第43話「九七式中戦車 チハ」

 中戦車ミドルタンク(その1)九七式中戦車 チハ


 重量14、3t。

 正面装甲25mm。

 三菱製150馬力エンジン。

 最大速度38km/h


 主砲、

 九七式五糎七戦車砲を搭載(57mm)

 副武装、

 九七式車載重機関銃2丁を装備


 大日本帝国陸軍の古強者────。



 ───ち、チハ?!



 アルガスは動揺する。

 ミィナは困惑する。


 そして、


「な、ななななななななな! な、なんだそれは?!」


 男爵が一番驚いていた。

 もちろん、男爵の軍も同様に─────。


「なんだあれ?」

「いきなり鉄の馬車に変身したぞ?!」

「ま、魔術師なのか?!」

「おいおい、人間じゃねーぞあれ」


「「「やべーぞ、アイツ?!」」」


 ザワザワと同様が広がる男爵軍。


 たった一人の男を蹂躙するだけの、簡単なお仕事のはずが、突如として鉄の塊を相手にする羽目となったのだ。


 いわゆる、話が違う! というやつ。

 

 だが、当然ながらここで引き下がるような男爵ではない。


 なんたって貴族のメンツが掛かっている。


 戦わずに逃げたとあっては、一生貴族社会では後ろ指を指されることになるのだ。


「ひ、怯むな!! たかが鉄の馬車! それも一台だ! 槌をもて、斧を出せッ! 剣と槍で貫けぬのなら、鈍器で潰すべしッ!」


 軍勢バタリオン──────……行進マーチ


「「おう!!」」

「「「おう!!」」


「「「「おおーぅ!!」」」」


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!

  ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!


 おう!

 おう!


 おう!! おう!! おう!!


 ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!

  ザッザッザッザッザッザッザッザッザ!


『くそ……。やはり来るか───……』


 まるで黒い絨毯がごとき男爵軍の兵士達。

 それが、押し寄せる波のように、アルガスを押し潰さんと迫り来る!


 ワッ! ワッ! ワッ! ワッ!


 中戦車チハ化したアルガスを嘗めているらしい……。

 確かに、ちっさくて柔らかそうだけど!

 腐っても戦車だぞ?!


 な、舐めやがって!


 いや。さすがは現役の貴族といったとこか───元代官とは器が違い過ぎる。


「あ、アルガスさぁん……」

『大丈夫だミィナ。中戦車も戦車だ!! コイツにだって、戦場を駆け抜けた矜持がある!』


 そうとも……。


 お前だって、強者つわものだろう?


 つわもののはずだろう?




 九七式中戦車──────チハよ!!




 ドルルルルルルルン……ボッボッボッボッボッボッボ!


 ティーガーに比べるべくもないが、それでも力強いディーゼルエンジンの咆哮が戦場に響き渡った。


 隊形変換し、重歩兵ヘヴィインファントリを全面に押し出した男爵軍がアルガスに矛先を指向する。


 ギラギラと陽光を受けて光輝く戦槌と戦斧! そして、攻城兵器の数々!!


「いけ! 鉄の馬車など鎧袖一触! 捻りつぶせ! そして、街を奪え!! 女を! 子供を! 財宝を奪えッ!!」


「「「「「おおおう!!」」」」」


 無数の兵士がアルガスに迫る。


 その光景を見て、アルガスの脳裏に浮かぶ数々の光景───!!


 ラーニングしたことにより、天職化した中戦車。

 その天職からもたらされ、開示される情報の数々!!


 それらが一斉にアルガスに流れ込んでくる───……。



 古強者……九七式中戦車の悲しき戦いの数々が……!!


 の者の戦歴が───!!!!



 あの、あの日、あの時の戦場がぁぁぁああああああ!!


 北は占守島、南はガダルカナル島に至るまで……!


 満州と千島と大陸とマレーとビルマとニューギニアとソロモン諸島とぉぉぉぉおお!


 そして、無数の太平洋の島々───硫黄島と沖縄と、あの地獄の戦場ガダルカナル島で泥に埋もれた屈辱の日々!!


 おおおおおおおおおおおおおおおお!!!


 あぁ、そうだ。

 そうだった!!


 性能不足───。

 貫通しない砲弾と、圧倒的数の不利!


 制空権もなく、燃料も弾薬も糧食も何も何も、何もない地獄の戦場で!!


 それでも、戦わねばならぬ戦車の定め。


 無数のM4シャーマンに蹂躙される歩兵たちが戦車を呼ぶ、その声!


 彼らを守るため───ただ、ただ、爆薬をくくりつけ特攻したあの戦場!!


 そして、なによりも戦車の性能がぁぁあ!


 敵の装甲を貫けぬ恐怖!

 速度、射程、装甲、口径───物量!!!


 何一つ敵わない!!


 だが諦めない。

 諦めてなるものか!!


 我は戦車!!

 一億の鉄の棺桶なり!


 帝国陸軍主力戦車、九七式中戦車チハである!!


 見ろ、この栄光を!!


 先細りする燃料を薄めて誤魔化して何とか駆け抜けた密林の日々!


 快速と軽量を生かしてマレーを駆け抜けた勝利の日々!


 敗北し、武装下ろして、尚───再度装備して、卑劣なソ連の脅威を跳ね返した千島の戦い……占守島の最後の戦車!!


 あぁ、そうだ!!


 そうだ!!!!!

 そうだとも!!!


 装甲も、武装も、性能も!!!!!!


 全て!!!

 全て負けていてもなお戦う!!


 それが、戦車!!!


 中戦車、九七式中戦車 チハ!!!


 


 愛すべき中戦車──────チハだ!!!




 そうとも、

 毒にやられようとも、俺は挫けない!

 理不尽な暴力など、跳ね返して見せる!


 そうとも、

 それこそ戦車──────中戦車だ!!


 

 俺が、

 俺こそが──────九七式中戦車・チハアルガス・ハイデマンである!!!



「チハたん、だぁ♪」 


 おう!!

 チハたん、だ!!


『行くぞ、ミィナ! 再装填頼むぞ!』


 キャラキャラキャラキャラ!!


「了解!!」


 ミィナの応答をもって、アルガスは前進する!

 座して待つのではなく、前に出て進むのだ!


 戦車とは、戦う車だ!!


『───かかってこぉぉぉぉおおい!!』


 意外に軽快な動きを見せる九七式中戦車!

 重戦車のように重々しい動きではなく、マメマメと、キビキビと、動く動く!


「く! コイツ動くぞ……!」

「お、俺達だって一番うまく馬車を動かせるのに……!」


 男爵軍にど真ん中に突っ込むアルガス。

 

 驚いたのは男爵軍だ。


 まさか、鉄の馬車が馬無しでこれほどの速度を出せるなど誰が信じられようか!

 


 ドカーーーーーーーーーン!! と正面からぶち当たられた重歩兵が体をバラバラにして吹っ飛んでいく。

 

 それでも、戦車は止まらない!

 まるで麦畑をかける少年のように、男爵軍の群れに突っ込み、蹂躙していく。


「ぬぅ! 小癪なぁぁあ!! 総員後退! 後退しながら挟撃せよ!! 敵は我の懐に飛び込んだぞ」


「「「おおう!!」」」


 さすがは荒野越えをしてきただけのことはある。

 男爵軍は地方の私兵とはいえ、相当に精兵揃いだった。


 少なくとも、魔物溢れる荒野の縁にある街の兵士が弱兵であるはずがないのだ。


「奴を半包囲した! 今だ!───戦槌、前へ! 棺桶をぶっ潰してやれ!!」


 おおおう!!!


『な、なにぃ?!』

 ただ下がっていたわけではないらしい。

 いつの間にか、男爵軍にグルリと取り囲まれている。


『く───!』

「あ、アルガ」

 ───ガツンッ!!


 と、激しい衝撃が車体を貫く。


 グワワーーンと、戦車内にも響く振動。

 ぐぅ! いってーーーーー!!!


 正面ならまだしも、後方や側面の装甲は更に薄いッ!


『な、殴りやがったな!!』

「殴って何が悪い!」


 男爵が騎馬上からふんぞり返り、兵を指揮している。


『リズにもぶたれたことねぇのに!!』


「畳みかけろッッ!」


 おおおぅ!!


 男爵の号令に従い、一斉に周囲を取り囲む兵士達。


 速度で振り切ろうにも、巧みに距離を空けた男爵軍は、アルガスの突進を上手くいなして、かわしざまに殴りつけてくる。


 ガンガンッ! 

 ズガン!!


 次々に繰り出される打撃に側面や後方の装甲が凹み、リベットが弾け飛ぶ。


『クソッ!!』


 武器は──────!



 ステータスオープン!!


スキル:スロット1「57mm戦車砲九七式五糎七戦車砲

    スロット2「7.7mm車載機関銃九七式車載重機関銃

    スロット3「履帯蹂躙轢き殺せ

    スロット4「行進射」

    スロット5「前方機銃九七式車載重機関銃

    スロット6「未設定」

    スロット7「未設定」

    スロット8「未設定」



 これだ!!


『うらぁぁぁああああ!』


 ───主砲発射ぁぁぁあああ!!





 ドゥン!!

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