Guardian ~守護者~

 スパイものの映画などを見ていると、こういう言葉がよく出てくる。

「守る者があると、弱くなる」。

 殺すか殺されるか、という非情な世界で勝ち抜いていくには、孤独がいいのだろう。守るものがあると、それだけ枷になる。人質に取られたりする。

 守るものがないと、それだけ自由に動ける。失うものがないと、何も気にせずそれだけ思いっきり戦うことができる。



 例え話として、ある二人が剣を持って戦っているとする。

 片方は、剣だけである。思いっきり戦える。

 もう片方の人物は、片手に剣、反対の脇に赤ん坊を抱えているとする。

 有利なのはどちらか、火を見るより明らかである。

 守るものがあるほうが不利なのは決まっている。



 守るものがないほうが、本当に強いのか?

 そしてその強さを得ることが、幸せになるのか?

 私はそうは思わない。

 ここで大事なのは、「強さとは何か」である。

 現象として、結果として「勝つ」ことが、本当の強さだろうか。

 もしそうなら、スパイ映画において愛する者を持たず、守るものをもとうとせず、非情に徹しきり常に相手を圧倒する者が本当の強さを持つ者、ということになってしまう。

 聖書の中に、一読しただけでは理解の難しいこういう言葉がある。



●わたしは弱いときにこそ強いからです。



【コリント信徒への手紙二・12章10節】



 なかなか頭の混乱する言葉である。

 はぁ? 弱い時こそ強い??

 ここで言う「弱い」とは、現実的な勝ちを取りに行く場合において、守るべきものが多く不利な状況を指す。つまりは、そういう状況にある者のほうが、本当には「強い」と言いたいのだ。

 確かに、守るべきものがなければ、なりふり構わず相手を攻撃できるだろう。でも、そんなことで相手を打ち負かして、何が残るのか。

 勝った、という事実? お金? 名声? 満足感?

 そのようなもの、その人の「幸せ」とはほとんど関係がない。満たした瞬間だけ快感を味わわせてくれるだけ。快楽は、幸せと呼ぶには効果が短すぎる。



 この現実世界では、確かに守るものがあると不利かもしれない。それだけ動きを制限され、また足を引っ張られるかもしれない。

 でも、考えてほしい。この世界に、人間のかたちをとってまで何をしに来たのかを。もちろん絶対な正解は分からないけど、何となくこう思いません?



●愛しに来た。

 守りに来た。



 この世界は、敵を負かし、自分がその屍を越えて頂点に立つためのゲームではない。(そういう役割の者もいるが、皆が共通で目指すゴールではない)

 どちらかといと守り抜くゲームである。もちろん、最重要なのは結果ではなくその過程で体験する情が大事なのだ。

 この世界では、結果出してなんぼの世界ではある。だから、結果が大事だと言う人もいるだろう。でも、それはあまりに冷たい。酷というもの。

 全力を尽くしても、子に死なれたり、事故に遭われたりして守れない者も出てくる世界だ。その気持ちが分かるので、私はこの世界は絶対に「結果ではない」とあえて言う。



 赤ん坊がいたら。幼い子供がいたら。寝たきりの親がいたら——

 表面的現実面では、強いどころか置かれた立場は大変である。

 この世は思うようにいかないことが多い。しんどい時、守るべき者が「いなくなればいいのに」なんてフッと考える自分に怖くなったり。そして、そんな醜い自分を発見して愛想を尽かしたり。



●愛さないで醜い思いが発見できない人物より、愛することで醜さに出会い打ちひしがれる人物の方が、人として美しい。



 守る者がいなければ、戦いにおいて最上のコンディションだろう。守らなければ、奪われることもない。愛さなければ、裏切られたり傷付くこともない。

 でも、人はやはり何かを守らずにはいられない。愛さずにはいられない。大切にせずにはいられない。

 それが、現実に「弱点」となり「弱さ」となると知っていても、だ。その、弱さと分かってその弱さをあえてかぶれる勇気こそ本当の強さだ、と言える。



 もちろん、守るという時、それは「相手が弱いから。自分が守ってあげないと何もできないから」 というのは違う。確かに赤ん坊などは大人が守らないと何もできないが、『役割分担』なのである。赤ん坊は現実的攻撃力も自己防衛力もないが、全然別の方面でものすごい力を持っている。

 赤ん坊ほど、人を癒したり、幸せな気分にする存在があるか? それとも何か、あなたはその方面で赤ん坊に勝てるか? あなたがいかに美人かイケメンでも、他者にも好きなタイプというのがあるので、万民を惹きつけられない。でも、赤ん坊という存在はほぼ万人が心許すぞ?

 物事の一側面だけで強い、弱いを語るのは幼い。 



 守るものがないことの強さを求めても、むなしい。

 守るものがあることで出会う困難や涙、そして喜びこそがあなたを本当の意味で強くする。その時、あなたは最強の守護者(ガーディアン)の称号を得る。

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