思い切って確認作業をしてみよう
今からあなたに、想像いただきたいことがある。
知らない女性がこちらを見て手を振っている、というシチュエーション。
あなたは一瞬考える。あれ、あの人どこかで会ったか? 覚えがないなぁ。
こちらが忘れているだけで、向こうのほうではこちらを知っているのかもしれない。それなら、知らないからと無視するのは失礼になるので、ここは軽く会釈でもしておくほうがいいのかな……? なんて悩む。
でも、何となく胸騒ぎがして自分の後ろを見てみると、その女性の待ち人が手を振っていた、なんてことがある。自分はたまたま、その二人の間にいたに過ぎなかったというわけだ。
あ~恥かかなくてよかった! なんてあなたはホッとするかもしれない。もしにこやかに挨拶などしていたら、自分のいないところでその二人があなたの勘違いをネタに大笑いするかもしれないからだ。
こういうケースは、まだいい。他人だから、笑われても「旅の恥はかき捨て」で済む。だが一番恥ずかしく悲惨なのは、その女性が他人ではなく多少なりとも知っている仲の場合。
さえない男子高校生が、目の先でクラス一かわいい子がこっちを向いて笑顔で手を振っているのを見て、自分かと思いヘラヘラ手を振る。しかし、そのすぐ後ろにイケメン男子のクラスメイトがいて、そっちにしたあいさつであることに気付き、どうリアクションして立ち去ったらいいか必死で考える。
そして悲しいかな、その男の子はほとぼりが冷めるまでからかわれ続ける。
ドラマとかでも、向こうから駆け寄ってくる女性を抱きとめようとしたら横を通り過ぎていき、後ろの別人と抱き合うというオチがある。
どちらかというとコメディーで使われることが多く笑う場面なのであるが、実際に起きるとお笑いどころか、スカされた本人には残酷な悲劇であろう。
筆者も今朝、起きるのがちと遅めだった。寝ぼけた頭上で、奥さんの声がした。
「トマトジュース、飲む?」
好きではない私は一言。「……要らないよ」
でも、それは私にではなく、寝ている私の足元で遊んでいた子どもに聞いたものであった。
「分かってるわよ。あんたに聞いてない!」
日頃バッサリ人を斬るスピリチュアル版「人斬り抜刀斎」は、奥さんにバッサリ斬られたのであった。
人生には、大なり小なりこのような現象がよく起きる。
●自分に向けられたものだと解釈したが、全然そうではなかった。
自分へのメッセージだと思ったが、そんな意味は込められていなかった。
それはただ起きただけで、偶然あなたの近くでそうなっただけで、別にあなたに何かを教えようとか罰を与えようとか、そういう隠された意図は何もなかった。
すべては、ただ起きている。
そこに、人間が勝手に付与してしまう個々の主観(エゴ視点)からの希望的(あるいは自虐的)観測があるだけだ。
たとえば、美少女JKがこちらを向いてニッコリ手を振っていたら、「あ、自分かな? オレもななかなか捨てたもんじゃないな」が希望的観測。「どうせオレなわけねぇ」が自虐的観測。
先ほどの例のように、自分への挨拶かと思ったら他人へ向けられたものだった、というように、すぐにその真実が確認できるものはいい。
やっかいなのは、その判定が容易でないケース。それに関わった人間が遠くへ行ったりいなくなったり、状況が変化してしまい「実際どうだったのか、という真実が確認困難になるケース」が出てくる。
そういったものは、あなたの中で「未処理棚に放り込まれた書類のように、ずっと気にかかったままになるモヤモヤ」になってくすぶり続ける。さらに放置すると、痛みや悲しみにまで成長する。
筆者にも、古くからの知り合いとの間でそういう体験がある。子どもの頃、その人物との間であるトラブルがあって、その事件に関して私にはどうしても分からないことがあった。そしてそれは、気軽に相手に聞けない内容のものだった。
それは、謎が解ける高校生の時まで続いた。「あいつは、あのことどう思っているんだろう」というのがずっと分からなかったのだ。
今回のメッセージの要諦。
●確認作業を、怠るな。
確かに、それは時として面倒なことは面倒である。
あと、プライドや面子といったものも邪魔する。相手の反応も、気になるところである。そんなふうに自分都合のあらゆることが、あなたの「確認作業」を邪魔してくることだろう。
本当はまだお互いに愛があるのに、相手の心はもう離れたと勝手に思いこんで絶賛遠距離中の男女もいたりする。この二人がもしお互いの心を覗くことができたら、大笑いするだろう。
でも現実は残酷で、そんなことはできない。よほどのことが起きない限り、この二人の誤解は変わらないままだろう。何でもかんでも、テレビドラマのように解決したりしない。
だったら、「そのよほどのこと」を起こせばいい。いや、それしか方法はない。
色々なものが、あなたを説得してくる。やめろ、と。
どうせムダだとか、行動を起こしてスカしたら恥ずかしいだろ、失敗した時のことを考えろとか。
負けても、説得されて何もしなくても別に悪くはない。それもまた、人生の味わいのひとつ。
でも、恥も外聞もかなぐり捨てて、思いっきり恥ずかしい「確認作業」をやってみるのもまた一興。
手を振っている知らない美少女に「まさかオレ?」などと聞かなくてもいいが、人生で「真実」がわからずモヤモヤしているもの、しこりとなっていることがあなたにあるなら。関係者が生きていて、確認が取れるなら。証拠を確認しようと思えばできる状況が少しでも残っているなら——
さぁ、動きたまえ。今日。
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