第53話 紅月と狂いし狼④
弱体化の雨を降らせない為に、レストがマッドネスウルフにとあるポーションを投げたことで、過去の爆発が可愛く見えるほどの大爆発が起きた。
規模としては爆心地から半径約45メートル以上、約50メートル未満の爆発規模が約100メートル。
大地も最大約30メートル弱の深いクレーターを生み出した。
この爆発の原因であるポーションの名称は“秘薬・三倍濃縮炸裂薬”。
レストが爆裂玉作成前に、偶然出来た二倍濃縮炸裂薬で何倍まで濃縮薬が出来るか試し、今作れる最高の三倍濃縮炸裂薬を奥の手として幾つか作っていた時、偶然このアイテムは生まれた。
完成時に虹色の輝きを放ち、通常とは異なる変化が起きた三倍濃縮炸裂薬、別の言い方をすれば大成功した三倍濃縮炸裂薬とも言える。
効果は一つを除けば、通常の三倍濃縮炸裂薬と同じ。変わった効果は小爆発から中爆発になったぐらいだ。
たかが効果一つ変わったぐらいで、何故ここまで威力が桁違いとなったか、という疑問が浮かぶだろう。
原因は幾つかある。
一つ目は、【神匠】によって中爆発から大爆発へなったこと。爆発効果は高い効果を持っているほど、他の効果と違って爆発の威力が上がる幅が大きいという点。
二つ目は、大爆発で中爆発より段違いに爆発威力が上がり、そこに中爆発の頃と変わらず多くの効果で強化された。それにより、有効範囲外でも大きな影響を与えることが可能となった。
三つ目は、レストが獲得した【爆殺強化Ⅰ】【通常攻撃強化Ⅰ】【投擲攻撃強化Ⅰ】による追加の強化。効力が低いとはいえ、3つのスキルで爆発を強化すれば、より強大な爆発となる。
他にも、地形破壊効果や強力な爆風による破壊範囲の拡張、投擲の攻撃力を上げる為に唯一高品質の素材から作られたレーザーグローブの影響、などの理由もあるだろう。
その結果、通常なら半径36メートル、有効範囲72メートルほどの爆発が超強化され、爆発規模約100メートルという爆発が起きた。
◯
1本のポーションが落ちた瞬間起きた大爆発。
マッドネスウルフの声量を越えた、爆音が二人の所まで届く。
雷鳴が響いた時のような、生物の根源的な恐怖で反射的に動いた肩と顔。
視線を向けたが直ぐに目を閉じ、レストもアリスも強風に煽られる。
「うわぁーー!!」
「…っ!!」
空中にいたレストは糸が切れた凧みたいに飛ばされ。
アリスは瞬時に剣を地面に刺し、付随して発生した地響きと強風に身を屈める。
「うぐっ!!」
地面へ滑り落ちたレストが苦痛の声上げながら数回転がり、腕と爪先で体を固定し、転げ飛ばされないようにした。
少し遅れて雨のように土が降る。
二人は終わるまでの僅か数秒が、体感では数十秒のように感じた。
「アリス大丈夫!!」
強風が止み、立ち上がったレストが僅かに揺れる地面を走り、焦った声を出しながらアリスに近づく。
腕をユラユラさせて立ち尽くすアリスは、僅かに口元が動いた。
「…ねぇレスト」
「すみませんでした」
アリスが見ていた特大のクレーターを視認したレストは、土下座して謝る。
「……はぁー。取り敢えず、怒るのは後にするから立って。今ボス戦」
色々言いたいことがあるアリスだが、ボス戦中なので今は胸に秘め、レストの肩を揺らす。
本心から反省しているレストは素早く立ち上がり、アリスは白光が包む剣を地面から引き抜く。
マッドネスウルフを見ていたレストは、驚いたような声を出す。
「あの攻撃食らっても耐えるなんて…」
マッドネスウルフは爆発をもろに食らっても生き残っていた。
場所は爆発で吹き飛ばされ、クレーターの外側。
天上に描いていた魔法陣は無くなり、土を大量に被って倒れ伏した満身創痍な姿。
初めに聞いた唸り声とは違う唸り声を上げ、牙を噛みしめ、立ち上がろうとしていた。
向けられていることが分かる殺意が込められた眼光に、レストは全身が冷たくなる感覚を味わう。
「…多分、確定演出だと思う」
レストみたいに姿は見えてないが、マッドネスウルフのHPを見てアリスは仮説を言った。
良く分からなかったレストが弱々しい声で聞く。
「確定演出って…」
「…HPが1割でぴったり止まってる」
「……本当だ。アリス凄い」
表示されているマッドネスウルフのHPが、1割の印がある場所で寸分の狂いもなく止まっていた。
その事を瞬時に気づいたアリスに、レストは素の称賛を贈る。
それに、ほんの少し照れながらアリスは説明した。
「…多分何かをしないと、あれ以上HPが削れない」
「フラグっぽいのは何にも無さそうだから…これからということか」
「…多分そう。HP半分までしか情報出てなかったから、本番はここから」
「削り過ぎてすみません」
「…あのまま戦っていてもじり貧だったからいい。さっきみたいなミスしなかったら」
「了解!!」
「…そろそろ行く」
「了解」
走り出したアリスに、ポーションを飲み終わったレストが追随した。
よろよろと起き上がったマッドネスウルフは一度体を振り、土を落とす。
「ガァァァァア!!」
毛を逆立てたマッドネスウルフが二人を、口を大きく開けて威嚇する吼えると、陽炎のように揺れる瞳と同じ色の光を纏う。
クレーターを滑りながら降りる二人に、見えなくなったマッドネスウルフの声が響く。
──ワァォォォォォオン!!
一度目は仲間を呼ぶ遠吠え。
──ワァォォォォォォオン!!
二度目は己と仲間を鼓舞する雄叫び。
──ワァァォォォォォォオン!!
三度目は力の限りを尽くして敵を倒す誓いの咆哮。
マッドネスウルフたちは紅月へ向けていた顔を二人がいるであろう場所に変えた。
「グルルルルルルルル」
「「グゥゥゥ」」
静かに低重音の唸りが響く。
それに共鳴するかのように声を揃えて唸る声が複数。
それぞれの武器を構え、クレーターを登った二人は見た。
「これ勝たせる気ないでしょ」
頬が引き攣ったレストは弱々しい声で後退り。
「…私もそう思う」
両手で持っている筈なのに剣先がぶれるアリスは顔を歪めて答える。
二人の目の前には悪夢のような光景が広がっていた。
額から漆黒の角が生え、さらに一回り大きくなった凶暴化状態のマッドネスウルフと、マッドネスウルフの前にいる8頭の凶暴化したエレメントウルフ。
マッドネスウルフを中心とした地面に描かれた大きな魔法陣と、エレメントウルフが待機させている大量の魔法陣。
そして、マッドネスウルフが紅月から降り注ぐ光で照らされた姿。
「ガァァァァァァア!!」
「「ガァウ!!」」
茫然と立ち尽くす二人に、本気となった暴獣の王と、その従者たちが反撃の狼煙を上げた。
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