肉食・菜食にまつわるエトセトラ

 菜食主義の立場の人が、肉食に対するネガティブキャンペーンを張ることがある。

 よくあるパターンでは、牛や豚など(効果的なのは子豚や子牛……ってドナドナかい!)のかわいい映像を使い、「そら。あなたたちは、こんな愛らしい命を食うために殺そうとしてるんですよ!」という風に罪悪感を煽り立てる。

 もうひとつのパターンは、実際に食肉にするために殺されるシーンや、さばかれて肉塊として吊るされた動物肉のグロい映像や画像を見せつけて、「これを見ても、あなたは食べられますか?」というふうに迫ってくる。

 こういうことをするやつらは、「十字軍」に似ている。

 もともと、イスラム勢力に奪われたエルサレム(聖地)を奪還する、というキリスト教世界としては至極まっとうな大義名分で始まったが、十字軍遠征が何度も繰り返されるうちに、その振る舞いや目的はどんどんずれていき、結局は他を傷付け自らも傷付く現実となった。



 筆者は、菜食主義自体は良いことだと思う。

 だが、だから肉食を否定するとなると、話は別だ。

 この問題は、落としどころの非常に難しい問題だと思う。なぜなら——



●これは、究極の感情論である。

 理屈では、永遠に折り合いが付かない。



 私がここで問題にするのは菜食主義そのものの是非ではなくそれを奉じる人間たち、すなわち肉食を問題視してなんとか無くそうとする菜食主義者たちである。

 もちろん、自らが菜食をしたいからする、楽しむという分限を守って、肉食を殊更に問題視しない(肉食者にわざわざ構ったりしない)紳士な菜食主義者もいる。しかし残念ながら、やたら目立つのは、肉食根絶を願う菜食主義者である。

 面白い現象だが、肉食の人間が菜食者に対して「肉を食え!」なんていう主張をすることはあまりないのに対して、菜食サイドが「肉を食うのはよくない」という発信をするケースのほうが圧倒的に多い。

 何だか、逆じゃね? 菜食者の方が好戦的な傾向にある?

 そう邪推されても仕方がないほど、一部の菜食主義者たちの運動は熱心だ。



 菜食主義の使うテクニックは、「投影を使わせる」ことにある。動物を、擬人化させて考えさせるところにコツがある。

 つまり、動物を人間に見立てさせる。同等の土俵で考えるように仕向ける。

 可哀想ねぇ。食べるために、この命を奪うんだねぇ。お母さんと草原を駆け回りたかっただろうねぇ!

 ホラ、目がかわいいでしょ。泣き声もキュートでしょ。あなたなら、この命を奪えますか?

 植物だって生き物だ。だが、その体を食べることがOKなのが菜食主義である。

 動いて、人に近い部分があって、可愛かったらとにかく「残酷」なのである。

 動物がダメな理由として色々な言い分があるが、あるひとつ以外くだらないので、ここでは扱わない。一番笑えるのは、「食肉をすると霊性が下がる」というものである。これはアホすぎて、相手をする気にもならない。

 私から見ると、菜食主義をしていたって●●なのはいる。菜食肉食以前の問題の人もいる。なのに、菜食肉食にピンポイントでこだわって騒ぎ、もっと根本的な問題を抱えていることが見えておらず、見苦しい。



 おお、話がそれた。

 肉食反対者の一番の武器は、「感情論」である。可哀想、という。

 命の尊厳とか愛とか実に格好のいい言葉を選んでいるが、とどのつまり平気で肉食ができる人への軽蔑である。よくもそんな真似ができるね? という。

 そこをうまく隠して、 「皆さんを正しい道に導いてあげたい」という風に光の天使を装って、さぁそんな無明な世界で本来食べるべきでないものをむさぼってないで、こっちへいらっしゃい! と上品に手招きをしている。

 食物連鎖上、上が下を食っても「可哀想」とは思わないし、罪悪感もない。同じく下が上に食われても、憎しみをもって復讐したなどという話も聞かない。

 たとえばライオンに子どもを食われたシカが、団結してライオン掃討作戦に出たとか。シカたちがすることと言えばライオンに見つからないように気を付けるという程度で、自分から攻撃になどまず行かない。



 自然界ではそうなのだが、人間だけがあれやこれや考える力があって、本来関連のないことでも、想像力を駆使して結び付けて考えることができる。実に器用だ。

 人間だけが「ライオン・キング」とか「ジャングル大帝」を考えることができる。擬人化して考えることで、必要以上の感情移入をしやすくなる。

 心をもったものを、「辛い」とか「痛い」ということを認識できるものを殺すなんて……ということになる。

 私は、一般常識的感情論からすれば、肉食廃止論(結局それは動物愛護ということにつながるらしいが)のほうが有利であることを知っている。イメージ的には、肉食のほうが分が悪いことも知っている。

 しかし、私はあえて肉を食べる。これからも、食える限り。

 なぜなら、うまいからである。食べようと思えば手に入り食べれるからである。起こり得るということは、結果として最善だからである。



 よく、こういう言葉で攻撃される。



●そんなに食べたければ、あなたが殺して、さばいてみたらいい。

 できますか? 残酷に殺せますか?

 あなたは、そういう現場も知らないで、何かきれいに切られた精肉しか見ない。

 だから、知らないから美味しいと言って食べられるんだ。



 これは、理論のすり替えであり、ごまかしである。

 もしこの理屈が通るなら、こういう言い分も通ることになる。



●TVや映画をそんなに見たいなら、人任せにしないで自分でも作ったらいい。

 そんなに音楽を聴きたいなら、人任せにばかりせずに自分で作曲して、演奏して歌ったらどうです? 電気やガスも人任せにしないで、自分でまかなったらいい。

 自分で住む家なんだから、人任せじゃなくご自分で建てられたらいかがか?



 いいですか、この世界では「分業」という概念があるのだ。

 色んな役割の人、色んな職業の人がいて成り立ち、全体が機能している。

 人に目・鼻・その他の無数のパーツがあるように。それらが自らの独自の役割を果たすことによって、その人というトータル的な存在が支えられている。

 肉が食卓に届くまでに関わってくれる役割の人がいて、私たちはスーパーで肉が買える。外食で食べれる。誰かがやってくれているので、いちいち私がしなくていい。

 私は私で怠けているわけではなく、キャラとして求められている役割を果たしている。しなくてもいいことはしない。食肉処理の過程を見なくて済むのだから、見ない。それで食べられる環境にあるのだから、あとは選択の自由だ。

 もちろん、この世界で食肉加工に関わろうとする人がいなくなり、肉が手に入らなくなった暁には、私は降参する。恐らく肉食をやめる。なぜなら、自分で殺してまで食べようと思わないだろうからだ。でも、普通に手に入る限りは食べる。

 でも、そういうのがダメだ、って言ってくるんだろうな! 需要があるから供給があるんだと。食べない、つまりはニーズを作らないという先手が大事なんであって、食べる人がいる限り動物殺しはなくならないんだ、と言ってくるのだろう。

 何を聞いたって、今私は素直に「肉を食べたいんだ」。 



 今回、筆者は肉食側の主張をいろいろ書いたが、ここで書いたことは菜食主義者に対してはほぼ説得力がない内容だとは承知している。やはりこちら側の理屈であって、あちらは依って立つ根本の足場が違うので、きっと響かないだろう。

 でもそれはお互い様で、あちら菜食側の理屈も、こちらには響かない。きっとこの問題は、まだしばらく平行線をたどることだろう。

 そんなに動物を守りたいなら、ペットとして買うこと自体どうなんだ? 全部、あるがままの自然に返したらどうだ。

 人間がすべての土地を使っているが、動物にも半分与え、自然な住環境をあげたらどうだ。動物園、というシステムも異常じゃないのか。人間のエゴではないのか?

 肉とか毛皮とかいうことばかりこだわるが、知らない部分で動物の犠牲によって恩恵を受けていることだって多い。それ、全部放棄しますか? 

 恐らく、現代人の生活スタイルは維持できまい。当たり前に受けている恩恵を、ある程度すてることになるだろう。そんなに命が可哀想なら、原始時代に戻りますか?

 


 あと、やっぱり言いたいのは、我々は人間だということ。

 いやらしいことを聞きますが、人間と動物とどっちが大事ですか?

 やりようによっては、動物を守ることが結果として一部の人間をいじめることになる場合がある。人間側にしわ寄せがいき、犠牲を強いるケースもある。

 極端な例だが、日本史で学ぶ江戸時代の「生類憐みの令」を思い出してほしい。有名な「お犬様」というやつだ。

 どんなに立派な理由や大義名分があったって、結局人はやりたいようにやりたいだけなんだ。言いたいように言うだけなんだ。

 ただ、自分がやりたいようにやれたらそれでよく他には強制しないか、やりたいことをやるだけでなくなお自分がしたいことは皆もやるべきだ、となるかの違いだけである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る