第66話 どう見てもネタ枠な件
遊び心とロマンが詰まったビー玉製造機で爆裂玉を量産した日から、さらに1日経った8月17日の10時前。
金欠になった覚えのある良心的な値段で有名な食堂にて、レストは店員に案内された個室に入った。
「おはようアリス」
「…おはよ」
既に座っていたアリスへ挨拶しながら、反対側の空いている席へ座るレスト。
ただし、一度もアリスに視線を合わせず、気まずそうな表情で別の場所を見たままだ。
何故なら、この3日間ずっとメールや電話を無視して色々迷惑掛けたから。
「いやー、その、ごめんね。まさか、所有しているプレイヤーホームが電話やメールすら不可能な場所にあるとは思ってなカッタ」
レストはここへ来る前にあらかじめ決めていたことを言いながら謝る。
でも、最後の方だけ気が緩み、カタコトになってしまった。
何しろ、ことの原因はレジェンドスキル【万物の創造者】だ。
それを隠しておきたいレストは、必死に同じような事を言って弁明する。
それをジト目で見ていたアリスは、壊れたロボットのように話すレストにチョップを入れて止めた。
「…はぁー、大変だったけど。事情があったのなら気にしない」
何を隠そう、アップデートがあったあの日。
アリスはレストがぶっ飛んでいたことを知っていたからランキング見ても、想像以上に1位を取っていること以外驚かなかったが。
仕事や事情で遅れてログインしたフレンドたちはランキングを見て、ログインしているレストにそれが本当か大慌てで聞こうとした。
でも、レストがいた【神工房】の転移先である神殿は、通常よりも速い時間が流れ、別の空間にある性質のせいで、電話をするどころか、メールすら送れなかったのだ。
そんな状況に遭遇した人たちはどうしたかというと、
──姉の勇者に聞くのが一番か。
──パーティメンバーの勇者に聞いてみましょう。
──今一緒にいるかも知れないし、勇者ちゃんに…ゴクリ。
みたいな感じで、レストに行く筈だった連絡が、しわ寄せのように全てアリスへ行ったのだ。
恩返しの為にアリスは3日間ずっと各地を放浪しながら、レストの代わりにフレンドたちの連絡を返し続けた。
“レストが弟ではないこと”や“自身も連絡が取れてないこと”、“自身もレストのことはよく知らないこと”などを。
そして、4日ぶりにレストへ連絡が着いたアリスは、これまで起きた事細かに説明し、他にも話したいことが会ったので呼び出したのが、ことの顛末だ。
「何か、色々迷惑掛けてすみません」
「…いい。こっちも恩があるから」
アリスの出来た人間性にレストは、秘密を守る為に言い訳ばかり言っていたのが、無性に恥ずかしくなって頭に机を打ちながら謝る。
アリスからの返答に、恩って何かあった?迷惑ならたくさんしたけど、とレストが思いつつ伝えてない言葉を言う。
「最後に一言いい?」
「…なに」
「ありがとう」
「……そう」
「ところで、アリスの【退魔之剣】って属性付与するスキルだったよね」
殊勝な態度で感謝を告げて来たレストが、突如満面な笑みを浮かべ聞いてくる。
それに何かが起こりそうな予感に襲われるアリスだったが、レストの勢いに言われるがまま頷く。
「もしかして、聖属性だったりして??」
「…えっ…何でそれを!?」
「そっか~」
「…もしかして【退魔之剣】を習得した!?」
「いや、全然ちがうけど…何で聖属性を知っているかは企業秘密」
絶対に教えてくれなそうな笑顔で話を中断したレストに、内心で「…またやらかしたな」と自己解釈をするアリス。
笑顔で表情を固定したレストを見て、知らないことや秘密にされていることが多い、と再確認して無性に悲しくなった。
アリスはいつか話してくれる事を期待して、ある話題を出そうとする直前、都合の良い存在という言葉が頭に浮かぶ。
(…それは嫌)
なので、牽制も兼ねて別のことを言う事にした。
「…企業秘密ならしょうがない」
「さすがアリス。話が分かる人なだけある」
レストの思わず出た言葉で、アリスの無表情が僅かに動いた。
(…話が分かる人。つまり、都合の良い存在ってこと…)
アリスは秘密を教えてもらえるぐらい仲良くなりたいと思った相手に合わせていたら、都合の良い存在止まりになると本で書いてあったのを思い出す。
そう言う場合は自身から行動することが重要と書いてあったことも。
まだ誰にも秘密を言いたくないレストに、行動を起こしたアリスの攻撃が炸裂する。
「…今は聞かないから、今度、レストのプレイヤーホームに招待して」
強烈な一撃でレストは思考停止した。
それに、アリスは畳み掛けるように再び仕掛ける。
「…パーティメンバーだし、レストを信頼してるから、私のステータスを教える」
衝撃が伴った一撃でレストは目を見開いた後、目を隠しながら天井を仰ぎ見て小声を漏らす。
(アリスは気が合う友人だけど。まだ信頼して、あれを話せるほど気を許してない。どうしたものか…)
信頼には信頼で答えたいが、ここで教えるという選択肢は無い。
出会ってまだ1週間ぐらいしか経ってないという理由もあるが。
一番の理由は【万物の創造者】を教えて、この心地良い関係を壊すかもしれないと懸念があることだ。
それが怖いレストは少しの間考えた後、正直に言った。
「ごめんけど。出会って1週間ぐらいだし、無理かな」
「……そう」
勇気絞り出して告げたアリスは項垂れる。
「いや、あーその、何て言えばいいか…」
落胆した無表情に、凄い罪悪感に襲われるレストは、必死に言葉を探す。
でも、こういう時になんと言えば分からず、信頼して少しだけ教えることにした。
「アリス。プレイヤーホームも含めて秘密で今は言えないけど。絶対にいつか言うから」
「…はぁー。分かった」
「でも、一つだけ教える。あっ、他言無用で頼むよ」
人差し指を立てて、珍しく無表情になったレストが低い声で告げる。
「アリスも頑張ってユニークスキル以上のスキルを見つけてね」
「…っ!?」
アリスは全身が冷たくなる感覚を味わった。
思考は止まる。だが、次々と脳に浮かぶ。それはレストに関する記憶。
その言葉を否定しようと思考する直前、レストが起こした大爆発によって否定そのものを否定される。
それどころか。
レストが作ったアイテムは、あまりにも強力過ぎる性能を持っていることが。
改造をしているかのように、本来改造でもしないと出来ない遠隔譲渡していたことが。
レストの初対面で異常なほど、警戒していたことが。
レストの言葉が肯定、つまり本当だと分析した。
(…そうだ!!レストの声、あの時の)
最初にレストと邂逅したあの日。
アリスはレストの声に違和感を覚えていた。何処かで聞いたことあると。
その正体が、
──エンドコンテンツ枠だろぉーー!!
8月7日に路地裏歩きていた時に聞こえた、宿からの意味不明な叫び声。
知り合う前に叫んでいた内容が、アリスにレストの言葉が本当だと確信させた。
レストがユニークスキル以上のスキルを持っていることを。
「…エンドコンテンツ枠」
「えっ、ちょっ待って。何でそれを!!」
「…思い出した。路地裏まで響いた誰かさんの絶叫」
「あの時かぁーー!!」
「…今、その声がレストだと気が付いて、あの時の言葉の意味が分かった。つまり、レストはエンドコンテンツ枠?のスキル持っているってことでしょ」
「………」
誰かさんが白目で魚みたいに口をぱくぱくさせているのを見て、アリスは頬杖をつく。
レストがユニークスキル以上のトンデモナイない爆弾を抱えていることから、何に不安を抱えていたかが容易に想像できた。
だから、いつもと変わらない自身を見せたのだ。
レストがしてくれたように。
「くっ、まさかあんな所で足が付くなんて」
意識が回復したレストが机に伏せてピクピクしてるのを見て、いつも通りで安心したアリスは、一瞬だけ無表情が綻ぶ。
静かに、これからレストをフォローする事と、自身もレジェンドスキルを習得することを決めた。
バンと机に手をついたレストはプルプルと震えた後に、頭を抱えて叫んだ。
「勇者パーティの謎のミステリアスキャラになるはずがぁーー!!」
「…へぇー」
「あっ、やば…」
この後、企みが露見したネタキャラは制裁を受けました。
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