第126話 産声③

「ルルァァァアァァァア!!」


 木を避けること無く、水に通過させて移動する名前不明のナニカ。

 移動速度はレストの方が早いけれど、森という遮蔽物がある環境下では直線移動が可能な名前不明のナニカの方が微妙に速い。

 僅かに遅れるレストは直線上に木が無くなったタイミングで【ショートカット】を使い、召喚した爆裂玉を投げた。


「そりぁ!!」


 【天魔波旬】で魔属性付与された爆裂玉が水の表面に勢いよく当たり、爆発する。

 返ってきた爆風に速度を上げ、距離を離されないようにしたレストは、目の前の現象を思考する。


(足止め出来ないか)


 吹き飛ばした塩水の塊は直ぐに体へ戻り、ほんの僅かにだがダメージが入っている。


「よし、これなら。テンリ、絶対近づかないでね!!【ショートカット】」


 だが、再度投げた爆裂玉は一切のダメージは無かった。

 上空を飛んでいたテンリも回復した僅かなMPで魔法を使って、攻撃するがダメージは入らない。

 それを見て、名前不明のナニカの属性耐性が上がり、魔属性のダメージが入ってない可能性に気づいたレストは、現実逃避の行動した。


「【ショートカット】!おりゃ!!」


 意味がないかもしれない爆裂玉をひたすら投げたのだ。

 途中、泥濘で転び、爆裂玉が相手の背中を押していることに気づいたレストは、全力で走って名称不明のナニカと並走した。


「ゴルルァァァァア!!」

「ハァハァ【ショートカット】…」


 そんな中で、HPを常時監視していたレストは気づいた。

 爆裂玉は決してダメージが入らない訳じゃなく、たまにダメージを与えられている。

 それも、【天魔波旬】の魔属性付与できる限界が来て、魔属性付与無しの攻撃でもダメージを与えられたのだ。


(投げた感じ真ん中よりも体の端に当てた方が、HPを減らせる気がする) 


 と感覚的を頼りに、何度か試したレストは体を削るように爆発させるようにした。


(時々、HPが勝手に削れるけど爆破の余波かな)


 もう一つの気づいたことを脳内の奥に追いやり、レストはHPを順調に削る。



 そして、残りHPを半分まで削った頃、事態は急変する。

 名前不明のナニカの目的地へ近づいたからだ。

 徐々に速度を上げるそれに、レストは後ろから追いかける。


「急げ!!」


 山道を駆け回り、体力低下で身体能力が下がり、声を出すのにすら難しくなるほど、レストの呼吸が激しくなっている。

 その状態で自分に言い聞かせるよう叫び、無理やり足に力を込め、地面を蹴る。


「ルルルルルルル!!」


 最初の面影すら無くなった正体不明のナニカは、泥や落ち葉なども含み、形すら完全に失いながらも前進する。

 そんな中でレストは足の踏ん張りが聞かず、泥に全身を被った。


「くそぉ!!」


 立ち上がったレストは再び走り出す。

 そんなレストの近くに開いたマップ。

 島の全体図にボスモンスターのアイコン、クエストマークのアイコンが示されていた。


(このままじゃあ、あのクジラが!!)


 モンスターの進行方向、並びにボスモンスターのアイコンが動く先。

 この正体不明のナニカが目指す先は、弱っているアノークがいた砂浜だった。 


(どうするどうするどうするどうする)


 これから起こるであろう最悪の出来事アノークの死を前に、レストは考える。

 既に、背後から追っても差が縮まないほどの距離。

 爆裂玉を投げるのは、悪手になる得る状況下。

 このまま行けば、数分もしない内にナニカはたどり着く。


(どうす…る?……)

「テンリ!!」


 レストは正体不明のナニカの近くを飛んでいるテンリを見て、とある方法を閃いた。

 声を聞いて飛んで来たテンリに言う。


「テンリ、ハァハァ。頼む。持ち上げて。ハァハァハァ、運んで」


 テンリの手を掴み、指先でナニカの方を指す。


「…グルゥ」

「あい!」


 逡巡したテンリは、無言で瞳を覗くフタバに負け、体が軽くなったことに驚くレストを持ち上げる。

 地面から足が離れることに少し恐怖を感じ、徐々に上空へ上がる様子を見て、場違いだが反射的に声を漏らす。


「凄い…」


 テレビで見たことがある森の上空を進む光景が、そこにはあった。

 レストの反応に気を良くしたテンリは僅かに速度を上げ、経った数秒でナニカに追いつく。

 こんなあっさり追いつくことができたことに、無性に人間の限界というものを噛みしめながらレストは【宝物庫】から取り出す。


「もっと上に!!」


 三倍濃縮の炸裂薬を投げたレストの叫びで、テンリは垂直に上昇する。

 その直後、大爆発。


「ハァハァ。よし成功…」


 ナニカの目の前に落ちたそれで、後方へ吹き飛ばされていた。

 レストは爆発で生じる爆風を使い、アノークへ近づかせないよう無理やり遠ざけたのだ。

 爆散させられたナニカが集まる光景を見て、レストが気づく。


(あれ?あんな小さかったけ?)


 遠くにいるとは言え、あまりにも小さかった。

 ナニカのサイズが半分以下になっていたことに気づいたのだ。

 レストは思い出してみると、飛ぶ前の段階から最初より小さかった。


(水の量=HPの関係だったりしてね)


 レストの答えは大正解。

 この敵は、謎の状態異常で一切のダメージを受けないが、特定の方法でダメージを入れることは可能だ。

 それは塩水と化した体の分離だ。

 分離させた量で現在のHPに比例したダメージが入る。

 ただし、一定量の塩水があると、それは分離した扱いにならず体に戻る。

 時々攻撃と関係ないタイミングで入っていたダメージは、地面に塩水が吸収された分や、体に戻る前の塩水が何らかの理由で、一定量を下回って分離されたことによるダメージだ。


(念のために、もう一回吹き飛ばそうかな?)


 こうして、レストたちは無事にオブスキュアソルトマンを倒した。

 ちなみに、正体不明のナニカが目指していたのは、アノークではなく、もっと先にある海だったりする。


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次週の更新は用事がある為、書けたら更新します。

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