第47話「棒を弄り倒す!(後編)」

 ───任しとき!

 機械なんてもんは、見ればだいたい理解できるわッ


 ふふん、とシーリンがドヤ顔している様子がありありと浮かぶ。


 そして、

「こうか───こうで、ええのんか! って、ひゃぁぁあ!!?!」───ズダダダダダダダダダダダ!

 ───ズダダダダダダダダダッ!!


 いきなり全弾フルオート!!


「い、いきなり出すなや!!」


『馬っ鹿ッ! お前が引き金引いたんだろうが、弾の無駄打ちするな!! 連続加熱で弾詰まりを起こすぞ!』


 シーリンがハァ?? と呆けた顔をしてやがる。その、口にねじ込むぞクソがき!


「あ!? ホンマや。なんか、金属のペン立てみたいなもんが『じゅう』の後ろにひかっかっとる!」


 アホォ! 言わんこっちゃない!!

 排莢不良ジャム起こしてだうが!


『は、早く除去しろ!』

「ど、どどど、どうやんねん?!」


 アルガスとシーリンが至近距離でギャーギャーと!


 だが、火力が増したと勘違いしたのか、二挺の機関銃と主砲の射撃に、さすがの男爵軍も一時停止。


 そうとは知らない、アルガスとシーリンはギャースカと戦車の中で罵り合う。

 棒がどうの、レバーがどうのと、狭い車内で、わーわーわー!!


『それだ! さっき、装填の時に使った槓桿! レバー! それを前後に引け! 一回で獲れなかったら何回か引けっつの!』


「あーうっさいな! こうか、こうでええのんか?! アルガスのオッサンの、下の棒を前後にガシガシしごくんやな?」


 下の棒、言うな!

 それは、前方機銃───ぅぅぅううん?!


 はう、はうはぅーーーーー♡!!


「こうかー、こうでええのんかぁぁあ♡!」


 シーリンがアルガスの前方機関銃の槓桿レバーを何度も前後させ、ガシャガシャと金属音を立てる。


「しごいてるでぇぇ!! さっさと出せやぁぁあ!!」

『う、で、出るぅ……詰まった薬莢が出るぅぅうう!!』


 ガチャキン!!


 ───キャリン……キャリィィイン……!


「おーーー、いっぱつ一発でたねー」


『その言い方ヤメロ……。ただの故障排除だ──────っと、男爵軍が来るぞ!』


「(おっさんも、変な声出してたくせに……♡)」


 一瞬動きを止めていたものの、アルガスの応射がなくなれば男爵軍とて待つ義理もない。


 すぐに、ズンズンズン!! と強撃前進を開始───戦車を覆い潰そうと前へ、前へ!



 だが、男爵さんよー。

 今のアルガスさんは、先ほどまでとはちょ~っと違うぞ。


 なんせ、成り行きとはいえ、乗員が増えた。


 おかげで、シーリンが前方機銃を操作することにより、ミィナの負担を軽減できるようになったのだ。

 さらに、

 正確にいえば、ミィナの負担は変わらないが、無理に後部機関銃を使わずとも、前方機銃と主砲の組み合わせだけで十分に前方に火力が集中できるようになった。


 アルガスが主砲を撃ち。

 その間隙をシーリンの前方機銃が補い。

 ミィナがその間に57mm榴弾を装填し、弾薬を準備する。


 前方に火力を集中できるというだけで、実に効率的に戦えるのだ。


『いいぞ! シーリン、敵を近づけるな! 後方の敵は余り気にしなくていい!』


「せ、せやかて、アンタ足回り動かんのやろ?」


 ズダダダダダダダダダダ!

  ズダダダダ! ズダダダダダ!


 と、短連射を繰り返すということを覚えたらしいシーリンは、慣れた手つきで下の棒をしご───……もとい、前方機銃に弾薬を装填しつつ、言う。


『そうだが、後部の機関銃が睨んでいるからな───追い払うくらいなら連射する必要もない』


 九七式中戦車の機関銃は、そもそも連射で敵を薙ぎ倒すというより、その高性能な眼鏡付き照準で狙撃するようにして使うことをコンセプトにしているらしい。


 ゆえに照準眼鏡付きで、20連発弾倉。


 今は、ミィナにも余裕があるので弾切れを起こすことはなさそうだ。


 後方から乗り込んでくるような奴は至近距離で機銃をぶっ放してやればいい。


 実際、シーリンが搭乗したことにより死角のなくなったアルガスに男爵軍は攻めあぐねているらしい。

 虎の子の魔導師隊も先ほど消耗し、いくらかいる生き残りもおいそれと投入できない状態だ。


 ゆえに、今は盾を重ねてジリジリとアルガスを遠巻きの包囲するに徹している。


 しかし、男爵軍の盾ではアルガスの主砲の57mm砲も、シーリンの前方機関銃も防げずにいて、次々に数を減らしていく。

 バタバタと倒れる男爵軍。

 それを見て、あの男爵が顔を真っ赤にしていた。


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ!! アルガスめぇぇぇえ!」


 バキン! と怒りの余り奥歯をかみ砕いてしまった男爵は、ヤケクソの指示を出す。


「見ろ! 奴は破城槌のため足が動かん! つまり、タダの案山子と同じだ! ならば、聞け勇士たちよ!」


「「「おう!!」」」


 まだまだ意気軒高に男爵軍は答える。

 退却する気など微塵もないのだろう。


「アルガスは無視だ! そんなものより、街を襲え! 財貨を、女を! 欲しいものを手に入れようではないか!!」


 な?!

 何だと!?


「「「───うぉぉぉおおう!!!」」」


 いつも以上に色めき立つ男爵軍。

 いきなり出た略奪許可に否応なしにボルテージが上昇する!!


 そりゃあ、そうだ。

 街の目前で足止めを食い、苦戦を強いられるくらいならさっさと街に入りたいと思うだろうさ。


 そしてアルガスの足、九七式中戦車の履帯は、今、詰まって動かない───ならば?!


 ならば───!!


「───アルガスなど相手にするな! まずは街を奪えぇぇぇぇえ!!」


 おおおおおおーーーーーう!!


 突如、侵攻方向を変えた男爵軍。

 アルガスの砲撃もシーリンの射撃も完全に無視して、街へと殺到していく。


「きゃ、きゃぁぁぁあああ!」

「うわぁぁぁあああああ!!」

「こ、こっちに来たぁぁぁ!」


 暢気に観戦していた街の住民は、驚いて悲鳴をあげる。

 まさか、アルガスを無視して突っ込んでくるなど想定外だったのだろう。


「ちょ? お、おっさん、アレはまずいんとちゃうん?」

 前方銃手用の視察孔から外を窺っていたシーリンが呟く。


『あぁ、まずいな……!』





 まずいっちゃ、不味いけど……。

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