絶対的価値観の放棄
本書の中で筆者は、いくら立派な『真理』と呼ばれるものであっても、結局はそれを選択したあなた自身の視点にとっての『真理』すぎない、と言ってきた。そこに、誰にとってもの絶対はない、ということをお伝えしてきた。
確かに、どこかにありそうなんだよな! 「絶対」って。いかにも存在しそうだからこそ、厄介なのだ。ないものをあるとして追うから、問題が生じる。
中にはそれを「つかんだ」と錯覚する者が出てくる。そしてそのつかんだと主張する者に魅力がなければ、無視されるだけで無害であるが、あれば人気者になり本も売れたりする。イベントで人をたくさん呼べたりする。
そして、大衆はつかんだとする者に踊らされる。踊らされて夢を見れているうちはいいが、やがて限界を感じ出したり、「結局自分には合わないのでは?」と勘付きだしたり。
そこでまた運命が二手に分かれる。潔くそれまでを清算して、新しく出発できる思い切りを持てる者。それか、次のように考えてしまう者。
「ここまで時間と労力とお金を費やしてきたのだ。今やめてしまっては積み上げてきたすべてが無駄になってしまう。まだ、頑張れる。私がまだまだなだけで、真実はここにあるはず」。そう自分に言い聞かせて、心の奥底の声にフタをして居直る。
道端に、少し大きめの石が落ちていたとする。
道行く人にとって、それはただ道端に落ちている石であり、何の価値もない。
ある夜、仕事の都合で仕方なく深夜にその道を歩いている女性がいた。彼女は、それまで人気のなかった道の後方に、足音を聞いた。見ると、怪しい男がナイフを片手に、こちらに駆けてくる!
逃げる女性。誰も路上にいないのをいいことに、堂々と追いかけてくる痴漢男。
……つかまる!
男の足は速かった。もう5メートルほどまで距離を詰められた。飛びかかられるのは時間の問題。と、その時。彼女はとっさに、道端に落ちている手頃な大きさの石に気付いた。
女性は思い切って止まり、片手で持って打撃を与えるのにちょうどいいその石を拾い上げ、男に向かって振り下ろした。
ガツン! 男は見事に気を失って倒れた。その後警察に通報。
結果、犯人に重傷を負わせたり殺したりしなくてすみ、男を法の裁きのもとに送ることができた。女性も、最悪の展開から逃れることができた。
ほとんどの通行人にとって、その道端の石は何の価値も持たなかった。しかし、夜道で暴漢に襲われるという特殊な体験をした女性には、「救世主」となった。
あなたの信頼を置くスピリチュアルの教えも、それと同じ。あなたの人生というシナリオ上は、価値があったのだ。あなた独自の人生経験と、そこから生じるニード(必要)には合っていたのだ。価値があったのだ。
でも、あなたが感じたのと同じようには、他人は感じないケースのほうが多いのだ。だって、あなたの外にはあなたと個性も人生経験も全然違う人たちがひしめいているのだから。
いくら先ほどの襲われかけた女性が、自分を救ってくれた石を神棚に飾ってあがめようが、他の人はそんなことはしない。あなたから体験談を聞かされて「へぇ~これがあなたを救ったのね」と感心はしてくれるだろうが、だからといって女性と一緒になって石に手を合わせることまではしない。
自分と直接関係がないし、自身の体験でないからありがたみも湧かないからだ。
スピリチュアル実践者は、自分の出会ったスピリチュアルに対する信頼と思い入れが強い分だけ、「これは自分だけでなく、等しく他人も救うのでは!」という発想的飛躍に行きやすい。
自分にとって超価値あるものは、他人にとっても価値があるという発想。それは時折本当に人も救うが、多くのケースで他人に迷惑だけかける。
何かを人に薦める、という時には自分の意識に対する見極めが大事。そのためにも、日頃から「バランス感覚」を養っておくといい。あることを言ったら、この世界ではその逆もまた言える世界があるのだ、と意識しておくのがよい。
寂しい気持ちになるだろうが、どんなに優れた人気のスピリチュアルでも「石ころ」なんだよ。教えとか言葉そのものに価値があるとか、偉大とかないんだよ。
皆、 「この本はすごい」とか「このセミナーは人を変える力がある」とか言うけど、そんなものはない。ただ、宇宙の主人公としての個々人が、物語の主人公としてそれを「どう見るか。どんな価値を付与するか」にかかっていると言っても過言ではない。
石ころを、宝石にさえすることができる——そんな錬金術ができるのが、「人」というこの幻想世界探索に適した存在なのだ。
だから、生きるって楽しいのだ。
あなたが世界のあらゆるものにどんな価値を付与するか。どんな名前を付けるか。大事にするか、それとも人生で重要でないものとしてスルーするか……
そうやって、あなたオリジナルの物語が紡がれていくのである。
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