第8話:ご婦人用
「ああ、話に聞いていたアレ用なのね? ふーーーん?」
ナナ=ビュランとしては眉唾モノの話であった。そいつが何にもないような砂漠に生息しているくせに、何故に金銀宝石を欲しがるのかが、てんでわからない。それよりも食料とかのほうがよっぽど良いのではないか? とさえ思ってしまう。それを察してか、ネーコ=オッスゥが
「カラスや
ネーコ=オッスゥの言いになるほどねえと納得してしまうナナ=ビュランである。習性と言われれば、返す言葉も無い。何故、そんな習性を持っているかについては、学術兼宗教都市:アルテナに住まう学者連中に聞くしかないだろう。彼らはこと、
生態調査と言い換えたほうがしっくりとくるかもしれない。彼らは自分の趣味を仕事へと昇華している存在だ。生態調査と言えば、国や法王庁から研究資金が降りてくるのだ。これほど美味しい話が学者連中にあるだろうか?
もちろん、国や法王庁にも学者連中が
さて、話を戻そう。ナナ=ビュランは金貨と銀貨の詰まった袋を集荷場所に持っていく。そこには一見、もう再利用は無理だと思うような品も置かれていた。しかしながら、とりあえず使えそうな物は集めてみようとのことで、荷馬車の周りを捜索しているわけであるから、ナナ=ビュランとしても、こんな物、さすがにゴミじゃないの? とは言いにくいのであった。
「って、ちょっと! なんで、あたしのショーツがここにあるのよっ!」
「ん? それはナナくんのショーツだったのか? ご婦人が履くような色気の無いショーツだったから、傭兵の誰かのだと思っていたのだがな?」
マスク・ド・タイラーは、はて? と言った感じで困惑気味である。年頃の女性が履くショーツと言えば、紐パンが主流の昨今である。何と言っても、ゼラウス国の工業都市:イストスでは、ここら一帯の下着類の制作の聖地である。余りにもいやらしい女性用下着を開発したこともあり、国外からあそこは性地だと揶揄されるほどだ。
さすがにそんな悪評を国外から受ければ、ゼラウス国の国主も工業都市:イストスの職人たちに文句を言う他なかった。それゆえ、いやらしくても気品を感じる女性下着を作るようにとお達しが出たのであった。
その職人たちの血のにじむような努力により、紐パンという芸術品が生まれたのである。だからこそ、ゼラウス国出身のナナ=ビュランのショーツが、こんな色気の全く無い薄桜色の婦人用ショーツのわけがないだろうとタカを括って、集荷場所に野ざらしで置いておいたのであった。
「色気が無くて悪かったわねっ! あたしだって、
紐パンの欠点は、ショーツの左右の両端を蝶々結びで下半身に固定することである。激しい戦闘が予想される今回の旅において、紐パンがずり落ちて戦えませんなどという状況などあってはならないことである。それゆえ、ナナ=ビュランは戦闘に適した婦人用下着を選ばざるをえなかったというわけである。
「ナナ……。いくら憤っているからって、ショーツを振り回しながら、タイラーさんに文句を言うのはやめるッス……。ただでさえ、普段、色気が無いのに、余計に萎えるッス……」
「何が萎えるのよっ! 気分が落ちるくらいどうってことないでしょ!?」
シャトゥ=ツナーがまたもや余計な一言を言ってしまい、ナナ=ビュランの怒りの矛先は彼に向けられることになる。横で見ていたネーコ=オッスゥが、はあやれやれと肩をすくめ
「そりゃ、物理的に萎えるみゃー。あっ、失言だったみゃー」
「物理的!? 物理的って何よ!?」
「言葉のあやってやつだみゃー。ナナ殿は気にしなくて良いんだみゃー」
気にするなと言われると余計に気になってしょうがないナナ=ビュランであった。気分が落ちる以外の意味で萎えるなんて表現があるのかどうかとさえ思ってしまう彼女である。いくら受け流しても、ナナ=ビュランがしつこくネーコ=オッスゥに喰いかかってくるので、彼は面倒くさそうに右手で後頭部をぼりぼりと掻き
「ち〇こだみゃー。ナナ殿に色気が無いから、ち〇こが物理的に萎えるんだみゃー。彼氏に言われたことが無いかみゃー? やっている最中に萎えたって」
「ち、ち〇こ……!?」
ナナ=ビュランはネーコ=オッスゥの一言がまるで理解できなかった。そもそも、ナナ=ビュランは男性の性器をまともに見た記憶が無い。そもそも虎の精液の一件の時すら、それが何であるかもわからない女性であった。性知識が恐ろしく無いのである。
ナナ=ビュラン。御年16歳。数年後にはヨン=ウェンリーと結婚する予定である。しかしながら、ナナ=ビュランは法王庁が子供たちへ教える『赤ちゃんは
ナナ=ビュランの口から、え? え? と訝し気な疑問符が漏れる。それを見たネーコ=オッスゥは今日、何度目になるかわからないため息をはあああとつく。
(ナナ殿は法王庁所属の聖堂騎士を目指しているって言ってたもんみゃー。それなら、知らないのも致し方ないみゃー。しかも生まれも育ちも学術兼宗教都市:アルテナだみゃー。法王庁は自分たちのやっていることを見直すべきなんだみゃー)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます