛い」と同じで、意味が重複したおかしな日本語だ。これは、メルマガに本当にそう書かれてあった。



 スピリチュアルとは、人生の根本や宇宙の真理、といったある意味「学問の頂点」の位置付けになる。(もちろん、スピリチュアルを受け入れている人だけ限定の認識だが)そんな大事なものが、こんな程度の国語力で伝えられているのか?

 しかも、他人から少なからぬお金を取ろうとし、胸を張って会員に一斉送信されているのか?

 送信前に、「推敲」という行為をしているのだろうか。それとも、低い低級霊と言うことでさらに低級霊を貶めるつもりがあるのか?



 メルマガの説明を読むと、「低級霊は付き合っちゃまずい、避けるべき存在」みたいな印象を受ける。小さい頃、自分は上等な人間だと勘違いしている親からこう言われたことはありませんか? 「あそこの家の子とは、遊んじゃいけません」

 貧乏だから? 育ちが悪いから? 下品なことを吹き込まれたらイヤだから? 低級霊とは一切関わりたくない、というのはどうもそれと似たニオイがするのである。

 


 もちろん、まったく間違っているわけではない。

 成長途上では、未熟なうちには、ある程度整えられた環境で「ムリなく力を付ける」ことは大事である。これから基礎を覚えて、という時に、やたら「手ごわいやつら」ばかり相手にあてがわれたら、伸びる前に潰されてしまうことがある。

 でもそれだって、いい加減(いい塩梅)というものがある。適切な配分がある。まったく純粋培養で育ったら、実践で使い物にならない。かといって厳しすぎる訓練をされても、人によってはついて行けない。

 だから、「ほどほど」が大事なのだ。

 半分は、邪魔されず純粋に学べる時間。残り半分は、実地の人生劇場で色んなタイプの人と付き合う中で揉まれる、「泥も知る」時間。

 個人によって適切な比率は変わってくるが、どちらかが極端にゼロに近付くことはない。



●ある程度まではまったく悪い者に向き合わない。で、ある瞬間からは向き合う、では考え方としてうまくいかない。学びの最初から最後まで「ある配分を保ち、陰陽両面を学び続ける」ことこそが、成長の王道である。



 ちょっと、常識的な頭で考えてみましょう。

 あなたが、恐ろしいもの、低級なものをまったく相手にせず、スピリチュアリティなるものを守られた環境で育んだと仮定しましょう。さぁ、一定の学びを終えたことで、これからもっと高度なことや大変なものにも対処できるぞ! とかなり久々で低級霊に向き合ったとしましょう。

 恐らく、何にもできません。無力なままでしょう。むしろ、食われます。

 自分のことを良く思ってくれ、愛ある対処をしてくれる相手とばかり向き合って来た者が、あなたを憎む者、攻撃する者にいきなり向きを変えても、あなたにできることは何もありません。

 何かできるためには、常日頃からそのようなものと向き合っている必要があります。もちろん、四六時中である必要はなく、時々でいいんです。たまさか、でいいんです。

 低級霊を最初から自分の世界から省こうとする者が、至高の愛の霊性を開けるとは思えない。



 金持ちの坊ちゃんがテニスをしたいと言いだした。

 使用人たちは、坊ちゃんを傷付けまいとして、皆わざと負けたり、坊ちゃんが機嫌を損ねないように対応したので、坊ちゃんは「自分は誰よりもテニスが強い」と勘違いする。

 ある日、坊ちゃんは屋敷を抜け出す。

「自分はどれほど強いのだろう」と、腕試しをしたくなった。どれだけ通用するだろう? 坊ちゃんは、テニスコートでプレイする一般人を見つけた。

 どれ、教えてやろうと上から目線で手合わせをしてみたが、完敗。坊ちゃんは、今まで自分がやってきたことは何だったんだろう? と呆然とするしかない。



 筆者に来たメルマガが紹介しているこのセミナーは、そういう坊ちゃんを作って終わりになりかねない。低級霊を「付き合う値打ちのない相手」としておいて、何の霊性が開花する?

 イエス・キリストを見よ。

 彼は、貧乏人や病人、絶望した人々を相手にした。風俗嬢や犯罪者も含まれていた。今風に言うと「波動が低い」「ネガティブエナジーを発散している人」。

 関わって影響を受けたらこちらの波動まで下がる。おお、くわばらくわばら——



 聖書に時々登場する「悪霊に憑かれた者」は、今の時代でいう「精神疾患」のことだろう。当時は精神医学的な視点は皆無で、理解できない行動を示す者は「悪霊の仕業」で片付けられることも多かった。

 イエスが数多く悪霊退治をしたということは、ただ悪霊退治というのではなく「一般からは理解されない異常な人々とも付き合った(今風に言うと精神科医が精神病の患者に向き合った)」ことを示唆したものであろう。

 もちろん、皆がスタートからイエスのようではないことは認める。でも、真のスピリチュアリティは、真実の愛は、何かの意識体を指差して「低級霊」とレッテルを張って呼ぶだろうか?



●失礼な!

 障がい者、などという名前の人間はいない。みな山田さんとか、佐藤さんとか名前がある。

 低級霊、などという名前の人間はいない。ちゃんと名前があり、人生がある。

 そこんとこ、夜露死苦!



 もうね、「低級霊」って呼んだ上、「コンタクトしませんから」と安心させること自体ね……この世界全体を救う気はありません、意識の高い選ばれし者だけ幸せになります、って言ってるようなもんだよね。

 本当の霊性のティーチャーなら、「問題を避けることよりも、ぶつかって乗り越えることを教える」。まぁ、スピリチュアルといっても客商売でしょうから、お金をもらえてナンボでしょうから、神様であるお客を安心させることは何よりも大事なのでしょう。

 機嫌を損ねたら、終わりですからね。霊性が高いティーチャーでも、それが低い金持ちのお客にそっぽを向かれたら食って行けないので、「低級霊など遭遇しませんから、ご安心召されよ~」となるんだろうな。実践では(実戦と言ってもいい)そんな選り好み、都合よくできないのにね!



 僕は好きよ、低級霊。(皮肉であえてそう呼んでいるよ。皆名前があるからね)

 興味あるな。高い霊性をお持ちとやらの人と話すより、楽しいかも。

 スピリチュアルなら、なぜ友達になることを教えないのだろう? 相手の心の氷を解かすことを、植え付けないんだろう。

 それは別に一定の訓練を受けてからでないとうまくできない、ということはない。そんなの詭弁だ。気持ちさえあれば今すぐに誰だってできる。

 愛の実践とは、そうあるべきでないか? 能力とか資質とか、優秀かどうかということによらず、真心さえあれば誰にでもできるものでないなら、そんな世界に生きる値打ちはあるか?

 このセミナーで霊性を開花させてからでないと、というのは……ね。



 怖がるからこそ、向こうも襲ってくることがなぜ分からないんだろう。

 避けること自体が問題を起こすのに。

 低級霊を避けて、愛ある高い存在とのみコンタクトができる、と宣伝していた。もうそこからして、ズレてないか? 一体さ、何の基準をもって何かの意識体を「低級霊呼ばわり」しているんだろうか。

 それ(低級霊)だって、自分の人生をそれなりに一生懸命生きてきて、それなわけよ。筆者なら、申し訳なくてそのように呼べない。

 どんな人生シナリオにも、リスペクトを払うからである。



 最近のスピリチュアルで流行っているのは、「やりたいことをやる」「好きなことをする」。ちょっと視点を変えたら、それは「付き合いたい人とだけ付き合う」とも言える。

 イヤなやつは、最近のスピリチュアルの主流からしたら、まったく相手にしないのがよいのだ。でも、考えてもみてほしい。

 たとえば、ある小学校で、一番責任が重く仕事もキツイと噂の「なんとか委員」という役割があったとしよう。ホームルームで、学期の最初に色々な委員を決める。図書委員。給食委員。無難なものからどんどん手が上がっていき、最後に誰も手を挙げない「なんとか委員」だけが残る。

 司会者が、困惑顔で言う。

「誰か、やってくれる人はいませんか? 決まらないと、帰れません……」



 この世界で、皆が「心地よいことだけをする」とやったら、どうなるか。

 誰が、その「なんとか委員」をやるのか。

 一番最悪なのは、「やりたい」と望む者が誰もいず、クジびきとかになることである。なぜ最悪かというと、「クジで当たったから仕方なくやるのであり、動機で劣る」から。

 そこで、「よっしゃ。なら、オレがやったるわ」という勇者がいたら? クラスの皆は、拍手喝采でその人物を尊敬するだろう。自分にはできないことをしてくれるのだから。

 スピリチュアルというのは、その「勇者」を生みだすためにあるのじゃないの?

 しんどいことは避ける、という9割の人間を作ることじゃないはず。だったら、低級霊は避けます!って何……

 したいことをしたらいい、という考え方の人が使う言い訳に「皆個性や使命が違うから、それぞれが心から望むことをすればパズルのピースがはまるようにどの仕事も埋まる」という理屈がある。

 だから、皆が好き勝手したら誰もやらない仕事も出てくるんじゃないか、という心配はせずに、安心して好きなことだけしたらいい、という理屈になる。

 筆者も初期の頃一時、そのようなメッセージをしたと思う。だが、改めて言う。それは、自分がやりたくないことをやらないで済む言い訳にしかすぎない。



●それじゃあ、本当に誰もやらないよ?



 もちろん、好き好んで低級霊軍団に飛び込め、とは言わない。わざわざ、そういう者のところの輪の中へ突っ込んでいけ、とは言わない。

 でも、意識して避けよう、避けようとしなくてもよかろう。自然に出会う分は、それも縁だと思えばいい。何も、妖怪扱いして逃げ出さなくていい。

 筆者は、皆多少の違いはあれど結局「皆同じ」だと思っている。低級霊、なんて本当の意味ではいないと思う。それと同じで、高級霊なんてのもない。

 高級霊だと(自他のどちらか、あるいは両方が)思っているだけのことに過ぎない。一部の高級霊はぶっちゃけりゃ、ナルシストだな。自分を高級だと思っている者ほど、厄介な者はない。それならある意味、低級霊のほうがまだ付き合いやすい。



 だから、誰かが起たねばならぬのだ。

 誰かが行かねばならぬのだ。

 では、誰が?

 心からやりたい、という人が出現するまで放置か?

 今、そんなに余裕のある時代か?

 したくないからやる資格がない、なんて言い訳だぞ。スピリチュアルやってる人たちよ。あなたたち少なくとも、一般人より本質の価値を知り追っている、という自覚はあるんだよね? それがパスしてちゃあかんでしょ!

 イエスほどにやれ、とは言わない。ただ、必死に自分と合わないものを避けることはない。避けているうちは、一生分かり合えない。

 分かり合えない、ということは戦い続ける可能性が高い、ということ。

 誰かか勇気を出して、心を開いてこそ、世界は変わる。

 怒りく狂うオーム(王蟲)の群れに立ちふさがったナウシカのように。



 いつかは、低級霊と呼んで避けることをやめ、向き合う必要がある。

 いつかは、肩を組み語り合う時が来てほしい。

 ダメダメな魂が滅んで、心がけの良い者だけが携挙されてアセンション(天国行き)だなんて、私はキライだ。親兄弟や知り合いを残して、自分たちだけいいところへ行って楽しいか? 

 みんな一緒でないとヤダ、というのが、筆者のヒネた部分でもある。誰かが自分の下にいるなら、僕もそこでいい。

 サヨーナラー僕は意識においても愛においても上等だから、皆さんより上に行くね~またね~(実はまたねがなかったりする)なんて、それのどこが「高次元な愛」なのか教えて。



 皆さんのうち、一人でも「みんなほっとけねぇ! オマエもそこのやつも、皆仲間になろうや!」と立ち上がれる勇者が出てくることを期待している。それこそが勇者であり、真のスピリチュアリティだ。愛のエリートを育て、見込みのなさそうな者を無視したり、避けたりするところに成長はない。

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