安全圏にとどまり続けますか?

 これから話すのは、筆者が以前スピリチュアル活動で表舞台に出ていた頃、ある程度のお金が稼げていた頃に実際にあったエピソードである。

 それは、ある日筆者にかかってきた一本の電話がはじまりだった。とある会社からだったが、筆者のセミナーなどの講演活動をサポートしたい、というのである。

 これまで、その手の話を真面目に聞くとオチとして「そのために、まず最初に~十万円を払っていただく必要があります」と言われるのだった。自費出版を持ちかけるのと同じで、結局私の活動やコンテンツに惚れ込んで、是非やらせてくださいというのではないのだ。

 あなたのお役に立ちたい、サポートしたいと言葉こそ美しいが、とどのつまりは金儲けのために近付いてくるのだ。もし本当に私の活動に注目して、素晴らしいと思って連絡してきたというのなら、なぜお金を取る前提?



 これまで数件そういう話を聞いてうんざりしていたので、私は電話の相手(20代の若い女性社員だった)に、つぎのような言葉を投げかけた。

「どーせ、話の最後にはいくらいくらかかります、っていうオチなんでしょ? 電話切りますよ!」

 でも、電話口の女性は今までと違うことを言った。

「いいえ、賢者テラ様からお金をいただくことは一切ありません!」

 プロモーションする以上は、収益の幾パーセントはいただきますが、最初からなにかの料金を取るようなことはありません——。確かに、彼女はそう言った。

 もしかしたら今までのとは違うかも? という思いが生じたので、後日直接会って話を聞いた。そして、契約書を作成する前段階まで来た。

 私はここまでを、ほぼ誰にも相談せずに、自分ですすめた。



 でも、ふともっと調べてみる気になった。

 ネットで、その会社名を入力して検索をかけてみる。その会社のホームページがまず検索結果のトップにあったので眺めていると、まぁよくできた、優良企業っぽい作りではあった。別段怪しい感じはない。

 好意的なものだけみても仕方がないと思い、キーワードに「評判」というのを加えてみた。すると、その会社があるクライアントとの揉め事で、裁判を起こされていることが分かった。

 真面目にやっていても、そういうこともあるかもしれない。でももしかしたら、本当に問題があるのかもしれない——。ちょっと分からなくなった私は、頼れそうな色んな方に、この話を打ち明けてみた。

 そうすると、皆一様に『手を出さないほうがいい』という結論だった。

 少々心が痛んだが、多方面からの忠告を受け入れることにした。せっかく契約手前まで話が進んでおきながら申し訳ないが、この話はなかったことにしてくれ、と断った。

 裏を返せば、契約完了する手前で踏みとどまれてよかった、ということでもある。いったん契約してしまった後なら、ごめんなかったことにして、と言うにもただでは済まなくなる。



 筆者が先の会社の誘いを断ってから、二日くらいたった頃。

 私を担当し、電話口でもお世話になり実際会って話もしてくれた女性営業マンが、メールをよこしてきた。

 どんな情報をどんな形でお聞きになったかは分かりませんが、ウチとしては本当に賢者テラさんの活動を素敵だと思い、ただただその活動をバックアップしたい、という気持ちなんです。動画配信も見ました。ご著書も読ませていただきました。決してご想像されるような問題はなく、ただより広くご活躍いただけるようにとの一念から声をおかけした次第です。もう一度、きちんとお話させていただく機会をいただけましたら、幸いです——。

 まぁ、見た目誠実で丁寧な文章ではあった。

 でも私は、「さようなら」という言葉とともにそのメールを削除した。

 このメールが私の心を動かさなかったのには、ある理由がある。



●この女性は、『安全圏』からしかものを言っていないから。



 今から述べることは、要求が高度であることは承知の上で、あえて言う。

 本当に、本当に私のメッセージに感動し、私を支えたいと思ったなら。何も、仕事の枠の中だけで私を支えようと思わなくていい。個人的に、その方が(会社抜きで)筆者のファンになればいい。

 講演会に来てくれたらいい。さらに興味を持っていただけたら、個人セッションを申し込んでもらってもいい。会社という枠を超えて、その方一個人としてファンになってくれても構わないのである。

 本当に私の話を面白いと思い、活動に賛同してくださるというのなら、その方の仕事としての提案に乗る乗らないに関係なく、私との関係は続くはずである。

 しかし。仕事のラインにこちらが乗ってこないと判断するや、その方から連絡はこなくなった。仕事では残念でしたが、個人的には応援させてもらいます、の一言もなかった。そんな人間関係は、私は要らない。



 この世界の多くの人は、「安全圏にとどまって生きている」。

 どういう意味かというと、ある枠の中・ある条件のもとにある場合にだけ、人に優しくする、親切にする、骨を折ってあげるというものである。

 たとえば、お金を払ってなんらかのサービスを受けるというのがそうである。

 サービスの提供側と受け手を結ぶものは、お金である。それがあるから提供側は笑顔で接客し「お客様」と大事にするわけで、それがなかったら「しっしっ。帰れ」となる。もちろん露骨にそんな表現はしないだろうが、ホンネはまぁそんなところである。カネ払う気のないやつぁ去れ! が商売の基本である。

 だから、今回その会社の女性が「筆者の本を読んだ、動画配信も見た、面白くってサポートしたいと思った」とは言っても、それは自分の会社のサービスに乗っかるのでないといけないわけだ。そういう意味では、女性の言葉はウソである。会社を利用してもらえないんだったら、ホンネでは私なぞどうでもいいわけである。



 皆さんの友人・知人関係は失礼を承知で言うがほとんどがこの「安全圏どまり友達」のはずだ。何も試されるような事件が起きないから仲良くしてられるだけで、いったんあなたの友達でいるのがタイヘンな状況というのが生じた時、化けの皮が剥がされる。大変な事態が起きた時にこそ、あなたと付き合うことで何らかの利益があったから友達だったのであって、それがなくなれば途端に友達関係は解消する、という程度の関係だったと分かるのだ。

 自分の安泰と、そのタイヘンな友達を大事にし支え続けるために必要なエネルギーやリスクを天秤にかけたら、9割のケースで「自分の安泰」にはかりが傾く。だから、あなたに大変なことがあったらほとんどの友達は逃げる。



 安全圏を超える関係というのは、基本一人ひとつやふたつはあるのが自然である。

 まず、親子の関係。これは、利害損得を超える。この地上世界で最も美しいもののひとつである。

 次に、男女の関係。これは、親子の絆には一歩譲るが、それでもかなり近いところまで安全圏を超えた関係性を実現できる。

 三つめに紹介する「友情」というのは一番厄介で、この関係で「安全圏を超えさせる」というのは、よっぽどのことである。それをできた人物がいたら、例え100の会社をつくり上げ繁盛させたとしても、その友情に比べたら爪の垢ほどの価値もない、というくらいの偉業である。



●安全圏を超えさせる人間関係とは、まずは親子。これは比較的得やすい。

 次は、ちょっとだけ持つのが難しい「男女(異性)関係」。

 そして、一番完成には難易度が高い「友情」。



 友情で安全圏を超えられるなら、それは地上最強の宝である。

 それを築けた人物は、偉人である。決して地位や財産ではない。

 でも最近は残念ながら、親子であっても安全圏を超えられない人も出てきた。

(まぁいつの時代にも一定数いるのだろうが)

 虐待。パチンコしてて子どもが車の中で暑さで死亡とか。

 この世界で一番難易度の高い人生のゲーム選択は、「安全圏を超えられる関係がゼロ」という人生である。



 筆者は思う。

 たとえばここに有名人がいて、そして知名度のない一般市民がいるとする。

 表面的には、その人物を知っている人の数、人気度は天地の差だろう。

 でも、「その人のためなら安全圏を超えられる」という人以外を削ぎ落していくと、意外や意外、案外有名人と一般人でほぼ違いがなくなる。

 いや、ことによれば有名人の方が一般人よりもその絆が少ないこともあり得る。

 このことに気付いた時、私は無駄に有名にならなくてもいいと思った。(願いかなったりか、皮肉にもそれは簡単に現実化している)

 2~3人でいい。「まさかの時の友こそ真の友」ということである。それ以外、友達別にいなくていい。

 行く先々で慕われなくていい。



 皆さん、胸に手を当てて「誰が私のために安全圏を超えてくれるだろうか」と考えてみよう。

 また、「私は誰のためになら安全圏を超えられるだろう」とも考えてみて。

 もしそれが親子関係くらいしか思いつかないなら、せっかくこの世ゲームに参加しているのだから、ちょっと寂しい。簡単につくれるものではないが、つくる秘訣をちょっと。



●誰かが安全圏を超えてきてくれるのを待つな。

 まず、あなたから安全圏を超えてみせなさい。

 そうすれば、そのあなたの輝きを見て、他の皆も思い直すだろう。

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