第10話:マスク・ド・タイラー
ナナ=ビュラン一行とポティトゥ3大貴族と名乗る者たちとの戦闘が始まり、10分ほどが経過する。この時点で、ナナ=ビュランを護る警護隊は半壊していた。槍隊10名中6名が死亡。弓隊5名は全滅。斬り込み隊5名は怪我こそしているが、
しかし、すでに警護隊は戦うための戦力は保持しておらず、全滅を待つだけの身となっていた。
「リーダーだけでもナナ殿を連れて、逃げてくだせえ!」
斬り込み隊のひとりがそう叫ぶ。警護隊のリーダーであるネーコ=オッスゥはその提案に苦渋の選択を迫られることになる。同じ釜の飯を食ってきた仲間を見捨て、雇い主だけを逃がすのはどうなのであろうか? しかし、傭兵は金で雇い主と契約しているのだ。ネーコ=オッスゥはギリギリッと歯ぎしりしながら、ナナ=ビュランの下に走っていくのであった。
そして、ネーコ=オッスゥはナナ=ビュランを抱きかかえ、荷馬車の荷台部分に強引に乗せる。ナナ=ビュランは何かを喚き散らしているが、ネーコ=オッスゥに出来ることはこれしかなかったのだ。事態を察し、後から荷馬車に飛び込んできたシャトゥ=ツナーはナナ=ビュランが荷馬車から飛び降りないように必死に彼女の身体を押さえつける。ナナ=ビュランは荷台で暴れ回ったが、シャトゥ=ツナーは彼女に覆いかぶさるように全体重を乗せて、彼女を無理やり押さえつけるのであった。
ネーコ=オッスゥは
そこからUターンするためには、怪物たちのすぐ脇を通らなければならない。だが、ためらっている時間など1秒たりともなかった。マウント=ポティトゥとはニヤリと笑う。自分に向かって荷馬車が猛スピードで走ってくるからだ。マウント=ポティトゥは棍棒のような右腕を大きく振り上げる。その右腕で向かってくる荷馬車を吹き飛ばそうとしたのだ。
しかし、護衛隊のの生き残りたちが、全員、一斉にマウント=ポティトゥに攻撃を開始する。手に持つ
警護隊の面々の助力もあり、荷馬車はUターンに成功する。出来る限りの速度でネーコ=オッスゥは戦場からの離脱を計ろうとした。しかし、ジャガ=ポティトゥが4本足を巧みに動かし、後から荷馬車を追いかけ始めたのだ。さすがはケンタロウスに似た姿なだけあり、全速力で逃げる荷馬車とほぼ同じ速度を生み出していたのだ、奴の4本足は。
「ヒーヒヒッ! その女を寄越せだギャ! その女のはらわたは、わてが喰らう予定なんだギャギャギャ!」
高笑いをしながら、ジャガ=ポティトゥはネーコ=オッスゥが操る荷馬車に肉薄していく。ジャガ=ポティトゥはイバラの鞭のような両腕を振り回し、荷馬車の幌に打ち付けていく。何度もイバラの鞭を当てられることにより、荷馬車の幌の後ろはボロボロになっていく。
「ネーコさん! もっと速度を上げるッス! このままじゃ追いつかれちまうッス!」
「だめだみゃー! これ以上は速度が上がらないだみゃー!」
シャトゥ=ツナーは荷馬車の速度が出来る限り上がるように、かつ、追いかけてくる怪物の足止めのためにも、荷馬車の中に積まれていた荷物を次々と怪物目がけて投げていた。しかし、ジャガ=ポティトゥはしなる鞭を振るい続けて、飛んでくる物体のことごとくを打ち払うのであった。万事窮す。まさにこの言葉が最適であった。
シャトゥ=ツナーは決心する。自分が荷台から飛び降りて、1秒でも迫りくる怪物の足止めをしようと。
「やめろみゃー! シャトゥ殿ひとりで時間稼ぎ出来る相手じゃないみゃー!」
そんなことは百も承知のシャトゥ=ツナーである。しかし、ここで何もせずにいるほうがおかしいと思ったシャトゥ=ツナーは意を決して、荷台から飛び降りようとした。したのだが、彼の視界の端にとあるひとりの男が写ったのである。
その男は黒い
その奇妙な男は、ただゆっくりと歩いていた。しかも、こちらに猛スピードで走ってくるジャガ=ポティトゥに向かってだ。シャトゥ=ツナーは自分が幻覚を見ている気がしてたまらなかった。忘れもしない、商業都市:ヘルメルスでチンピラに絡まれた時に、自分たちに助け舟を出してくれた、あの男で間違いないのだから。
ジャガ=ポティトゥも奇妙な男の存在には気付いていた。しかしながら、このまま跳ね飛ばしてしまえば良いと思った。だからこそ、速度を落とさずに奇妙な男に向かって、真正面から突っ込んでいったのだ。
だが、ジャガ=ポティトゥがその奇妙な男を跳ね飛ばすことはなかった。男はゆらりと揺れるようにジャガ=ポティトゥから向かって右側にずれたのだ。なんだこいつは? ジャガ=ポティトゥがそう思った瞬間であった。突然、自分の右わき腹が盛大な爆発音を伴って、爆ぜたのである。
その爆発の余波を受けて、ジャガ=ポティトゥは大きく左に逸れて、そして、その勢いのままにゴロンゴロンと跳ね回りながら倒れ込んでしまう。
突然、平原に轟く爆発音により、ネーコ=オッスゥが操る馬たちがヒヒーーーン! と雄叫びを上げて止まってしまうのであった。馬は音に敏感な動物である。後方からの鼓膜を突き破らんばかりの爆発音に心底驚き、その足を止めてしまったのである。そして、馬が止まってしまったために、荷馬車はギャリギャリギャリと車輪を鳴らしながら、横に倒れてしまう。
「どうしたんだみゃー! いったい、何が起きたんだみゃー!」
ネーコ=オッスゥが横倒れの
自分の眼に映ったことが信じられないのだ。だが、それでもぽつりぽつりと彼は口から言葉を出す。
「マスク・ド・タイラーッス……。マスク・ド・タイラーが、あの怪物の腹に
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