第46話「参上ッ!」

「おこんばわ~。お嬢ちゃん!」


 ぐひひひひひっひひ!!


 仲間の返り血を浴びて真っ赤な顔をした大男がミィナを見下ろして舌なめずりをする。

 その様子に縮こまり、ビクビクと震えるミィナ。


『てめぇ降りやがれ!!』


 グルングルンと砲塔を振り回して男を振り払おうとするがビクともしない。


「げへへへへ! 罪人のアルガスよぉ! どこに隠れてるか知らんが、大人しく出てこねぇと、このカワイ子ちゃんがどうなっても知らねぇぞぉ」


 げーっへっへっへ!!


 そう言って、男がブッとい腕を伸ばしてミィナの首根っこを掴む。


「きゃーーー!! アルガスさん! アルガスさーーーん!」


 必死にキューポラの縁に捕まって耐えるミィナだが、大人の腕力に敵うはずもなく……。


「おら! 大人しくしろッ! ぃで!! コイツ噛みやがった」

「ぎゃははははは! ガキにやられてやんのー!」

「お、見ろよ。可愛い子じゃねーか。うひひひひ」


 戦車に取り付いた男爵軍の重歩兵が3人。

 腕にミィナをプラーンとぶら下げて、ゲラゲラと大笑い。


「「「うひひひひ……!」」」


 くそ! 連中、厭らしい目で品定めをしてやがる。


「おら! さっさと出てこねぇと、このガキをてめぇの目の前でバサーっと捌いちまうぞ!」

「ぎゃははははは! そりゃいい! 幼女ロリの刺身だぜぇ」

「いいじゃねぇか、やっちまおうぜ! ほれほれ、うひひひひひ!」


 好き勝手に宣う連中に、文字通り手も足も出せないアルガス。

 後部機銃や主砲で狙えないこともないが、そんなことをすればミィナもバラバラになってしまう……!


『く…………!』


「あ、アルガスさん……」


 ミィナの不安そうな眼。

 それを煽るような、包囲する男爵軍の視線。


 あとは、絶望に満ちた街の住民たちの目──────……。


 そして、

 そして───??


 ──────あ、アイツ?!


「もういい。出てこないなら蒸し焼きにしてやれ───魔導師隊!!」

「「「はッ」」」


 男爵の指示の元、今まで攻撃に加わっていなかった軽装の兵が前に進み出る。

 鎧の代わりにローブを纏い、剣の代わりに魔法杖スタッフを握る───いかにも魔法使いといった出で立ちの兵士達。


「やれ! 馬車ごと焼きつくせ」

「「「御意に!」」」


 彼らが前面にでて、魔法を行使しようと詠唱し始めた。

 魔導師たちの頭上に赤く燃えるような魔方陣が顕現していく。

 その先に発動するのは、火魔法か爆発魔法だろう。


『くそ…………! こ、こんなところで』


 しかし、どうにもできない。

 ミィナを囚われ、弾薬もほとんどない。


「げへへへへ。安心しなアルガス。このガキは俺が嫁にしてやるからよ。うひゃはははははは!」


 下品に笑い、ベロリとミィナを舐めるクソ兵士!! そのままミィナを連れ去ろうとする。

 そして、舐められる感触に、ミィナが顔を真っ青にしていると───。


「ぎゃはははははは、俺にも貸してく、」


 ───キィィィィイイン!!


「うひひひひひひひひ──────ひ?」 


 ───ギィイイイイイインン!!


「「「何だこの音───……」」」


 シュンンン───…………!!



  「どっっせぇぇぇええええいい!!」



 ───ィィィイイイイイイイイイン!!

 ドカーーーーーーーーーーーーーン!!!



 そして、きた!!!!!!

 来やがったッ!!!!!!


「「「ほげぇぇぇええええええ!!」」」


「きゃぁぁあーーーーーーー!!!」


 猛烈な勢いで突っ込んできたのは、赤い閃光?!


 いや違う──────あれは、赤い魔導スクーターだ!

 そいつが、3人の男達に直撃し大空彼方までぶっ飛ばした!!


 ───ついでにミィナもぉぉお!!!


「きゃぁぁぁあああ!!」


 ガシャーーーーーン!! と地面に投げ出されたスクーターは男爵軍のど真ん中にすっ飛んでいった。


 だが、そこに乗っていたであろうあの小さな人騒がせな少女はいない。


 シーリン・エンバニアはそこにはいない──────!


 ならば、どこに?!


「とうッッ!!」


 くるくるくる! と空中で3回転ほど華麗なスピンを見せると、男達と共に空に投げ出されていたミィナをキャッチ。


 そのまま、お姫様抱っこでミィナを抱えると、クルンと半転し、アルガスの上に着地した。


 ジャーーーーーーーーン!!!


 ───シーリン参上ッッ!


「きったないオッサンどもめが! こんな小さい子に何ちゅうことしとるねん!」


 ふん!!


 と啖呵を切って、空にすっ飛んでいく男達にあっかんべーをかましていた。


「見たか! 韋駄天のシーリン様の…………えっと、か、カミカゼアタックを!!」


 ぬん! とポーズを決めたシーリンがそこにいた。


『てめぇ……』

「し、シーリンさん?」


 戸惑った様子のミィナの声に、瞳を震わせるシーリン。

 アルガスの声にも、動揺が隠せない様だが……。


 それよりも、

 誰よりも、

 何よりも、怒り狂っている人物がいた!


「き、き、き、貴様ッ!! 神聖なる仇討の場に乱入するとは何事ぞ!!」


 業物らしい剣をギラリと輝かせ、男爵が顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。


「ひ、ひぇ! だ、だだだ、男爵さんやないかい……!? もしかして、や、やっばいことしてもうた、アタシ?」


『もう、おせぇよ……』


 そう。もう遅い。───何もかも!!


「むむ──────その容姿! 珍妙な乗り物……! き、貴様、リリムダの『韋駄天のシーリン』で相違ないな!?」


 ギクッ。


「──ひ。ひぇぇえ! ば、バレとる?! アタシの地元の大物に喧嘩売ったのバレとるぅぅうう!!」


 当たり前だ、バカ!

 偉そうに名乗ったら、そーなるわ!


「ぐぬぬ。領主に弓引いたこと───断じて許せん! アルガスと共に切れッ!」


「「「おう!!」」」


 あっという間に仲間認定されたシーリン。

 考えなしに突っ込んできたのか、アワアワとパニック状態。


「ちょちょちょちょ、は、話ぃ! 話し合おうやん───」

「語るに及ばずッ!! 殺せぇぇえええ!」


「「「うぉぉおおおお!!」」」


 勢い付いた男爵軍は、もうだれも止められない!


「ひぇぇぇええええええ!! あ、アタシまでお尋ね者にぃぃいい!!」


 うわーんと見っとも無く泣くシーリン。

 これでよくA級になれたなと、逆に感心する。


「くそ、くそ! くぅぅぅぅ………………」


 ブルブルと震えるシーリン。

 ミィナがそっと彼女の手から降りると、下から顔を覗き込む。


「わ……!」


 ミィナが小さな驚きの声をあげた時、シーリンがクワッ! と顔をあげると憤怒の表情で、 


「───こうなったらヤケクソじゃぁぁぁああ!!」


 ムンズとミィナの首根っこを掴むと、

「お邪魔するでぇぇえ!!」


 勝手に九七式中戦車に乗り込んできた。


『おい! 勝手に入るなっつの!』

「やっかましい……! お外はゴッツイおっさんばっかりやねん。こんな美少女が一人で外におったら視線だけで孕まされてしまうわ!」


 孕ま───?! げ、下品だな、おい。


「つーか……ほぇー。変身する瞬間見とったけど……これ、ほんまにアルガスなん?」


 ……コイツ。


『───そうだ。重戦車化した俺だ。別にどこかに隠れてるわけじゃないぞ。この戦車が俺自身だ』

「ほっほー?! ほんまそうやな?! こんな能力聞いたこと無いで」


 俺もねーよ。


 つーか、

『───今はそれどころじゃねぇ! 今さら降りろとは言わんが、巻き込まれて死んでも知らんぞ!』

「もう、巻き込まれとるわ!」


 ───おまえのせいだろうが!! 


『ち……。テメェにゃ思うところがないわけじゃないが、今は忘れてやる───。ミィナの邪魔しないように、隅っこで大人しくしてろ』


 そうだ。

 それどころじゃない!


 キューポラはこじ開けられてしまった。

 

 もうこれ以上もちこたえられない……!!





 装填の時間もかかりすぎる!

 なにより、手数が足りないんだよぉぉお!

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