第81話 要注意人物レスト

 メンテナンス終了後、すぐにログインして約束の食堂に着いたアリスへ一本の連絡があった。


「…もしもし」

『おはようアリス。ごめんけど、用事があるから遅れる』

「…おはよう。分かった」

『本当にごめん。じゃあね』


 急いだ様子で連絡を切ったレストに、アリスは緊急メンテナンスで出来なかった用事があったのだろうと納得する。

 それから料理を注文し、緊急メンテナンスの内容を読んだ後、来ていたメールを確認すると、お詫び品を含む憎悪の下水道に関わった運営陣からの複数の謝罪文だった。


「…やっぱり今回のメンテナンス。私が関わってる」


 薄々勘づいていたが、メールにより今回の緊急メンテナンスが、自分と関わっていることを悟ったアリスは、気まずい心持ちで謝罪文に目を通す。

 そして、メールを読み進めて行く内に、あることが必ず書いてあることに気付いた。


「…私が泣いたのは、レストしか知らないはず」


 どの謝罪文にも、憎悪の下水道で泣いたことに対する謝罪が必ず書いてあったのだ。

 そこで、流し読みでスルーしていた掲示板に、レストが運営の監視対象になっていると書かれていたことを思い出した。


「……これって…」


 さらに、連鎖的に泣いたシーン以外にも暴露話のシーンなどが浮かび、アリスは無言で突っ伏した。

 様々な場面が生放送されていたことに耐えきれなかったのだ。


「…絶対、レストは要注意人物の方」


 羞恥心で悶絶しているアリスは、レストが要注意プレイヤーと運営に監視させるほど、バグキャラと化していることを知っているのでぼやく。

 心中でこれ以上の隙は見せない、と机に突っ伏して決意していると。


「おはようアリス…大丈夫?」


 そこへレストが約束の時間より20分も遅れて食堂にやって来た。

 アリスの状態を見て、案内してきた店員が扉を閉めるまで硬直していたレストが苦笑した後、席に着きながら挨拶を早々に安否確認をすると。

 ふるふると震え始めたアリスは突っ伏した状態で「…忘れてた」と漏らし、よく分からないレストが首を傾げた。


「えっーと…何を?」

「…レストが要注意人物だったこと」

「そっか~…あれ、アリスからさらっと酷いこと言われた気がする!?」


 くぐもった声で聞こえた内容にレストは、ショックを受けた顔で、胸を押さえた。

 扱いが悪くなった感じざるを得ないが、心当たりしかないので、何も言えなくなる。

 その反応に顔を動かして、口元は見せず、瞳だけをレストへ向けたアリスは、勘違いしていることに気付く。


「……レストが知らなくても良いこと」


 アリスは羞恥で悶えさせてやろうとも考えたが、昨日の下水道でフォローに免じて、今日は見逃すことにした。

 でも例え、アリスはレストに教えても、レストが何か変わると思えなかった。

 意味が分からなくて頭を傾げているレストに、アリスは話をそらす目的で、別のことを聞く。


「…その格好、何があったの?」


 いつもの格好ではないレストは、無言で視線を外した。

 変わらない装備はレストの手元、2つの指輪と皮手袋だけ。

 レストの上下の服は何も装備してない初期の格好で、頭にゴーグル単体、右の薬指に木の指輪が存在する。

 アリスが机の下を覗くと、スニーカーという、一言で表すなら今日から始めたプレイヤーのような姿だった

 30秒ぐらいの間があった後、アリスが聞いたらいけないこと聞いた、と思って狼狽えていると、レストが死んだ目で述べた。


「作る時代を間違えた…」

「…今度は何をやらかしたの!!」


 激しく動揺したアリスが反射的に身を乗り出し、掴んだレストの肩を揺らした。

 そんな状態のレストは静かに死んだ目で向け、視線を天井にやる。


「生産系ユニークスキルって他のユニークスキルより大したことない印象だったけど…正直あれほどヤバいとは思わなかった」

「…本当に何があったの!!」

「作っている途中に、まさか反撃されるとは思わなかったから驚いたな~…それで、やっとの思いで完成させたら、燃えていた装備がお亡くなるとは…」

「…いやそれどういう状況なの!!」

「作った物の中で、一番の失敗作で、一番の最高傑作」

「…もう意味が分からない!!」


 レストはそれ以上は一切、口を割らず。

 最後に「呪われたアイテムって凄いね。これを応用すれば…」という意味深な言葉だけを残した。

 呪われたアイテムが予想以上にヤバい代物に化けている、と知ってアリスはレストと同じように天井を見た。

 それから数分経ち、レストの「あっ…」という言葉でアリスも現実に戻って来ると、嬉しそうなレストが話し始める。


「アリスアリス。実はさ、育てている種が無事に、苗木ぐらいの大きさ成長したんだ」

「……それって、爆裂玉の材料?」


 アリスは脳内に昨日見ていた掲示板の内容を思い出した。

 でも掲示板とは違い、レストはオババの店で燃焼草を買っていたから、今育てているのは爆裂玉の材料と考えたのだが。

 レストは首を振った後、さらっと爆弾を投下した。


「あれ、言ってなかったけ?多分黄金に輝く木から貰った、何が生えるか分からない可能性の種だよ。いやー、それを果樹園に植えてしまったけど、木に成長して、本当に良かった。植え替えなくて済んだし」


 さらに爆弾を投下する。


「凄い植物が生えるように、プレミアム引換券でゲットした全種類の最高級肥料と自作の肥料も埋めて…」


 さらに、さらに爆弾を投下する。


「ついでに生命水で水やりもしてる」

「……絶対、大事になる」


 眉間を押さえたアリスは、後に大事となることを確信した。

 アリスの反応を見て、話過ぎたと思ったレストが慌てて別の話題を出す。


「大事と言えば、今回のメンテナンスのことだけど…」


 こうしてアリスは、レストの始めた話によって、本当の爆弾を問う機会を逃し。

 それがどういうものなのかを知るのは、たくさんのプレイヤーたちが見ている中で、レベル100のNPCたちより遥かに弱いレストが一撃で倒した時だった。

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