第49話「反撃開始ッ(前編)」

『そう、だ───な』




 アルガスは知らず知らずの内に頷いていた。

 そして、自らとて理解していた。


 自分に嘘をつき、卑怯者の誹りを受けようとも、生き延びようと……。

 ミィナを守り、自分を守り、リズを迎えに行くため、安全な道を選ぼうとしていた。


 そう。一つの街を見殺しにしてでも……。


「うん……。信じようよアルガスさん……。チハたんは弱くないよ? 負けないよ?」


 あぁ、そうだ。

 分かっている。


 分かっているさ……。


「おっさん……」


 シーリン。

 礼を言うぜ──────……。


 お前のおかげ仕業で、俺は九七式中戦車を知ることができた。


 のものの戦いを知ることができた。そして、本当の絶望をというものを、彼のものを通して見た……!


 ───だから感謝する。


 九七式中戦車死ぬ覚悟で戦うということを、俺の中にあった慢心の心を明け透けにしてくれてよ!!


 そうだ。

 そうだった……。


 ───俺はいつだってギリギリだった。


 ジェイスたち、勇者パーティとやらに同行して以来、いつもいつも、死の間際に立たされていた。


 それが偶然にも『重戦車』に進化したことで、随分調子に乗っていたらしい。


 これじゃあ、リズに再開しても──逆に、あの子にぶっ飛ばされるところだった。


 勘のいい、あの子が気付かないはずがない。

 アルガスが、ベームスの街を見殺しにして逃げてきたことに……!


 少なくとも、それを許せる子に育てた覚えはない。


 オレの欲目もあるのだろうが、真っ直ぐに育ってくれた。

 卑怯者を許せないくらいには、真っ直ぐに!


 ならば、俺はあの子に恥じないように生きないとな……。


『あぁ…………ミィナいうとおりだな。チハを信じよう───。ミィナを信じよう』

「うん!! いいよ! 私はチハたんと──アルガスさんを信じてる!」


 そうだな。

 そうともさ!!


『シーリン!』

「ひゃ? ひゃいい!───あだッッ?!」


 突然呼びかけられたシーリンが前方銃手席で飛び上がる。


 ゴン! と頭を思いっきり打ち付けて涙ぐんでいるが、知った事じゃあない。


『───……外に出て、足回りの障害を取っ払え』

「は?! え!?」


 男爵軍がウロウロしている中を、女の子に身一つで出て行けというのだ。

 さすがにシーリンも首をブンブン振って拒否する。


「む、無理無理無理!! 外に出たらウチ孕まされてまうわ!!」


 誰が孕ますか!!


『いいから、いけッ! テメェの不始末の尻拭いくらいしやがれ!』


 苦戦の原因は、シーリンのしでかしたことが大きい。


 これくらいやらせにゃ、割に合わん!


「うううう…………! わかったわッ!!

あーーーーーもーーーーー!!」


 相当悩んでいたようだが、ついにはシーリンも覚悟を決めたようだ。


「ウチが犯されたら、責任取ってもらうでぇぇえ!!」


 何の責任だよ……!


「あと、コレ借りるでぇぇぇえ!! この棒をな!!」


 ちょ?!

『オマッ!? どこ掴んでるねん、あッ♡』


「大丈夫や! 優しく、抜いたるわ!!」


 ふん!! 気合一閃、前方機銃を銃架から留め具を外して引っこ抜くシーリン。


『はぅ?!──────ぬ、抜くんじゃねぇぇえ!!』


 って、もう抜いとるがな?!

 俺の前方機銃、勝手に持っていくなや!?


「───おらぁぁぁ、退けどけぇぇえ!!」


 バカ力を発揮して、片手で九七式車載重機関銃を構えると、シーリンは前方銃手席の天蓋を解放して外に躍り出た!


「韋駄天のシーリン参上ッッ───とぅ!」


 ポケットに大量の弾倉を詰め込んで、銃をブングラと振り回し地面に降りると、アルガスの足回り───履帯キャタピラに挟まった破城槌の破片を取り除きだした。


「だ、男爵さま! あれを!」

「狙い通りです! 中から出てきやがった」


 コッソリとアルガスの様子を窺っていた斥候がすぐに報告し、それに気づいた男爵がすかさず、兵に一部を差し向ける。


 もしかしなくても、こんなチャンスを狙っていたのかもしれない。


 乗馬ごと、グルン! と向きを変えると、

「かかった! ガキが出て来たぞ─────捕らえろッ!」


「「「おおう!!」」」


 あらかじめ予定されていたのか、一個小隊程度の兵がすぐさま反転───シーリン目掛けて突進を仕掛けてきた。


「き、きよったぁっぁああ!!」

『援護する!───早く、ゴミを除去してくれ!』


 ズダダダダダダダダダダダダダダダ!!


 砲塔を旋回し後部機関銃で反転した兵を狙うも、分散してうまく銃撃を躱しやがった。


『ちぃッ! シーリン急げッ!』

「間に合うか、アホぉ!!」


 ジャキン!!


 シーリンが取り外した車載機関銃を腰だめに構えると迎撃の構えッ───。


「アタシの貞操は固いでぇぇぇぇええ!!」


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!───カキン……。


 あっという間に、弾切れ。


「易々と捕まるかぁぁぁあ!!」


 ガシャキッ! と素早く再装填、


「───朝は、おはようのキスから、夜は激しく情熱的な男やないと、満足せぇへんでぇっぇえ!」


 真正面から突っ込んできた男爵軍一個小隊に目がけて、機関銃をぶっ放す!!


 「オカワリじゃぁあ!」───ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!


「ぎゃああああ!!」

「んんあ?! あぎゃあ!」

「「「ぐぁぁあああ!!」」」


 あっという間に撃ち倒される男爵軍。

 半数を討ち倒し、残り半数の士気を挫くと、トドメとばかりに更に追撃!


「よ、よせ!」

「こ、降参だ!」

「「「やめてぇぇぇぇえ!」」」


 な・に・が・降・参・だ?!


「人を手籠めにしようとしておいて────天罰じゃぁぁぁ!!」


 ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!


「どんな武器でも文句言わずに使つこうてくれて、子どもを守れる頼りがいのある男やないとアタシのお眼鏡にかなわんでぇぇぇえ!!」


 あっはっはっは!!


 キラーン! と鼻眼鏡を輝かせて、シーリンが実にいい笑顔で笑う。


「こら、エエ武器やなぁぁ! 気に入ったで、アルガスぅ! アタシの婿にしたるわッ」




『エエから、はよゴミを取り除けっつの!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます