喜怒哀楽

 うどんと、そばと、ラーメンと、スパゲッティがあるとする。

 では、ここで質問である。この四つの中で——



●どれが最も優れているか?

 どれが最も正しいか?

 どれがもっとも理想的か?

 どれを目指すべきか?

 どれが一番奨励されるべきか?

 どれが一番劣っているか?

 どれが良くて、どれがダメか?

 どれが善で、それが悪か?



 きっと、どれにも答えられないと思う。

 だって、答えようがない。

 好き好きだもの。

 趣味の世界、選択の世界だもの。

 存在形態のバリエーションにすぎないもの。

 いい悪いではなく、個性だもの。



 昔『どっちの料理ショー』という名番組があった。

「カレーライスか?」

「ハヤシライスか?」

「……今日のご注文は、どっち!?」

 その結果どちらが勝利しようと、だからどちらが優れている、ということにはならない。その時カレ-ライスが勝ったら、カレーライスが正義だろうか? たまたま、その番組のゲスト連中の中で、カレーを選ぶ人間が多かっただけのことではないか。



●喜怒哀楽についても、同じように思う。

 どれが優れている、ということはない。

 どれが劣っている、ということでもない。

 同価値である。

 感情というものの、存在形態のバリエーションに過ぎない。



 例えば、世の中の風潮として

「明るい性格が良くて、暗い性格が悪い」

「積極的な姿勢が良くて、消極的なのは良くない」

 ……というのがある。これなど、大迷惑な話だ。

 あくまでも、存在のバリエーションの一要素であるというだけ。

 そのどちらかが好ましいなどと、何の根拠があって優劣をつけるのか。

 明るいことと暗いことは、同価値である。

 積極的なことと消極的なこととは、同価値である。

 どちらを選択するか、という好き好きの問題だけである。

 どちらが間違い、どちらがダメということはない。

 そういうものがあるとしてしまったのは、人間の勝手な価値判断である。



 喜怒哀楽、という感情のバリエーションがある。

 今の世では、どちらかというと喜と楽が喜ばれかつ推奨され、一方の怒と哀は避けられたり、下手したら悪者扱いされたりする。

 でも、実はすべて同価値であり、そこに優劣の差はない。



 だから、堂々と、罪悪感なく怒ればいいのだ。

 悲しい時には、思いっきり泣けばよいのだ。

 でも、多くの人々の意識の中には、どんな前提が巣食っているかというと——

「怒るのは、良くないことだ」

「メソメソ泣いてちゃいけない」 

 そんな、怒ることや泣くことに対するネガテイブな評価があるので、どういう現象が起こるかというと——



●健全に怒れない。

 思いっきり、スッキリ悲しめない。



 怒ることや悲しむことにうしろめたさや罪悪感があるから、それが枷となって思いっきりそれらの感情を楽しめないのだ。例えるなら、体に10キロくらいのおもりを体にくくり付けて、水泳をするようなものだ。

 健全な怒り方・悲しみ方ができないと、怒りの表現の質が歪んだり陰湿になったりする。悲しみの質が、あとあと引きずるようなねちっこいものになる。

 高温だけど湿気のない気候と、高温でなおかつ湿度の高い状態のことを考えていただいたらよい。だから、私は罪悪感を持たず、価値判断をせず、感情を出したいように出してあげるのがよいと思う。



 喜びにフォーカスせよ、ということはスピリチュアルや自己啓発でよく言われることである。でも、だからといって「喜びじゃないものは望ましくない、喜びが一番いいから目指す」というスタンスではアウト。

 さっきも言ったように、喜怒哀楽は全バリエーション同価値だから。

 一番オススメな姿勢は——



●私がどんな意識状態にあろうが、そもそも問題なんてない。

 あるがままにあることができ、間違いなんてあり得ないのだから。

 だが、私は選択のできるこの自由の世界にいる。ゲーム世界にいる。

 だから、すべての感情パターンが同価値だということは認めながらも、私はあえて喜びを選択する。



 ダメなものは選ばず、よいものを選ぼうとするのではなく、すべてのものはよいものであり、あるがままにあるものとしていったん受容したのちに「あえて、それでも私の趣味はこちら」と選択権を行使していくのだ。

 いいと常識で決まっているから、それに自分を合わせるようにして追うのではなく、あくまでもそれが好きだから、素直に好ましいと思えるから選択する。

 それこそが、生きるということである。

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