第96話 というか爆裂玉も生まれる時代を間違ってる件
レストとマーリンは行き止まりを採掘して見つけた階段を、好奇心の赴くままに息を潜めて下り始める。
そこは天井から吊るされたランプがない代わりに、小さな横穴が開いており、中には時々木炭のようなものが置かれていた。
マップを開いているレストはそれに火を点けることもなく、手に取っては【宝物庫】の中へ入れる。
その行動を6回ほど繰り返した頃、廃坑へ下りる階段や上層から下層に下りる階段より長い階段を下りた先は、レストの松明でも全貌が分からない広い場所だった。
「レスト」
「気配、音、視線は感じない。ただ、高さも広さも結構広いかな。あと、見える範囲にも何もない」
マーリンの言葉足らずな呼び掛けに、レストは索敵のことを聞かれたと阿吽の呼吸を発揮して答える。
【気配察知】【音源察知】【視線察知】でモンスターは居ないこと、【音響察知】で周囲の状況、【夜目】でマーリンには見えない場所のこと。
それを手短に聞いたマーリンは背後も含めた範囲を確認した後、暗い場所へ指差して言う。
「念のために何個か【篝火】を置いて照らしておくかのぅ」
「MPは?」
「消費MPは少ないから全然問題ないわぃ」
火魔法【篝火】は【灯火】と同じように引火率や攻撃力が殆どない分、効果時間が長い照明ような火の玉を生み出す魔法だ。
【灯火】が浮遊してついて来るタイプに対して、【篝火】は特定の場所に設置するタイプの魔法である。
また、【篝火】の方が効果時間や効果範囲は少しだけ上だ。
その魔法を数分掛けて部屋中に設置したお陰で、部屋の全貌が明らかにされた。
縦横が約50メートル、高さが約20メートルの廃坑の通路が、部屋のようになった場所だった。
だが、一つだけおかしな所がある。
部屋の中心にある半径が約3メートル、高さが約5メートル歪な形をした大岩だ。
「これは一体?」
「……」
その大岩の近くまで来たマーリンは怪しみ、レストは無言で見つめる。
反応がないレストに、マーリンは「レスト?」と振り向きながら聞くと。
「これ、採掘できる」
「そっち系じゃったか」
レストは【採集】で気づいた採掘ポイントだと告げる。
がっかりした声音を隠しもせず、肩を落としたマーリンは本音を漏らす。
「てっきり、ボス部屋かと期待したのにのぅ…はぁー」
マーリンの残念そうな声は、誰も反応することなく、周囲に木霊した。
そしてため息と同時に、隣で素材主義を掲げるレストが両手にピッケルを装備し、近づいて振り上げる。
──ゴゴゴッ
その瞬間、まるで地震が起きたかのように揺れた。
正確には目の前の大岩が動く衝撃波による揺れだが。
「あっ感じる!」
腕で耳を押さえるレストは目の前の大岩から視線と気配を感じ、反射的に声を上げる。
──ゴゴゴゴゴゴゴッ
大岩の一部分が割れ、徐々に隙間が広がり、小石を落としながら塊が蠢いた。
その光景を間近で見上げているレストに、危機感を抱いたマーリンの声が届く。
「レスト!一端下がるぞ!!」
「り、了解!」
二人が十数メートル離れた頃、そいつは本来の姿を現した。
坑道の番人に似た全長が約6メートルを越える巨体。
しかし、大きく異なった場所が存在する。
「腕が4本だと…」
マーリンが戦いた両肩から生える腕の存在に、
「あと、指も増えてるよ!」
レストが興味深く思った人のように動く指の存在だ。
指が五本揃った四つの腕を持つゴーレムはレストに照準を合わせると、一歩踏み出した。
「ゴゴォォォォオ!!」
名前は“廃坑の悪夢”。
廃坑の最下層に存在するレベル50のエリアボスは古き眠りより目覚め、二人へ襲い掛かった。
◯
「レスト、頼む!!」
「えっ…り、了解!【挑発】【天魔波旬】」
魔法を準備し始めたマーリンに促され、レストはメニューで革手袋に装備を変え、左側へ走り出す。
【天魔波旬】の効果で畏怖と災禍が付与された廃坑の悪夢は、大きな音を響かせ、反応が遅い挙動でレストの方へ向いた。
さらに一歩詰めた廃坑の悪夢は高速で移動する小人に、右下腕を振り下ろす。
だが走り抜けられ、潰すことはできない。
「ゴゴォォォオ!!」
「それぇ、無理だからぁあ!」
全部の腕を時間差で振り下ろしてきた廃坑の悪夢。
レストは泣きそうな声で叫び、体勢を崩してもひたすら駆けて前進する。
少し経って落ちてくる四腕の多段攻撃を背後に連れ、絶叫しながら走って全て躱す。
「【ファイアボール】」
構築を終えたマーリンは左後ろから火球を放つ。
だが、削ったのは僅か3%のみだった。
それを見届けることなくマーリンが【ファイアバレット】の魔法陣を準備する。
しかし、30個の火弾は全て被弾しても4%しか減らなかった。
次に踏まれる可能性がある【ファイアサークル】を使うか悩んでいた時、
「こりゃ、初見は無理じゃのぅ」
マーリンは両足の隙間から見えたレストが右上腕で押し潰された光景を見て、苦々しく顔を歪める。
その後も、凹んだ地面に倒れるレストへ左下腕、右下腕、左上腕、右上腕と何度も拳が振り注ぐ。
最後の一撃と言いたげき、両上腕の指先を絡めてから振り上げ、両下腕で左右の退路を塞ぐ。
「これで終わりじゃな」
しかし、マーリンの予測は外れた。
実は、あの連撃でレストに与えたダメージは三割ぐらい。
廃坑の悪夢の今やろうとしている攻撃は、立ち上がり掛けているレストを再度潰すための攻撃だ。
レストは別の攻撃パターンに変わったことを見た瞬間、収束させた黒き衣の手を背後に伸ばし、黒き衣の一部を体に巻き付け、黒き衣の手の方へ自身を飛ばした。
「ゴゴォォォォォォォオオ!!」
そのすぐ後、振り下ろされた一撃はレストに当たらなかった。
再び走り出したレストはメニューでライフポーションを取り出し、HPを回復させる。
多段攻撃を再開させた廃坑の悪夢は、レストからの反撃を食らう。
それはゲリライベント『歩く災害』と呼ばれる、大量投入の大規模爆撃だ。
【ショートカット】で呼び出された5つの爆裂玉による爆発を食らった廃坑の悪夢は、
「ゴゴォォォオ…」
「俺を殺す気かぁぁぁぁあ!!」
「って、やば!?マーリン逃げてぇぇえ!!」
あまりの威力にマーリンがいる方向へ背後から倒れた。
ギリギリ回避したマーリンは見ることになる。
廃坑の悪夢のHPが半分以上削られた光景を。
「えっ、レスト強すぎじゃね!?」
この後、マーリンは取り敢えず魔法をぶっぱなした。
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