それでも物語は続いていく

 前回の記事もそうだが、「あるSF話を……」と紹介する機会が増えている。これだけ引用が多いと、もう元ネタ明らかにしたほうがいいように思えてきた。

『ネオ・ウルトラQ』という、大昔の特撮物の時代を超えた続編である。世界観は当時を引き継ぎながらも、背景となる社会現象や科学水準は現代を反映している。

 内容は、「世にも奇妙な物語」風味で、理屈や科学では割り切れない不思議な世界を描く。言い換えれば、ウルトラマンの出て来ない怪獣もの、と言ってもいい。

 大人向けな作りなので、怪獣が出て来ない回も多い。(怪奇現象のみ、人の心象風景のみとか)

 以前に本書内で紹介した 「ブスを自分の星の基準で美しいと言う宇宙人の話」「相手の気持ちが分かるアンドロイドの話」は、ここから紹介している。



 そして、今日紹介するお話は、第6話『もっとも臭い島』。



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 日本で、Sedecanne(セーデカンヌ)という香水が大ヒットする。

 すぐに売り切れ、入荷してもすぐに在庫切れになるという人気商品であった。

 その人気の秘密は、一体何か?



 優希、という女性が、日本の領海ギリギリにある無人島に漂着する。

 サバイバルスキルのない彼女には、文明の恩恵のない場所で生きる術がない。

 そんな時、彼女の支えになったのが、無人島に住んでいた怪獣、『セーデガン』だった。

 なぜその名なのかといえば、優希が怪獣に「名前は?」と聞いたところ、怪獣の返答というか、泣き声がそのような言葉に聞こえたことに由来する。



 セーデガンは、優希に食べ物を運んできた。

 最初は怖がっていた優希も、セーデガンには悪意がないことが分かってからは友達になった。怪獣は文句のつけようのない友達となったが、セーデガンにはひとつだけ難点があった。

 とにかく臭かった、のである。



 そんな生活が続いたある日。

 日本の漁船が、無人島を横切った。

 漁師が手を振る優希に気付き、彼女はついに救助された。

 セーデガンにお礼のあいさつをしようと思ったが、もうその姿は消えていた。



 日本に帰ってきた優希は、意外なことに気付いた。

 無人島で長く住んでいた時の服は、帰ってきた時にゴミ箱に捨てようとしたのだが、何ともいいにおいがするのである。

 セーデガンがすぐそばにいる時には「臭い」としか思わなかったのに、布地を通して時間が経った今においをかいでみると、いい香りが鼻孔をくすぐる。

 そこで、優希はひらめいた。

「これ、香水の原料に使えるんじゃないかしら?」

 優希は無人島に何とか戻り、セーデガンの鼻の粘液を採集する。

 それを元に、Sedecanne(セーデカンヌ)と名付けた香水を開発。会社まで起ち上げ、すぐに業績は急上昇。作れば作っただけすぐに売れる、という状態が続く。



 しかし、いいことばかりは続かなかった。

 優希はセーデガンと無人島のことは誰にも内緒にしていたが、ついに社会の知るとことなってしまう。怪獣だということで、自衛隊が無人島に乗り込み、セーデガンを殺してしまう。

 ニュースでこのことを知って阻止しに行く優希だが、個人の訴えはあまりに非力だった。自衛隊の銃火器の前に、セーデガンは息を引き取る。

 優希はセーデガンに抱きつき、泣いてその死を嘆くのだった。



 数か月後。

 相変わらず、香水 Sedecanne(セーデカンヌ)は売れ続けている。

「では社長、在庫が切れそうなので追加お願いします」

 社員にそう頼まれた優希は、顔を上げる。

 その顔はセーデガンのように変形していた。大きすぎるその鼻には、香水の原料となるあの粘液が。

 怪獣の死体に抱きついた時に、優希は何らかの「感染」をしたのかもしれない。

 日本の女性たちは、この香水の裏にそんな物語があるとも知らずにどんどん買い求めていく……



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●大切すぎる何かを失った時。

 人は、その何かを自分に宿すようになる。



 もちろん、誤解してもらうと困るが、この物語のようにあなたが死んだ夫や妻、恋人に似てくるという話ではないし、亡くした子どもが人面瘡のように体に出てくる、という単純な話でもない。また、映画やドラマにあるような、一人の体に別人格(霊)が乗り移ってくる、という話でもない。

 単純に、亡くなった人物の物語の続きが、生きている人間のそれに接ぎ木されるだけである。亡くなった人の生きた証が、生きている者の中に吸収される。

 なので、多くのケースで「その目に見えた分かりやすい痕跡」というのは現象として出ない。



 年輪、というものがある。

 木を切り倒すと、その切り口にはその木が重ねてきた年月分、輪が刻まれている。

 つまり、大事な人を失い、その人に生きていてほしかったと思う時、あなたという存在の「年輪」として、刻まれる。

 だから、決して死にはしない。(もちろんこの世界の指す生死ではない)

 もちろん、親しい志しを同じくする者同士の間でそうなるのが自然ではあるが、知らない者同士の間でも、これが起こることがある。(背負っているごう、つまり人生上の課題や人生観・目指す目標の類似などにより)



 何としてでも、この幻想世界の物語は続けられていく。

 バトンを引き継ぎ、願いを引き継ぎ、使命を引き継ぎ。

 個々の幻想としての肉体は倒れても、想いは繋がっていく。

 いや、もともと一本の線だったと言えるのかもしれない。

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