組織とはひとつの生き物である

 うちの近くに、極真空手の道場がある。

 大昔、『空手バカ一代』という漫画が流行っていた頃、空手と言えば「熱くたくましい男が真剣勝負でやるもの」という、一種生半可な気持ちでは寄り付きにくい感じがあった。

 昔のボクシグジムでも「覚悟のない者、ハングリー精神のない者お断り」的な雰囲気があった。それがいつしか、時代の流れとともに変化していった。

 今、道場の入り口を見ていたらよく見かけるのは、女性と子どもの姿である。

 女性向けには「健康増進・美容とダイエットにも最適」みたいな宣伝。

 子ども向けには、(最強というよりも)心身共に健康な体作り、情操教育にも良いというふれ込み。昔なら、強さと自己の限界への挑戦でもよかっただろうが、それでは女性や子どの保護者にドン引きされる。

 昔みたく、強さを極めようとする肉食系男子は減少し、草食系と呼ばれる男が増え、昔のような野性的男性入門者の落とす月謝だけでは台所事情が大変なのだろう。

 もちろん、極真の精神は老若男女問わず普遍的に通じるものだから、誰に教えようがOKなのではあるが。それにしても女性や子どもにも有効、提供したいという動機以上に「現状対応策」という感じがして仕方がない。



 時代が変わろうが、食べていかないといけない。稼がないといけない——。

 創始者の大山倍達おおやまますたつだけなら、彼自身の思いと活動がすべてでよかった。

 しかし極真空手が世界中に広まり、こうも関わる人間が膨大に増えたら、それは創始者以外の多くの人の思いも取り込み、肥大化し、まったく新しい命を持つようになる。そうして大きくなり過ぎた組織は、創始者の手を完全に離れる。

 離れるというより、もうどうしようもなくなる。コントロールを失う。

 なぜなら、一人用の操縦者の搭乗席(コクピット)は、もうないからだ。組織自体が命と意思を持ち、勝手に動き出すからだ。



 組織とは、それを構成する個々のメンバーが作り上げていると思われている。

 そして皆の意見が検討され、民主主義をもってリーダーがまとめあげ、維持しているというのが常識的な考えであろう。でも、筆者が知った視点からすると——



●組織というものができた瞬間に、それは構成員やリーダーとは関係ない、全く独立した一つの命となり、意思と呼んでも差し支えのないもの(その命のエネルギーの志向性)が生じる。

 そしてやがて、構成員の一人ひとりの思惑など関係なく、勝手に走りだす。そうなるともはや、現在のリーダーや創始者ですら全体を制御できなくなる。



 もうね、組織を作った瞬間にね、それは子どもを生んだようなものだと思え。

 子どもはかわいいが、親の持ち物ではない。自我をもち、考えと意思をもち、時として親の言うことを聞かず、反抗する。親に迷惑もかければ、怒らせたり失望させることもする。

 それを、親は完全コントロールできないのと同じ。



 おそらく、極真空手の草創期のメンバーや今は亡き大山会長が現在の極真会を見たら、どう思うだろう? 親が我が子を見るような、かわいさ半分心配半分、という眼差しで見つめることだろう。

 時代は、変わったのだ。でも、次のように言う人もいるだろう。

「いや、たとえ時代が変わっても、大山先生の・極真の神髄は変わらない」と。

 極真空手のスピリットは、表面的な様々なことが変わっても普遍だと。ちゃんと受け継がれていると。



 悟りの観点からは、この世界に絶対に変わらないものなどひとつもない。

 モノや現象だけではなく、真理とか概念と呼ばれる目に見えないもの、法則すら変化する。いやなことを言うようだが、草創期の極真空手は今はもうない。

 新しいもの、更新パッチを当て続けた変わり果てたものしか残っていない。だがそれは悪いことではない。むしろ、良いことですらある。

 そうやってこの二元性世界は時の流れという更新パッチを当て続け、変化を重ね続けて新しいものができ続けていく。



 えっ、法則とかも変化するんですか、って?

 します。

 でも、法則って「例外がない」「絶対に変わらない」からこその法則なんじゃ?

 はい。だからこの世界に法則ってのは存在しないんです。(笑)

 重力の法則だって、地球上の物理法則だって、まったく当てはまらない宇宙もありますからね。

 私たちの目の黒いうちはまぁないですが、億単位の年月もすぎればここ太陽系においてですらそれは変化するでしょう。(そのころにそんなものは消えるか、まったく変わってしまっていると思いますが)



 だから、組織を作ろうとする時、創始者はあきらめないといけない。

 もはや、自分の手に余る怪物になっていくということを。もしかしたら、自分の思いなどまったく汲まず、あらぬ方向に走っていく未来の可能性だってある。

 でも、そのリスクも含めて受け入れる覚悟が必要。それが嫌なら、最初から組織などつくるんじゃない。

 スピリチュアルの世界もまた然りである。

 最初個人で活動し、そう多くない固定ファンを相手しているうちは、そのサークル(輪)の中では指導者の采配こそがすべてである。大変だが、自分で全部決定できる。自分の純粋な意図が反映しやすい。

 しかし、売れ出すといろんな人がしゃしゃり出てくる。実際活動が大きくなると、いろんな人の手を借りなくては成立しない。

 で、「ここは別に任せる」という形で権限を分散し、それを繰り返していくと究極にどうなるか?



●創始者(看板のそもそもの主)は、表向きの主役でしかなくなる。

 天皇(象徴としての)の位置付けと相似形になる。



 あくまでも純粋性を保ちたければ、あくまでもあなたがコントロール権を持ち続けたければ、組織を作らないのがオススメである。

 たとえしょうがなく誰かのお世話になるとしても、運営システムというようなかっちりしたものを作らず、あくまでも個々人間でもちつもたれつ、という感じにしておくのがよい。

 個人的お付き合いの範疇でスピリチュアル活動するうちは、主権はあなたにある。

 組織化すれば「個人の努力では限界があるので、組織化すればもっと広く拡散できる」という目的には適しているが、あなたは全体的なかじ取りの権利を失う。

 あなたはそれでも自分が決めていると言い張るかもしれないが、無意識の部分でかなりの程度、色々な人や現状要素に配慮した決定を下しているはずだ。そこに気付いていないか、あるいは気付きたくなくて目を背けている。



 これで失敗しているのが、イエス・キリストである。

 最初、彼の斬新な目新しいネタの話に大勢が魅了され、ファンが異常増殖。

 交通事情も悪く、通信手段も原始的な中ですら、数千人が彼を追いかけたりした。

 当然、人員整理も必要だし広報、苦情対応、聴衆の食糧調達など色々な管理が必要になってくる。

 もう、組織と言っていいくらいの集団に膨れ上がっても、イエスの意識はひとりで好き勝手にやっていた時のままだった。自分の周囲の変化など気にせず、なんら言うこともやることも変えなかった。配慮も忖度もゼロ。

 忖度とは度を超えると害があるが、匙加減をうまくすれば良いものである。まったくないとそれは逆に害を及ぼす。

 結果、多くの人の「やってられん」という反感を買い、皆離れた。

 ヨハネによる福音書には、そうやって最後には12弟子と言われる側近しか残らなかったという話がある。

 彼は、確かに組織を作る気はなかったし、周りが勝手に動いたのだということはある。それでも、イエスにも責任がある。



●積極的に組織づくりをしなくても、放っておくのは同意と同じ。



 現代でも、覚者自身はメッセージすることしか関心がなくても、いろいろ周りが巻きこんでくるのに無頓着にホイホイ黙認する場合がある。ああいいよいいよ~みたいなノリで他人の話にのっているうちに、気が付けばたいそうな活動になっていたというのはある。

 当人にしたら本当に「流れなら、どうでもよい」境地なのだろうが、でもやっぱりそこは気を付けたほうがいい。

 悪い虫が寄ってきて、ダメにされるメッセンジャーもいる。そんな時、「どうでもいい・こだわらない」「大丈夫」を使ってはいけない。

 どうでもよくない! このままでは大丈夫じゃない! こだわれ!

 ちょっと手綱をしっかり引こうよ、と言いたくなる指導者も世界には少なくない。



 私見だが、スピリチュアルは積極的に宣伝しなくていい。

 広めなくていい。分かる人が分かればいい。

 じゃあ分からない人はダメかというと、その人にはその人の世界がある。その世界でその人なりに幸せになれるように宇宙はできている。

 逆に覚者は、自分の言うことに接点を持てない、違うワールドの人の宇宙など理解しないだろう。お互い様である。どっちが優れているということはない。

 スピリチュアルなぞ、組織化して広めるほど大した内容ではない。(爆)

 むしろ、趣味の世界で、本当にマニアな人が愛好すればいいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る