すれ違い

『ドラえもん』のお話の中で、のび太たちが大昔の自分の先祖をタイムマシンで現代に連れてくる、という話があった。名前は確か「のびろべえ」だったような。

 彼は、大昔には存在しないテレビや車、ガスや家電製品などを見て大混乱する。そのままもとの時代へ帰った彼は、近所の村人に自分の体験をまくしたてた。



「煙を吐いて走る鉄の車」(自動車)

「木をこすらなくても一瞬でいきなり現れる火」(ガス)

「絵が動く魔法の箱」(テレビ)



 そんなふうに、のびろべえは自分の見てきたものを説明する。しかし聞かされた村人はチンプンカンプンで、頭の中にはクエスチョンマークが飛び交う。

「……頭がおかしくなったんじゃねぇべか?」

 それ以降、のびろべえは「ホラのび」という不名誉なあだ名をつけられた。



 このお話の悲劇な点は、ふたつある。



①この体験をしたのびろべえ自身、未来の世界を理解する素地を持っていなかった。


②体験した本人でさえ消化できないものを間接的に聞くので、村人にはいっそう変に聞こえた。



 この悲劇は、スピリチュアルという世界にも起きる。

 例えば「悟り」とか「覚醒」とかいう話に当てはめて考えてみる。



①悟りを体験するのは、人間。自我をもち、自他を区別する二元性キャラには、そもそも悟りをちゃんと受け止め把握する素地がない。


②その悟った話を、理解も解釈も色々の「自我視点から観察せざるを得ない存在」からさらに言葉として聞くので、いっそうわけが分からない。



 時として、語り手の人間的才能で説明が巧みだったり面白かったり、その人物に人間的魅力が備わっていたりすると、のびろべえのように「変人」として相手にされないパターンとは違い、世間にウケて「有名人」に祭り上げられ、皆がその「面白い」話を聞きに足を運ぶことになる。

 あなたがあとで家族に「自分は神で、宇宙全体とひとつだと悟りを得た」と言ったと想像してごらんなさい。明日から外出禁止になるか、心療内科を薦められるか「それ、他で言ったりしないで!」と約束させられるのがオチだろう。

 だから、そんな話で本を出していたり金を稼げていたら、実に上手うまくやったものだと言わざるを得ない。私自身に関して言うと本を出せたりしているが、上手くやったというよりも周囲の助けのおかげだと感じている。


 

●それ(悟り・非二元)をきちんと理解し受け止める資質のない存在が、自分なりにそれを語る。聞かされた他の者は、余計に混乱する。



 しかもそこには言葉、という誤解のもととなる要素が介在する。

 伝言ゲーム、というレクリエーションを子どもの頃やった方なら覚えているだろうが、どんどん人に伝えていくとまぁ言葉がズレることズレること!

 だから、スピリチュアル(我々が人間自我や既存の論理、認識力で確認できない範囲を扱った内容)が扱う内容に関してはそういう宿命がついて回るのだ、ということをわきまえておこう。

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