第54話 紅月と狂いし狼⑤
「ガァァァァァァア!!」
「「ガァウ!!」」
マッドネスウルフが咆哮すると、それに続いてエレメントウルフも吼えた。
地面に設置された半径25メートルの魔法陣は輝き、空中に展開された24の魔法陣は火、水、風、土の弾へ変わる。
「…っ!!」
「やば!!」
放たれた四属性の弾に、二人は偶然にも似たような行動を取った。
アリスは剣を盾にするよう構えてクレーターに跳び、身を屈めて絨毯のような弾が過ぎるのを待つ。
僅かに遅れて、腕で体を守りながら反射的に後ろへ跳んだレストは、背後がクレーターだった事が抜けていて、地面への着地失敗で腕を上げて転がり落ちる。
クレーターで体を隠し、魔法弾が通過するのを待つアリスの足下に変化が現れた。
「…近くに!!」
マッドネスウルフがHP半分以下で使う、マッドネスウルフを中心とした半径5メートル以内にいるプレイヤーに、ダメージを与え続ける闇の足場。
それがアリスの足下にも現れた。
【退魔之剣】でHPを回復できるから本来なら、アリスに意味がない魔法だが。
アリスは咄嗟に転がり落ちる。
──ガチ!!
先程アリスがいた場所に、噛み砕いた音が響く。
近くまで来たマッドネスウルフがアリスを食べようとして、噛みついたのだ。
これはマッドネスウルフのHPが半分以下にまで減った時に、増える攻撃パターンの一つで、何人もの挑んだプレイヤーたちが倒せなかった理由の一つ。
マッドネスウルフが運営の悪意の塊とも言われるようになった、プレイヤーを喰らいHPを回復する技。
「っ!!」
クレーターの途中で転がるのを止め、立ち上がったレストが声を殺して、マッドネスウルフたちがいる方へ5つの爆裂玉を投げる。
それを学習しているマッドネスウルフは横へ跳び、回避に成功した。
でも、避けられることが分かっているレストの狙いはマッドネスウルフではない。
「「グァァ!!」」
エレメントウルフたちだ。
元々、エレメントウルフは可能なら殲滅力のあるレストが倒す予定だったが、前回アリスが近くにいたので任せた。
そのあと失敗したのと、あの大爆発でHPを削り過ぎたので、今回はエレメントウルフに狙いを絞っている。
マッドネスウルフが直前に回避したことで、魔法の準備をしていたエレメントウルフたちは回避行動が遅れ、爆発に巻き込まれた。
されど投げた位置が問題だった為、幾つかの爆裂玉は違う所へ飛び、倒せたのは8頭の内3頭。
それをレストは【気配察知】で確認して、新たに5つの爆裂玉を投げる。
警戒されていたのも合わさり、倒せたのは1頭のみだった。
レストの近くまで転げ落ちてきたアリスが手を使い、体が僅かに浮かぶ。浮かんだ体を上手く利用した止まるのと起き上がる動作を同時にして、レストの隣に立つ。
内心アリスのカッコいい動きに戦慄しながらも、レストは報告する。
「取り巻きは4頭倒したよ。あと、マッドネスウルフが前よりも速くなってる」
「…そう。参考までに聞くけどレストった敏捷いくつ」
「えっ…15だけど」
急に聞いてきたアリスに、エレメントウルフに爆裂玉を投げ、さらに1頭倒したレストは戸惑いながら答えた。
アリスが少し考えたあと、メニューを操作しながら告げる。
「…ステ振りするから少しの間頼んでいい?」
「マジ…」
マッドネスウルフとエレメントウルフがクレーターへ降りてきた時に、守れと言われレストは愕然とした。
それでも、レストはこの状況でステ振りするアリスには理由がある筈と考え、爆裂玉とライフポーションを取り出す。
「早めに頼むよ」
「…善処する」
レストはマッドネスウルフとエレメントウルフに爆裂玉を投げて答えた。
頷いたアリスはクレーターを滑りながら降りる。
「グルルルルルル」
「「ガァウ!!」」
「ガァァァァァァア!!」
二手に別れたのを見て、マッドネスウルフはエレメントウルフに指示を出す。
エレメントウルフたちにアリスを追わせ、マッドネスウルフはレストへ怒りの声を上げて向かう。
(賭けだけど、やってみるか)
斜めに滑りながら下って逃げるレストは8メートル付近まで近づいているマッドネスウルフを見て思った。
「食らえ!!」
レストは炸裂薬をマッドネスウルフに投げる。
大魔法を構築している時に横目で見ていたマッドネスウルフは、ポーション型の爆発物を危険と学習しているので、高速移動の力を使い、クレーターから出て天高く跳躍した格好で回避する。
マッドネスウルフがいた地点より離れた場所で、爆裂玉より大きな爆発。
避けてくれたことで、自爆しなくてすんだレストはほくそ笑む。
「あとはこれでいい!!」
止まったレストは爆裂玉を取り出し、下の位置にいるエレメントウルフへ一頭ずつ投げ始めた。
マッドネスウルフが全速力で戻っている頃には、エレメントウルフは全部倒され、アリスのステ振りは終わる。
『レスト終わった。今からクレーター登って平らの所で戦う』
「了解」
通話機能を使い連絡してきたアリスに従い、レストはクレーターを登り始めた。
少し経って現れたマッドネスウルフがクレーターの直前で立ち止まって、準備していた6つの魔法陣を並べる。
「もう魔法準備してる!!」
それに対してレストは慌てて石を投げたが当たらない。
マッドネスウルフは僅かに横へ移動して回避し、魔法陣を上に1つ、真ん中に2つ、下に3つというピラミッドのような形で展開された中心を、避けようとしているレストに合わせた。
「ガァァァァァア!!」
「流石にダメかもしれない…」
一斉に魔法陣から放たれた闇弾群が1つの塊に見えるレストは、頬を引き攣りながら言った。
レストは腕で闇弾から顔や体を守り、飛ばされないように踏ん張って耐える。
当たった数は放たれた数に比べれば、半分以上少ない。
でも、一つ当たりが闇玉よりダメージが低くとは言え、当たった数が多く、夜の能力強化と凶暴化などでマッドネスウルフの魔法は強化されている。
レストはHPが7割弱まで減る。
「えっ…」
攻撃が終わった瞬間、レストは回復するために走り出す。
だが、マッドネスウルフは既に魔法を放った時に、レストまで5メートルという距離へ詰めていた。
大きく息を吸って待機していたマッドネスウルフが吼える。
「ガァァァァァァァァァアア!!」
それは暴獣が共通して使う硬直の咆哮。
「…レスト!!」
近くまで来たアリスが見たのは、大きな口を開いたマッドネスウルフがレストを喰らった光景だった。
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