この世界で起きることはすべて決まっている

 本書でよく言ってきたことのひとつに『因果の呪縛からの脱出』がある。



・~だから~だ 

・~のせいで~だ



 この構図の破壊である。

 原因と結果という、この世界では最も単純かつ見た目に観察されやすいこの「真理」に異を唱えるのは、この世界においてはまだ時期尚早なのかもしれない。なぜならこの世は、成功哲学というものに好意的(歓迎している)だからだ。

 因果というものがないとすると、どうなるか。原因と結果の間に、何も関係がないとしたら?

 何かをしたから何かが起こる、ということがなくなるので、自由意思や責任というものが崩壊する。意味がなくなる。

 こうしたからこうなる、がなくなると残るのはただ「すべてが決まっていて、起こることが起こる」だけ。ということは、意識を変える、あるいは意識の在り方を工夫することで現実を変えよう、というのは子どもの「ごっこ遊び」に近いものとなる。

 禅問答のようなことを言えば、誰かさんが何かの成功哲学に興味をもって実践し、「流れが変わった! いいことが起こりだした!」と実感し、「我ながらいいものを見つけた」と思う時、その成功哲学に出会い、その人が情熱を傾け、その後いいことが起こることまでも決まっていた、ということだ。

 この人が意識の在りようを工夫したので(原因)、その波動に合った現象を引き寄せた(結果)というのは、錯覚である。宇宙という仕掛け人が、超一流のマジシャンなので、我々は見事に騙される。



 たとえば香港のカンフー映画の中で、体の弱い主人公が宿敵に勝つために拳法を学び、体を鍛えるとする。で、映画のラストでは見事その成果あって相手に勝つ、というストーリーだったとする。

 お話の中のことなので、「主人公が頑張って強くなったので、勝てた」という理屈にさほどの意味はない。なぜなら、脚本として最初からそういう絵が描かれていたからだ。

 脚本家と監督により、主人公が勝つことは最初から意図されていた。役者は、言われた脚本通り、オーダー通り演じただけ。負けるほうも負けるべくして負けたというよりは「脚本通りに演じた」だけ。

 それが、この二元性世界である。ここは動物園のようなものである。客であるおりの外の人間(神)に観察される。中の者に、自由はない。

 でもそれは、我々が不当な目に遭っているとか、不幸とかいうことではない。むしろ、幸せだ。

 決まっているとはいえ、映画を見るのは楽しい。撮られていてもう後で内容を変えられはしないとはいえ、未鑑賞のお話を追うのはやっぱり面白い。



 スピリチュアルの主流は、意識の在り方によって現実を変えようというものである。それを支える理屈は何かというと、この世界は「自分がつくっている」というものである。もっと言えば、「自分の意識が生みだしている」。

 だから、世界を生み出している『自分』さえ変化させれば、現実も変化させられる。これが 「意識を操ることで起こることを変えようとする」スピリチュアルがかった成功哲学であり、世間でもっとも良く知られているものでは 「引き寄せの法則」というやつである。



・お金がないから不幸だ

・病気にかかったから不幸だ

・バイクが盗難に遭ったので、気分が悪い



 今挙げた例で注意したい点は、「原因」と「結果」と思える二つの事象の間に、何の関係もないということである。例えば、お金がないと全人類が例外なく不幸になるということはない。お金がなくても幸せそうにしている人はいる。病気であっても障がいがあっても、別に不幸そうではない人もいる。逆に、お金があっても健康そうでも不幸な人はいる。

 バイクが盗まれたらイヤな気分になるというのは、科学的にそういうしっかりした因果関係があるわけではない。我々人間が「盗難に遭うということは、損をするということ。損をするのは、この世界においては楽しくないこと」と定義したので、その選択に従ってイヤな気分になるだけである。

 因果というのは、宇宙レベルのしっかりした法則なのではなく、ほぼほぼ可視化された現象に対する人間側の決めつけだ。決めつけが、あまりに皆から信じられエネルギーを与えられるので、真理に昇格した。

「ウソから出たまこと」という表現が当たっている。

 ファンからは嫌われるだろうが、引き寄せの法則は単なる「決めつけ」である。それを証拠に、引き寄せ関連の書籍があんなにベストセラーになって無数の人が読んで実践したはずだろうに、マジで「すごいことになった!」という人の話を周りでほぼ聞かない。

 売れている著者を越えてすごいことになった、という読者の噂も聞かない。未だに、脚光を浴びているのは本を出した成功者である著者だけ。

 未だに世界を席巻しない。(まだ、単に売れてる本という域を出ない)そんなにすごいなら、真理なら、学校の教科書に載ってもいいくらいである。

 全然、その気配はない。



 一部の悟り系スピリチュアルでは、さすがにこの因果 のトリックを見破ってきて、そういうものを当然として縛られる必要はない、と説きだしている。

 でもその一方で、やはり成功哲学のようなものを語っている部分もある。「やりようがある」と、皆に変な希望を持たせている。これがどんなに的外れなことか、分かるだろうか?

 因果(原因と結果)に疑問を投げかけておきながら、一方では意識の在り方次第で現実を変えることができる、という話なので——


 

・意識の在り方(原因) → 変化した、良くなった現実(結果)



 何じゃ、結局因果じゃねーか!

 まるで、賄賂をもらっている政治家が、自分はバレてないのをいいことに世間にバレてニュースになり非難されている別の政治家に対し「それはよくないことです」という声明を出すようなもの。コロナ禍で経済と感染防止対策を両立する、と言葉上は体裁のいいことを言って実際はどちらもうまくいってない、というのに似ている。

 中途半端はいけない! 因果を支持するなら、徹底して。徹底して成功法則を書け。覚醒とか癒しとかを書いてごまかすな。

 しないなら、それも徹底して。でないと、おかしな話になってくる。



 成功哲学(自由意思で、どうだってやりようがある)を語るなら、いくら失敗した人を慰めても、そこは「やりようがあったのに、機会を十分に生かせなかったあなたが悪かった」ということが情け容赦なくついて回る。それから、逃げられない。

 必然的に、構造的に、勝者と敗者を生み出すのが「自由意思信仰」である。調子の良い人、うまくいっている人にはいいが、そうでない人には辛いものとなる。

 常に、できている人に比べ「自分はもっと頑張らないと」という気分にさせられ、あまり幸せではない。幸せになる理屈を追いながら「今幸せではない」という摩訶不思議な状況を体験することになる。



 意識の在り方で現実を変えようというのは、因果律の支配圏の話である。何ら、そこから抜けきってはいない。いやむしろ、もっと縛られましょうよ、って言ってるようなものである。

 はっきり言うと——



●現実を変えるために意識を操作するなんて、それははっきり『下心』なんじゃないのかい? 

 だって、狙っているわけでしょ? いい結果を。

 あなたが意識を変えたいのは、自然にただそうしたいというよりは、その目的がまずあって、それを主人として意識を変えようと(従属させようと)しているわけでしょ?

 


 筆者は、『本物・ニセモノ』という議論が好きではない。だって、この世界に在るからにはすべて同価値に必要なものだけだから。でも、それに目をつむってあえて「本物」について語ると——



●ニセモノは、やる理由があるからやる。

 やることで利益を得られるからやる。

 成功しているうちは、熱狂的でいられる。

 成功してなくても、周囲の成功例を見て夢を見ていられるうちは頑張るだろう。

 その理由がなくなったり、これではムリだと判断されたら、離れる。



●ホンモノは、特に根拠や利益があるからするわけではない。

 別にそれがあなたにオカネや具体的成果をもたらさなくても、やめる理由にならない。(もちろん、あればあったに越したことはない)

 理由なくやっているので、何かの理由でやめることがない。強いて言えば、フィーリングが合うとか単に楽しいから、わけもなくやりたいから、程度の理由でしかない。



 あなたが水の表面を叩けば、水が跳ねる。そら、私が今自分の意志で水を叩いたから、その結果として物理的に水が跳ねたぞ? やっぱり原因と結果ってあるじゃないか! 皆、そう言いたいだろうと思う。

 でも、それが全部決まっているのだ。あなたが水を叩くことも、それによって水が跳ねるという対応関係も、全部シナリオにあった。それが忠実に再生されただけで、決してその人自身が結果を生みだしたのではない。

 この世界で起こることで、あなたが決めたことは何もない。

 ただ、「決めた」と思える夢を見させてくれる壮大な遊び場なのだ、この世は。

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