ごちそうさま
地球に興味をもった宇宙人と、地球の賢人との会話。
「君たち地球人は、全体として『民主主義』というイデオロギーを採用して生きてるようだが、ベストだと思っているか?」
「……いいや。もちろん、ベストだと思ってはいない」
「なら、ベストじゃないなら、なぜしがみついて生きている?」
「民主主義が完璧ではないことは、この民主主義体制下で起こる様々な矛盾や揉め事からも明らかだ。でも、だからといって今、民主主義に代わる代案というか、もっと良いものをまだ見出せずにいるんだ。
だから今は、十分でないことは承知で、とにかく今存在する中でのベストとして民主主義にしがみつかざるを得ないんだ。どうか、地球人の弱さというものを分かってほしい。事情を汲んでほしい」
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一読したら、なるほどなぁと思うかもしれない。
我々が生きる世界を支える屋台骨は、「民主主義」である。
少なくとも日本は、民主主義国家だから。戦後の復興、そして大枠では戦争のない平和な国家を実現した功績は大きい。そこは民主主義に感謝するところである。
ただし、これが「決定版」で、この先もずっとこれでいける、という耐久力の高い代物ではない。どちらかというと脆弱で、いつまでこの世界を、多様化する価値観や思想をまとめておけるのかという懸念を常に抱かせるような危なっかしさがある。
逆に、戦後から令和の今までよくもったものだ、と思う。
他にいい考えが見つからないから、仕方なく見つかるまで民主主義にしがみついている、という考えを筆者は採用しない。その角度から見るのは、面白くない。
●民主主義というステージが提供するものを、まだ全部味わい終わっていないから。
民主主義が提供する可能性と体験を、まだしゃぶりつくしていないから。
ひとつの物事を卒業できる時というのは、十分にそれを味わい尽くして納得し「もうこれ以上はいいや」という気になる時である。もうそこから学ぶものが何もなくなる時である。その時こそ、本当に次のものに変えたくなる。
多少都合が悪いからという理由で変えようと思っても、(変える物事の規模が大きければ大きいほど)なかなかそうはいかない。自転車が方向転換しようと思えばすぐに小回りが利くが、空母や豪華客船が進路を反対にしようと思っても、時間と労力がかかるのと同じだ。
今、世の中には色々と考えさせられるような、危機感も抱くようなニュースが溢れている。そのたびに、「何とかならんもんかいな。日本も、根本から変わらんもんかいな?」と思ってしまう。
そもそも「民主主義」という先進国が軒並み選んでいる体制自体、考え直してみることはできんかな? そんなことをフッと考える人も、今の時代少なくはないだろう。でも、そう簡単に答えは見つからない。
ちょっと考えたくらいで見事な代案が出るくらいなら、そんな楽なことはない。
どうもこの世ゲームの進行というのは、あるステージ(この場合は世界の現体制)で望まれる体験を満了してから、次のものの萌芽が出てくるものなのだ。これは、大きなストーりーの流れなので、仕方がない。
飛鳥時代の終わりには、大化の改新。
貴族の世の中の終わりには、武士が表舞台に登場した。
群雄割拠の戦国時代をまとめ上げたのは、良くも悪くも豊臣秀吉だった。
江戸幕府という、封建社会の終わり(幕末)があり、そこに民主主義の萌芽があった。
二度にわたる大戦はあったが、デモクラシー(民主主義)は日本の敗戦の傷跡を癒したばかりか、経済大国の仲間入りさえ実現させた。
このように、時代の境目には必ず何かが現れる。これは、決して「それまでのものが情けなくなり、ダメになったから」ではない。そういう評価は、それまでを支えてくれた功労に対してあまりにもリスペクトがない。
これまでの在り方が提供する体験を、世界が満了するからである。悪いものから良いものへの移行ではなく、単なるステージの変化である。
すべてが良くできた物語のように、進行していく。それは、その節目の時代に居合わせた者たちが息を飲むほどである。
もちろん、すべては人間一人ひとりの思いと行動があってのことである。
ミクロ視点で見ればそうだが、大きな視野で見ると、各々の時代の変わり目で奮い立つ人物は用意されており、世のために動くべき人物が動く気になる。悔しいだろうが、すべてなるようになっていく。
でも、この世界の流儀では、今私たちが自己の責任において切り開いている、という認識でいい。ゲームというものは、例えバーチャルでものめり込んでこそ、その世界観に浸ってこそ面白いものだから。
今食べかけている料理の皿をきれいにしてこそ、次のが運ばれてくる。
焦ってすぐ次、というのはこの世界のゲームの流儀を分かっていないヤボである。
●新しい時代が欲しいなら、宇宙によってそれまでに味わうことを要求される体験について、向き合い消化し『ごちそうさま』をする必要がある。
ごちそうさまができないと、新しい時代など来ない。
まぁ、落ち着きなさい。
人が「もう時代は変わってもいいはずなのに」と思ってもなかなか変わらないなら……まだ足りない。まだどこかが満了ではないのだ。
何かが、そう判断しているのだ。擬人的に表現すれば。その基準さえ満ちれば、我々は間違いなく新たな展開を見るだろう。
その時までは、とにかくあなたの目の前に与えられた「課題」に取り組むこと。
課題というと、試練とか苦しいものがまず連想されてしまうが、楽しむことや安らぐことも含まれている。それをしながら、明日を待とうではないか。
今の時代に背を向けず、最後までとことん付き合ってあげて、ついに来る新時代を迎えよう。
その時には「ああ、ひどい時代だった。やっと良くなった」と言うのではなく、そっと「ここまでありがとう」という一言を添えて、別れを告げよう。
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