第98話 誰も止める者がいない…

「ほいっと……」

「ゴゴォォォォォォォォオ…」


 投擲した爆裂玉で残りのHPが削られて、光となって消え行く廃坑の悪夢。

 レストは討伐報酬を調べ、にやけ顔を晒している時、4つの鉱石を抱えて歩いてくるマーリンが呆れた様子で声を掛ける。


「お疲れさんじゃ」

「いや、楽しかったね~」

「……お主、本当に強かったんじゃな。てっきりネタ枠じゃ、と思ってたんじゃがのぅ」


 プレイヤーレベル50だったと、鉱物系装備だったのでレベル20の坑道の番人だったので、そこまで心配してなかったが。

 想像以上の攻撃力を持つ爆裂玉と、防御力が低い繊維系装備を使って、ごり押し勝利したレストに、マーリンは「本当にトッププレイヤーの一人なんじゃなー」と感慨深い気持ちになった。

 笑顔を浮かべていたレストは、急にネタ枠扱いされて突っ掛かる。


「ネタ枠じゃないし!」

「いや、現実でもお前はネタ枠だろ!?俺、何度その光景を見たからな」


 レストの反論で思わず素が出るマーリン。

 この反応に笑顔を張り付けたレストは、右手を胸に置いてから告げる。


「いやいや、そっちの思いつきで手伝う事も、しばしばかと。例えば…ロケット花火とペットボトルロケットの融合は、一番記憶に新しいですね」

「………」


 無言なマーリンを見て、笑顔をにっこりさせて会釈する。

 緊張感が漂う空気。

 二人とも譲れないものがあり、視線を外さず、火花を散らす。

 それを1~2分ぐらい続けて、いつも通り原因となった方が折れる。


「まぁ、今回はこれくらいでいいじゃろ…それより大丈夫か?」

「何が?」


 マーリンの一言で緊張感は霧散し、元に戻ったレスト。

 それを確認したマーリンは、顔色を伺いながら聞く。


「レストだから問題ないと思うが…ここのボスの攻撃を連続で食らったじゃろ?…VRゲームを勧めた手前、あれでトラウマにでもなってないかと思ってのぅ。ちょっと気になっただけじゃ」

「……」


 マーリンは途中で顔を逸らして早口になる。

 それに対してレストは無言で目を大きく開き、一瞬だけその優しさに苦笑した。

 そしてレストは、ちゃかさないように軽い感じで答える。


「大丈夫大丈夫。大きなモンスターに食べられたこともあるし、踏まれたこともあるから。最初はビビったけど、後半から現実では出来ない経験にワクワクしてたから全然問題ない。むしろ、ウェルカムって感じかな」

「……その能天気さが時々羨ましくなるわぃ」

「これでも警戒心は強いほうなんだけど…」

「そんなの子供の頃から知ってるんじゃ」


 心配して損したと言いたげなマーリンも静かに笑みを浮かべた。


「さて、荷物の整理をしないとのぅ」

「そうだね…あっそうだ。ついでに、最高品質な素材も上げるから、欲しい素材を言って?」

「……何を企んでいる?」


 落ちた鉱石を拾っていたマーリンは、当然レストの反応に訝しむ。

 この口調で気づかれてると分かり、あることを頼もうと考えていたレストは、相談内容を正直に言う。


「ピッケル持ってあいつともう一度戦おうかな、っと思ってる」

「……すまん。意味が分からん」

「廃坑の悪夢?とソロで戦いたい」

「いや、お主はレベル上げる必要ないだろ…もしかして、ドロップ品目当てか?」


 レストは首を振って否定し、ますます意味が分からなくなったマーリンはが素の状態で尋ねる。


「なんでだ?俺にはそこまでする必要性が分からない」

「うーん、なんて言えば良いだろうね…」

「話せない内容なのか?」

「うん?違う違う」

「なら、なんだ?」

「勘だけど、あのモンスターって採掘できそうじゃない?最初に採掘ポイントと出たし。だから、ピッケルで戦ってみようと思って」


 ぶっ飛んだことを言うレストに、マーリンは大きく口を開いて絶句した。

 まさか、ボスモンスターを採掘しようという話になるとは、さすがのマーリンも考えてなかったのだ。

 最初の形態だった廃坑の悪夢に採掘ポイントがあるからという、あり得そうな理由を上げるが。

 それが何故、ピッケル装備してソロで戦うのかが意味分からない。

 突拍子もないレストに慣れているマーリンは、ドロップ品を回収しながら頭で整理したことを聞く。


「とりあえず、廃坑の悪夢に特殊な倒し方があるかもしれん話は分かった…が、ソロの話との繋がりが見えん。どういうことじゃ?」

「えっーーとね。一つ目の理由として、ピッケルを使ったマーリンの筋力でダメージが与えられるか分からないこと」

「確かにのぅ…正論じゃわぃ」


 レストの話を聞いて、廃坑の悪夢の硬さを思い出したマーリンは、納得した様子で頷いた。


「それ以外にも、ピッケルの数が足りないかもしれないから、マーリンにピッケルを貸す余裕がないこと」

「ふむ。それも納得じゃ。既にワシのピッケルも無くなったからのぅ」

「…あっ。あと、【採掘】スキルが影響するかもしれない」

「あり得るわぃ」


 白い髭を撫でて、同意をしめすように頷くマーリン。

 隠し要素かもしれない内容に少し考えた後、採掘した鉱物を出していたレストに伝える。


「いいぞ。その場にワシもいることが条件じゃが」

「えっ、巻き込まれるかもよ?」

「お前さん、忘れてないか?」


 地面に魔法陣を構築し始めたマーリンが、


「【篝火】。あのボスの攻撃でこれは消されるじゃろ?だから、ワシが定期的に明かりを点けて戦えるようにするわぃ」


 と、火の玉を設置しながら理由を述べた。

 あの暗さでは【夜目】が効かないし、ずっと松明を持って戦う訳にはいかないし、他の索敵スキルを使って回避するという高等技術はないレストは、それに感謝する。


「助かるわ、ありがとう」

「ワシもどんな結果か気になるからのぅ。気にしなくてもいいぞ」


 レストを背にして、手をひらひらと振るマーリン。

 アイテムの選別(要らないものは貰った)を終えた二人は、廃坑の悪夢がリスポーンするまで、マーリンのレベリングを始めた。

 その方法は前と同じで、【挑発】スキルが乗った爆裂玉の爆発を使って、周囲のモンスターを集める方法だ。

 決めた周回コースを歩き、2周目に入った時、この方法を応用してもっと効率が良さそうなレベリングを発見した。


「なるほど。上を爆発させれば、上層にいるモンスターも寄って来ると」

「さらに上も爆発すればどうじゃ?」

「採用!」


 天井を爆破して、上階からもモンスターを集めるという発想だ。

 結果は上層からのモンスターは問題なく来れるが、さらに上の坑道からは空を飛べるノイズバットぐらいしか来れない。

 坑道にいるその殆どのモンスターが下りて来ないのだ。

 そして、モンスターが増えたことで魔法が足りなくなり、レストは持っていた松明を貸して、よりレベリングの効率を上げた。


「これで叩けば、発火するんじゃな?」

「うん」

「うむ…」


 このレベリング方法で天井を爆破し、塞がった道も爆破して進む二人。

 途中、坑道の番人が落ちてくることや、道を爆破しても通れない場所ができたり、二人が気づかない所で何人ものプレイヤーが巻き込まれたが。

 それを合計で6周、時間として2時間経った頃に廃坑の悪夢は復活した。


「じゃあ、やってくる!」

「頑張れ」


 効果が攻撃力+5、筋力+2、耐久減少軽減小、採掘可能な銅のピッケルを2本装備したレストは、戦闘を開始する。

 照明係に就任したマーリンが壁際を慎重に移動して明かりを点けていく中で、【天魔波旬】状態のレストはピッケルを振り回す。

 足を叩けば蹴られ、下りてきた腕を叩けば薙ぎ払われる。

 踏みつけ、握りしめ、連撃に、体の一部を投げ飛ばすや狂暴化、ボディプレスなど危険な攻撃に去らされながらも、その度にポーションで回復して凌いだ。

 そして一時間の激闘の末、息も絶え絶えのレストはどうにか勝利を収めた。


「それでどうだったんじゃ?」

「もしかしたら。ハァハァ。これかもっていうアイテムがある。ハァハァ」


 寝転がるレストにマーリンが見下ろしながら質問をすると、前回の討伐報酬にはなかったアイテムを出した。

 それは宝石店などで見掛ける、半分に切断された石の中に、空洞と紫色の宝石が内側の側面に張り付いた置物だった。


「名前はアメジストドーム。家具に分類される加工不可のアイテムみたい。効果が設置すると、周囲の寝ている対象に安眠を付与するって」

「安眠じゃと?」


 驚いた様子でアメジストドームをまじまじと見つめるマーリンは、頭を傾けて分かって無さそうなレストに教える。


「レストが持つユニークスキルのデバフの逆、現在判明しているバフ側の固有の状態異常の一種。目安として強弱がないのが特徴じゃよ」

「良い部類か」

「そうじゃ。その効果は確か…寝ている間だけ殆どの状態異常を回復をさせ、HPMPの回復速度を上げる効果で…それと、起床後に1時間だけ精神系の状態異常耐性上昇と同じ効果を発揮させるだった…はずじゃ。街の高級な宿のオプションとして存在するぞ?」

「ハァ。なんとなく分かった」

「お前は…」


 この効果の凄さにピンっと来てないレストに、呆れたかのようにため息を吐いた。

 でも、マーリンはいちいち指摘するのもめんどくさいので締めに入る。


「まぁ、最大の特徴として現時点で解除方法が無いのと、普通のバフとデバフの効果と重複する点じゃな…というか、自分のユニークスキルの状態異常ぐらい確認しとけよ」

「ノーコメントで…」


 最後に呆れが入った言葉をもらい、レストは視線を逸らし、話も逸らすことにした。


「マーリンもいる?」

「これ以上は貰う訳にいかん。それに…もう、照明係はパスじゃ。心臓に悪い」

「最後のが本音でしょ…なら、この情報を売っていい?」

「ワシはいらんぞ」


 情報の報酬が要らないというマーリンに、レストは驚いた様子で起き上がる。

 マーリンが地面に置かれたアメジストドームを持ち上げ、レストに渡しながら言う。


「ワシは手助けをしたに過ぎん。ここの発見にしかり、この討伐方法を発見したのは、レストじゃからワシはいらん」

「…頑固ジジィめ」

「それは、ワシにとって誉め言葉じゃ」


 テコでも動きそうにないマーリンに諦めながら毒づくレスト。

 それをマーリンが満足そうに笑い、レストが渋々と別の提案をする。


「なら、手助けの報酬としてさっき手に入れた品質5のルビーの原石と、自作のマナリングと、アメジストドームはあげる」

「最後のは要らん、が有り難く受け取っておこう。ここで否定すると何が出てくるか分からんしのぅ…あっ!?」

「何か、欲しいものあった?」

「余ってる松明を一つ貰えないか?」

「いいよ。耐性値が一番残ってるやつあげる」


 レストは報酬としてルビーの原石、マナリング、松明を渡した。

 それを受け取ったマーリンが「松明の方が強いじゃと…」と、杖が松明に負けた事実で愕然とする。

 そして、松明をメインウェポンにする魔法使いが誕生した。


「さて、レストよ。ここから、どうやって出るんじゃ?」


 【篝火】で照らされる廃坑の悪夢がいた廃坑の最下層は、二度の戦闘で壊れている所が見当たらない場所となっていた。

 それも入り口は、投擲された体の一部(討伐後に消滅)で瓦礫の山と化している。

 この光景を瞳に映したレストは、さも当然といった感じで言う。


「来た道を爆破。ダメだった場合は、天井を爆破して、その瓦礫を登る?」

「…それしかなさそうじゃな」

「それが終わり次第、レベリングしながら上がるよ。もう、マナポーションの在庫は少ないけど」

「この松明があるから大丈夫じゃよ」

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