第3話:破城槌
マスク・ド・タイラーはバッキョーン! という金属がへし曲がって吹き飛ぶ盛大な破壊音を耳にした後、続けてコニャック=ポティトゥの左側頭部に右足で蹴りを入れて、それを勢いとして、いったん、彼女から身を離すことにする。距離を取られたことで、コニャック=ポティトゥの右腕の大鎌は虚しく宙を斬ることになる。
「クフフ……。予想以上にやりますワ。これは全身全霊を持ってして、相手をする他、なさそうデスワ」
「ふんっ! 貴様がまだわたしに勝てるとでも思っているところが末恐ろしいわっ!
黒い獅子の
しかし、それでもコニャック=ポティトゥは舌なめずりをやめない。彼女に一体、どんな策があろうかと思えるマスク・ド・タイラーであるが、かかってくるならば粉砕するまでよ! との気構えである。
それから、マスク・ド・タイラーとコニャック=ポティトゥの睨み合いが数十秒続く。マスク・ド・タイラーはコニャック=ポティトゥがもう一度、あの口から火球を生成し、こちらに飛ばしてきたら、カウンターをぶち込む気であった。
しかしながら睨み合いの均衡を崩し、先に動いたのはマスク・ド・タイラーであった。カウンターを恐れて、コニャック=ポティトゥは火球を生成しないと踏んだマスク・ド・タイラーは自分から攻めることを決めたのである。
彼の胸の前30センチュミャートル先の何もない空間にいきなり直径20センチュミャートルほどの黒い渦が出来上がる。その渦の中にマスク・ド・タイラーが右腕を突っ込む。そして、勢いよく、その黒い渦から右腕を引っこ抜くと、その右手には長さ1.8ミャートルはあろうかという銀色の
マスク・ド・タイラーは、その銀色の
コニャック=ポティトゥは右腕を自分の右側から大きく振り回していく。マスク・ド・タイラーはこの時、こう思う。彼女の竜顔を真正面から唐竹割りでぶった斬る予定だったので、彼女は自分の身体を真一文字に薙ぎ払おうという相打ち覚悟の斬り結びであると。
マスク・ド・タイラーはここで躊躇する。相打ちで決着をつけるほどの相手でも無かろうと考えたからだ。マスク・ド・タイラーは唐竹割りを中断し、両手を翻し、
マスク・ド・タイラーの左側から振り回されてくる大鎌が黒い霧を噴出する。そして、その黒い霧を突き破り、なんと、太さ50センチュミャートルはあろうかという
これにはマスク・ド・タイラーも驚くしかなかった。破城槌の丸い端がマスク・ド・タイラーが盾代わりにした
そもそも大鎌が来ると思っていたので、それをはじいて、続けざまにその右腕を叩き斬ってやろうとしていたのだ。だからこそ、マスク・ド・タイラーはまだ攻撃をするための重心を保っていたのである。それゆえ、
カウンターを狙っていたのはマスク・ド・タイラーだけでは無かった。コニャック=ポティトゥもまた、彼の動きに合わせるつもりだったのだ。マスク・ド・タイラーが両手に握っていた銀色の
好機と見たコニャック=ポティトゥは続けざまに攻撃を繰り出す。虎のような下半身をダイナミックに揺らし、ドスンドスンッ! と言う重低音を奏でながら、破城槌をもう一度、マスク・ド・タイラーにぶち当てようと、走り出していた。
宙を舞い、2~3度、地面に打ち付けられたマスク・ド・タイラーは、土煙をあげながら自分に向かってくるコニャック=ポティトゥにチッ! と舌打ちしてしまう。コニャック=ポティトゥは剣技を捨てて、力任せの突進を選んできたことに苛立ちを覚える。確かに、左腕を失ったコニャック=ポティトゥがマスク・ド・タイラーと斬り結ぶという選択肢を捨てたのは戦術としては正しい。
しかしだ。そこに誇りや矜持など存在しない。マスク・ド・タイラーは彼女が人竜一体モードになるまでは、剣技のみでやりあってきていた。だからこそ、彼女は『技』にこそ誇りを持っていると思っていたのだ。しかし、形勢が不利と見るや否や、その誇りを捨てて、形振り構わず、『力』に傾倒した。そこにマスク・ド・タイラーは苛立ちを覚えたのである。
マスク・ド・タイラーは自分に向かって、真っ直ぐに突っ込んでくるコニャック=ポティトゥを地面を転がりながら回避する。さながら彼女は重装騎馬に跨り、その上で馬上槍を構えて突っ込んでくるようでもあった。しかし、彼女が手に持つのは馬上槍という生易しいものではない。城の強固な鉄製の門すらも楽々と破壊してしまいそうな破城槌であった。
彼女は走りながら反転し、またもや、マスク・ド・タイラーに向かって突っ込んでいく。彼我との体重差は10倍ほどもある。正面からまともにぶち当たれば、
しかし、マスク・ド・タイラーは思いもよらぬ攻撃に晒されることになる。
「
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