『やりたいことだけをやる』 は子どもの遊び

 世の中では、どうも人々を腑抜けにするような「いいことしか起こらなくなる」とか「幸せ一色の世界」とかいうメルヘンスピリチュアルが幅を利かせている。

 まぁ勝手にすればいいと思うし、ついて行きたい人は世界を広く見つめる目を封印して、視界をせばめてその世界に浸ったらいいと思う。

 まぁ、この調子だと「地球人間ゲーム」はまだまだ続く見通しだから、それはそれでいいことなのかも。

 その「分かってない」状況を、どれだけ長く保たせるかがカギなのだから。



 一番笑ったのは、「もう不幸には後戻りできない。幸せしかない」というフレーズをあるスピリチュアル関連のブログで読んだ時。

 それは詐欺である。いや、油断したら誰だって簡単に戻れますよ。あなたがその事実に目をつむろうとしているだけ。

 事実はどうあれ、打てる手として「自己暗示をかける」ということなら賛成だ。幸せと感じられる時間を少しでも増やすためにできるだけのことをする、という意味での方便ならOK。

 でも、「不幸には戻らない」をなにか達成可能な事実(真実)としてメッセージしているなら、バツ。

 覚者(と名乗る人)だって、簡単に不幸にできますよ? ただ、今が時でないだけ。その時が来るまでは、好きにはしゃげます。

 そういうえせスピリチュアル系のウソをこう例えよう。



●あなたが青いペールのゴミ箱にゴミを捨て、フタをする。

 ゴミは、とりあえず視界から消えたので、「なくなった」と錯覚できる。

 でも、フタで遮られて見えないだけで、フタの裏に依然としてゴミはある。

 ずっと放ってはおけないでしょう。いつの日にか、あなたはまたそのゴミを目撃しなければいけない日がやってくる。で、その時に愕然とする。

 ゴミはゴミ箱に捨てた(自分はすごい精神ステージに突入し、過去のようなイヤな思いはもう捨てたのだ! あの頃に戻ることはあり得ないのだ!)と思いこんでいたのに、ゴミはやっぱりあった。

 自分は大して変わっていなかった、とそういう良い気持ちだけ、良いことだけに目を向けるスピリチュアルや自己啓発をやりぬいた果てに、気付く。



 超至福の状態は、体験し発信している当の指導者しかならないのだと思ったらよい。でもその人だって、時間が経ち変化の波にさらされれば、分からないよ。

 そういう宇宙シナリオの人がそうなるのであり、ならない人はならない。

 他人を見て「隣の芝生は何とやら」でうらやましがってマネをするより、自分が生きたい生き方をすればいい。自分のできる範囲で楽しみを見つければいいので、何もぶっ飛んで幸せそうな人を見て、あこがれて背伸びしてマネしなくていい。



 と、ここまでは余談。

 今回の記事のテーマは、「やりたいことだけをやる」というスピリチュアルでは流行りのこの言葉、浅い捉え方しかされてませんね! という指摘である。



 陰陽、というペア概念がある。

 相対世界、とこの世界を呼ぶのもこれで世界が成り立っているから。

 対の関係。極と極。分かりやすくは、反対な性質を表す者同士。

 光と影。男と女。上と下。熱いと冷たい。長いと短い。重いと軽い。左と右——。

 一方で、スピリチュアル界には「ワンネス」という言葉がある。

 これは別名を「おおいなるひとつ」とも呼ばれ、一切の分離がない「いち」の状態を指す。一切の分離がないそれは、相対に対しては「絶対」、二元に対しては「一元」。

 相対世界において、すべての事象が陰と陽という「ペア」で成り立っているので、それは「2」という数で表現でできる。すべてが2以上の数をもってしか存在できない。しかし、ワンネスでは上と下とか、光と影ととかそういう「あれとこれ、というペア構造」がないので、「1」。または「0」という数で言い表されるのがワンネスであり、また「くう」 である。

 


 やりたいことだけををやる、と皆さんが口にする時。

 それは、二元性の「陰陽ペア」の片方の次元である。つまり、「やりたいこと」とその一方で「やりたくないこと」があるわけである。

 正反対のペアの内の一方を偏って追い求めよう、といういのが平均的スピリチュアルや自己啓発。だから、そこにはハッキリ成功か失敗かの判定ができる。

 あなたが「幸せでない」と感じたらまちがいなく失敗だし、あなたが今「幸せだ」と感じているなら、とりあえず今は成功、ということ。しかし、ボクシングのチャンピオンがいつまでもタイトルを防衛できないように、諸行無常のこの世界においてはすべて変化という魔物から逃れられない。

 素敵な彼氏と出会って婚約までして、幸せの絶頂にいたが、数か月後に結婚詐欺だと分かることもある。その時になって、天国から地獄に落とされるということも世の中にはある。

「幸せであり続けることが目標達成」とあなたが定める限り、あなたは悟り級の気付きを得るまでは何千年でも、その成功と失敗を繰り返し続けるだろう。

 


『進撃の巨人』という人気マンガの実写映画を見た。(マンガ原作は未読)

 その中に、水﨑綾女演じる「ヒアナ」という女性キャラが出てくる。

 子どもを何人か抱えるシングルマザーで、巨人討伐に志願すれば子どもの養育費は国がもつ、ということで兵士となった。つまりは、格好いい理由の代表格である「世界を守るため」とかいうこともなければ、「自分が心からそうしたい」というのでもない。ただただ、子育てのためである。割り切りもここまでくるとすごい。

 多分、平均的スピリチュアルなら彼女の選択を「心からの純粋な選択ではない!」と言うかもしれない。本当は戦争などしたくない。巨人と戦いたくなどない。でも、子どもを育てるカネがないのだから、志願するしかない——。だからこれは、義務であり我慢であると。

 しかし、筆者ならこう言おう。



●ヒアナは、最も望むことをしているのである。

 人間が結果として何かの行為を選択したら、それは最終的な意味合いにおいて「本人が一番したかったこと」なのだ。



 筆者の世界観でいうなら、「人間はこの世界で、したいことをする以外にできない」のである。したくないことをする、などというバカなことは実は起こらないのである。

 皆、相対性で考えるので「したいこと」「したくないこと」という白黒レベルで考える。それで「どっちがいいか」と考えているうちは、幸福達成ゲームで成功した失敗したとずっと騒ぎ続けるだけになる。

 しかし、幸も不幸も結局はコインの裏表であり、どちらかを無くすことはできないと気付いた時。結局、その両者すら統合された領域(先ほどの例えで言えばワンネス)があることに気付いた時。あなたは、ラットレースから抜け出すことができる。

 つまり「不幸になんかならない、ずっと幸せじゃ~!」というレベルの話ではなく、『人生でいかなることが起こっても、それはそれ。物事の様相が両極のどちら側に偏っているか(願わくば自分が望むほうであってほしい)で一喜一憂するレベルを卒業し、もっと上からその両極を俯瞰できる』、落ち着いた視点をもつレベル。

 これだったら、スピリチュアルとかちょっと図々しく「悟り」と呼んでもいい。

 目に見えない精神世界のことを扱ってさえいたら、何でもスピリチュアル!なんてくくりで名乗るのは、図々しい。



 だから、やりたいことをやりましょう、というのは戦い方がまだ初歩。

 いや、実は何をしたって本当にやりたいこと以外やれないのだ、というのがその上の気付き。それが分かると、「やりたいことだけをやろう」というメッセージが馬鹿らしいというか、幼稚臭く聞こえる。そうしかできないのに目指しているので、滑稽なのだ。

 皆さんの目に、「やらされている」「したくないことを頑張ってしている」と誤認されているだけなのだ。事実、そんなことはあり得ないのだ。つまり皆さんは自分の決定責任から逃げているのだ。

 実は、自分に最終責任があるのに。その責任において選び取ったことなのに、人のせいにする。社会のせいにする。やりたいことができてないと言う。

 やりたいことを選べるようになりたい? 甘えるな。あなたはすでに、やりたいことを選んでいる。ホラ、「こうするしかない」ということを、あなたという神の責任において、立派に選び取っている。

 


 だから私は、日々自分のしてる行為がやりたいことだとかやりたくないことだとか、考えない。

 今自分がしているのはそのどちらか、などと考えない。何をしても、それは一番深いところですべて「今自分が一番やりたいこと」なのだ。

 相対の次元ではなく、統合された次元で発想している。人間というものは、そこに行きつくまでは、超幸せそうな他人に頼ろうとすることだろう。勝ち負け、成功失敗で言う「自分がこっちであってほしいと望む方」にいるために。

 人は特定のどこかに位置し続けることなどできない。

 なぜなら、我々は「存在のすべてであり、様相のすべてであり、極から極までの間のすべての要素で構成されているから」である。すべてであるから、短期視点では偏ることはできても、長期視点ではすべてを巡ることになる。



●この世界は、残酷だ……。

 そして

 とても美しい。



~映画 『進撃の巨人』 予告編より~

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