第9話:呪い
しかしながら当初の思惑とは裏腹に
どんな制度も時代を経れば、その時代に合わずに形骸化するのは当たり前と言えば当たり前であろう。しかしながら、その制度を発布している中央から離れると、頑なにその制度を守っていることがあるから、話はややこしくなる。
さて、話を戻そう。馬小屋にある藁の束の上で男連中が寝泊まりすることになったのだが、馬の糞尿の匂いが充満しており、シャトゥ=ツナーとしてはたまったものではない。ネーコ=オッスゥはさすがに傭兵なだけはあって、馬小屋で寝ることには慣れており、グースカピーと寝息を立てて、さっさと眠ってしまうのであった。
「すごいッスね……。よくもまあ、こんな臭いところで寝れるッスよ……」
「ふむっ。藁のベッドにダイブしたかと思えば、3分も経たずに寝息を立て始めたな。わたしでも慣れるのに10分はかかりそうなくらいの臭いだがな……」
この臭いに慣れることが出来るだけ、マスク・ド・タイラーも大概ッスと思ってしまうシャトゥ=ツナーである。自分だけ、その辺の軒下でクッションでも枕代わりに寝ようかとさえ思ってしまう。だが、せっかく藁のベッドを寒村の住民に作ってもらったというのに、それを使わないのも恩を仇で返してしまう気がするので、躊躇せざるをえないシャトゥ=ツナーであった。
「ふむ……。シャトゥくんは寝ないのか?」
「いや……、寝ないんじゃなくて、寝れないだけッス……」
「よしわかった。そんなシャトゥくんにとっておきのアイテムを渡そう」
事情を察したマスク・ド・タイラーが身を起こし、あぐらの状態になる。そして、その姿勢で黒いパンツの中に両手を突っ込み、何かを探るかのようにごそごそとしだすのであった。その姿があまりにも奇妙であり、シャトゥ=ツナーはもしかして、ち〇こをいじっているだけではないのかとさえ思ってしまう。
「じゃじゃーん! 鼻詮だっ!」
「って、それ、ただの洗濯ばさみじゃないッスか!」
シャトゥ=ツナーは思わず右手の甲でマスク・ド・タイラーにツッコミを入れてしまう。マスク・ド・タイラーはハーハハッ! と高笑いで答える。しかも、どれどれ、この効果の高さを実感してほしいと言い出して、無理やりシャトゥ=ツナーの鼻を洗濯ばさみで挟んでしまうのである。
「いたたたっ! あんた、本当に馬鹿ッスね!」
洗濯ばさみを鼻に取り付けられたものだから、余りにもの鼻の痛みにシャトゥ=ツナーは藁のベッドの上で身悶えしてしまうことになる。しかも、何かの力が働いているのか、洗濯ばさみが鼻から外せないのだ。
「これは拷問道具の一種でな……? さる高貴な身分の方を苦しめるために使われていたシロモノだ……。この洗濯ばさみには
「なんでそんなもん使ったッスか! 命の恩人でもなかったら、あんたをぶん殴っているとこッスよ!」
シャトゥ=ツナーが涙目になりながら、マスク・ド・タイラーに抗議をする。抗議を受けている側のマスク・ド・タイラーは、ハーハハッ! と高笑いをするのみである。しかしながら、鼻の痛みのせいか、馬の糞尿の臭いは気にならなくなったのは確かである。そのため、怒るべきなのか、感謝するべきなのか、シャトゥ=ツナーにはわからなくなり、うぐぐ……と唸った後、マスク・ド・タイラーに抗議するのはやめるのであった。
とりあえず、どうしても耐えれない糞尿の臭いが軽減されたことのほうが、シャトゥ=ツナーにとっては利益が大きかった。結局、
それから数時間後、夜明けを告げる鶏の声が寒村で響き渡る。現在時刻、朝5時半。6月半ばを過ぎつつあるということもあり、夜が明けるのも早く、鶏も早起きしたのである。ナナ=ビュランたちは鶏の鳴き声で起こされる形となり、寒村にある井戸のひとつの周りに集まりだす。村民たちは気を利かせ、他の井戸で水を汲み、炊事を
「おはよう……。皆、よく眠れた?」
「僕はぐっすり寝かせてもらったんだみゃー。ナナ殿はよく眠れなかったのみゃー?」
「それが、ダニに手足を噛まれちゃって……。ほら、見てよ」
ナナ=ビュランはそう言うと、左腕の腕先をネーコ=オッスゥに見せる。するとだ、ナナ=ビュランの左手首辺りに紅い斑点が出来上がっていたのである。なんともまあ、痒くてしょうがない場所を噛まれたモノだとネーコ=オッスゥは思わずにはいられない。ネーコ=オッスゥは後で虫刺されに効く薬を探してみるみゃーとナナ=ビュランに言うのであった。
そんな彼女らであったが、シャトゥ=ツナーが彼女らの前に現れることにより、虫刺されのことなど、どこかに吹っ飛ぶことになる。ネーコ=オッスゥはシャトゥ=ツナーの顔を見るなり、腹を抱えて大笑い。ナナ=ビュランはシャトゥ=ツナーから顔を背けて、口に両手を当てて、必死に笑いをこらえることになる。
「笑いたければ思いっ切り笑えば良いッス……。俺も頑張ってみたは良いけど、外れなかったッス……」
さすがは
「そそそ、それ、どうやって外す……の?」
「わからんッス。わかってたら、とっくの昔に外してるッス……」
シャトゥ=ツナーはほとほと困ったという顔つきであるが、ナナ=ビュランたちにはその困り顔すら滑稽に思えてしまう。洗濯ばさみを鼻に取り付けた張本人は、シャトゥ=ツナーが起きた時には、隣には居らず、どこかに行ってしまっていたのである。しかしながら、生存者が井戸に集まり終えて、10分も経過すると、その張本人もやっとご登場となる。
「ふぅ……。村民たちに聞いたり、荷馬車の荷物を漁ったりしてきて、時間がかかってしまった。ようやく
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