ありのままドリル

 今回は、「ありのまま」を見るのがいかに(この世ゲーム的に)難しいかについて話そう。逆に、いかに「何かと比較して」見る癖が人にはついているかも、よく分かるはず。

 そのひとつの好例として、ケンタッキーでお馴染みのカーネルおじさんにご登場いただこう。



 この人の面白いエピソードは実にたくさんあるので、知る限り書けば一日で書ききれない。それらのうちの、ほんの一部だけ触れることにしよう。

 カーネルがケンタッキー・フライドチキンを成功させたのは、なんと60歳になってから! それまでに、実に波乱万丈の体験をされている。



 若き日に、彼はガソリンスタンドを経営する。

 なかなか繁盛するが、当時起こった「世界恐慌」のあおりを受けて、倒産。

 次に彼は、レストランをつくる。繁盛するが、火事で全焼。

 それでも彼は、またレストランを建てる。

 最初は繁盛するが、その後出来た高速道路のせいで交通の流れが変わってしまい、それまで利用してくれた客の多くが遠のき、赤字倒産。

 賠償金や負債を何とか清算して、彼の懐に残った全財産は二千円程度。家なし。あるのは、車一台。

 それでも彼は、あきらめなかった。車の中で寝泊まりする生活をしながら、現在のフライドチキンの揚げ方を発明した。

 トラック屋台よろしく、走って方々を売りまわった。そのうち、「あのオッサンの揚げるチキンはうまいぞ!」ってな話になって、今日こんにちの世界的な普及がある。



 この話を聞いて、へぇ~カーネルおじさんてすごいんだぁ、ではもったいない。

 実は、結構すごい気づきの材料なのだ。

 例えば、こう考えてほしい。

 ものすごい財産があって、それが奪われてゼロになるのと、最初からゼロのままなのと、どっちが「がっかり感」があると思いますか? どっちが、ダメージが大きいと思いますか?

 もちろん、前者である。現在同じゼロという境遇であっても、「良かった時期」という基準を知り味わってしまったからこそ、差し引きという余分な「幻想ダメージ」をこうむってしまうのだ。

 最初っからゼロであるほうは、ダメージはほぼない。



 今の話からも分かるように、私たちは「何かの基準と比較」をすることで、本来受けなくていいダメージを好んで受けているMな存在なのだ。

 ありのままを見つめれば、ダメージは最小限なのに。あるべき基準、という定規でその「ありのまま」を測ると、狂った数値が出てくる。

 その狂った数値分、あなたは苦しむことになる。



 さっきの、カーネルおじさんの人生を見よ。

 ガソリンスタンドが成功していたのに、世界恐慌のせいで潰れた。

 レストランも、せっかく軌道に乗ったのに火事で焼けた。

 次のレストランも、高速道路ができ交通の流れが変わったことで、倒産。

 彼の立場は、もとからゼロだったわけではなく、最高の高みを知ってから転落したゼロ。ゆえに、よりダメージをこうむりやすい立場にある。

 それで腐ったり、あきらめたりしたとしても責められないほどの状況だ。なのに彼は、腐らなかった。



●彼は、高みから転落したゼロではなく「ありのままのゼロ」を見た。

 今そうである状況だけを見た。

 そして、じゃあ今何ができるか、だけに集中した。



 この世ゲーム的に成功する人物は、たいがいこれができている。

 何かと比較してたら、前向きになる余裕がなくなる。

 過去に今より良かった状況のことを考えたら、本来味わわくてよかった口惜しさ、理不尽感、無力感があなたを襲う。でもそれは、イリュージョン(幻想)にごまかされているのだ。

 カーネルおじさんは、誰よりもそうなりやすい状況下にあったにもかかわらず、その誘惑を見事にはねのけた。そして、建設的に「今」に集中することで、ものすごい推進力を得た。



 多くの人は、なかなか「ありのままを見る訓練」ができていないので、余分に苦しんでいる。

 でも、それは仕方のない部分もある。これまでのこの世ゲームの流れとして「何かと比較して考える」という姿勢を親・学校・社会などから教え込まれて獲得され、染みついてしまったからだ。

 タバコや酒、麻薬がいきなりすっぱりとやめられないように、これもクセを抜くのに時間がかかる。そこで、皆さんにオススメしたいのが——



●ありのままドリル



 これである。

 何か比較してイヤな気分になった時、カーネルさんのお話を思い出してほしいのだ。今ゼロであることは、単なるゼロ。過去はもう関係ない。

 ないから、過去の特定の状況と比較して、不幸な気分になんかなってやるものか! ありのまま、そうであるしかない今を見ることで、イリュージョンを見破ってやる!

 その意気込みで、比較をしようとしている自分に気付くことで、直撃クリティカルヒットは回避できる。それだけでもかなりダメージは緩和されるはずである。

 反復練習を繰り返せば、成果はかなりのものになるだろう。

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