あなたは死なない、私が守るから

 スピリチュアルや自己啓発で聞くことがある言葉、「他人を変えることはできない」。これは筆者も言ってきた。

 他人があなたの意見を採用する確率を高めるために、外側で汗をかくことはできる。でも、絶対はない。相手の選択に最終的にはすべてがかかっている。

 結局、人が手っ取り早くどうにかできる(ように見える)のは自分のことばかりである。その自分だって、なかなか思うようにならない。かえって、自分で自分がよく分からない、という状態になることすらある。



 その視点でいくと、「私があの人を変えてみせる、立ち直らせてみせる」とか「私が世界を変えてみせる」とか。そういうセリフを聞くと、たいがいのケースで「何だかなぁ」と思う。

 とっても空疎に響く。空回りして聞こえる。

 ドン・キホーテの蛮勇(威勢はいいが、気持ちは真面目だが無謀で、考えのない様子)のように聞こえてしまう。だって、たとえそれで相手が変わったとしてもそれは「その人の最終的選択であり力」なのだから。確かにあなたはそれに一役買ったかもしれないが、所詮脇役。

 決して、「あなたがその人(その人の人生)を変えた」という言い方は当たってなどいないのだ。

 謙虚さ、というものを持てれば「私があの人を変える」とか「なんとかしてみせる」というのは、すごく傲慢だしピントのズレた意気込みだと感じるはずだ。



 ただし、例外がある。

名作アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイの名セリフ。



『碇君、あなたは死なないわ。私が守るもの』



 通常の攻撃では勝てない最恐の敵、使徒に対して「ヤシマ作戦」が実行される。

 日本中の電気エネルギーを集め、遠距離からの砲撃によって敵の「核」を撃ち抜く。ただしこの作戦にはリスクがあり、あまりにも膨大なエネルギーを扱うため、もし撃ち損じたら二発目を撃つのに時間がかかる。もしその間に、敵の攻撃を受けたら作戦失敗は濃厚となる。

 主人公の碇シンジは砲手。綾波レイは盾となり、シンジの搭乗する初号機の防御役。不安を口にするシンジに、綾波は上記のセリフを無機質に言い放つ。



 創作の物語ではあるのだが、この場面では違和感がなかった。

「絶対にあなたを守る。死なせはしない——」。

 これは、普通口にする言葉ではない。いい加減に言い放つと、あなたはえらいものを背負うことになる。

 それほどまでに、慎重になってほしい類のことだ。たいがいのケースでは、実に歯が浮くセリフとなる。

 演劇の役で言うとか、冗談っぽく言うくらいしか、多くの人にとってこの種のセリフを口にすることはないと思われる。このセリフが真剣に言える機会にあなたが幸か不幸か遭遇することがあれば、「何かが自分の体を借りて言わせている」ような、ちょっと真空にでも浮いたかのような浮遊感に囚われることだろう。

 自分が自分でない、みたいな。

 おそらく、この時って自分という個を越えて、無数のものが音叉のように共鳴しているのだろう。時間軸さえ無視して、過去も未来も、直線軸を超えて。



●あなたが「本気」である場合。

 命を懸ける、という言葉が嘘くさくないほどに真剣である場合。ある種の、荘厳な鋼鉄の芯から伝わってくる振動が、「そう言え」と命じている場合。

 あなたは、他人に干渉して何かできる、という種類の言葉を言う資格が生まれる。



 事実として、人が他人を変えるなど(観察された現象としてはそう解釈できても、真実はそうではない)無理だとしても、あなたのその想いのほどにそう言うに足る重みがあるなら、言っていい。

 その言葉は、人を世を貫く槍になる。その槍(言葉)は、無形で捕えがたいあなたの思いを具現化するための道具である。あなたはその槍に想いを載せて、投擲する。



 他人を変えることはできない——。

 それは当たっているが、その当たっている事実を吹き飛ばすほどのエネルギーが、人にはある。もちろん、本当に吹き飛ばすわけではないが、地の視点では本当に何らかの仕事を成し遂げる。

 筆者は、胸に手を当てて考える。

 私は誰かに、このような言葉を言えるだろうか。そして、その言葉が決して嘘ではないと示せるだけの、裏付けできることをしているか?

 うん、している。筆者の人生は、まだ本当のクライマックスを迎えていない。

 だがもちろん、ある視点から言えば……



●俺様は、いつだってクライマックスだぜ~!(by モモタロス)



 ……なんであるが、普段のそれをさらに超える時がまだまだ来る、っていう相対的な視点の話ね。

 それは、もう胎動している。

 近い。

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