光の戦士たち11


 指名、韋駄天のシーリン。A級冒険者。


「なるほどぉ……ロリコンのアルガスなら食いつきそうね!」

「ふむ、良い人材ですな。この件が終わればアルガスの代わりに雇ってもいいのでは?」


 有名に過ぎる勇者パーティ。


 誰もが憧れる存在だ。

 その一員となれるなら、誰でも喜んで仲間になるだろう。


「へへ。それも餌にしたさ、『依頼を見事達成したらパーティに入れる』ってな。あのガキ、……喜んで協力するってよ!」


 ニヤニヤと実に楽しげに笑うジェイス。


「───なんたって俺達は勇者御一行様だぜ? そして、アルガスの野郎は、この街では男爵の身内を討った犯罪者、」


 どっちが正義の味方か一目瞭然。と──。


 代官の人物がどういうものか知っているくせに、ジェイスはいけしゃあしゃあとのたまう。


「そりゃいい。ついでに手紙の複製もさせましょう」


「あぁ、それで手を打とう。あることないこと吹き込んでおけば、頭の悪い小娘のことだ、コロっと信じるぜ」

「えー、でも、コイツってドワーフでしょ?

 なら年上なんじゃない?」


「どーでもいい。なんせ、こっちは勇者様だぜ? 皆、俺たちを信じるさ───」


 ゲハハハハハハハハ!

 キャハハハハハハハ!


 3人が3人とも楽しげに笑う。


「───で、次の一手ですが」


 急に声を潜めたザラディン。

 なにやら、あまり大っぴらげにできることらしい。


 見てくださいとばかりに、

「───アルガスの実力が不明ですからね。念のためコイツを使います」


 そう言ってザラディンが取り出したもの。


 それは、ザラディン謹製の、

「───ど、毒?! 殺しちゃうの?」


「なわけねーだろ。今後はよー、リズを罪の意識で縛る必要がある。そのためにも、犯罪者の身内っていう、負い目を持ってもらおうと考えてるのさ」


 犯罪者に身内……。

 さぞ居心地が悪いだろう。

 それを救うという形にすれば、コロっとジェイスに靡くかもしれかい。


 そう考えて、厭らしく笑うジェイス。


「なーるほど!…………ということは、代官に討たせるのが前提なのね」

「そういうことだ。シーリンとかいう奴も、殺しだけは絶対やらないっていう奴らしいからな……。だから、これは致死性の毒じゃない」


 チャプチャプと、毒の入った試験管を揺する。


「じゃ、じゃあ、それって…………?」


 メイベルの疑問に、ザラディンが満面の笑みで答える。


「そうです。…………これは遅効性の毒。その効果は──────」



 ※ ※ ※



 アルガスと、シーリンが出会ったその日のこと。

 草木も眠る深夜……。


 ギー…………。


 固く鍵を閉ざしていたはずのアルガスの部屋の扉が、静かに開く。


 そこに、


 工具と、遮音結界を張る魔道具を手にしたシーリンが、音もたてずに忍び入ってきた。


「(ふー……。安宿の割に結構手の込んだ鍵つけよってからに……)」


 スッポリと全身を覆う、黒いツナギに着替えたシーリンは、昼間見たのとはまったく違う空気を纏っていた。


 それは紛れもなくAランクの冒険者に相応しいもので、何者にも油断しないものだった。


「(堪忍やでアルガスのオッサン。……アンタ、おもろいオッサンやけど、これも仕事やねん……。───ホンマ堪忍やで)」


 そう言って、ソロリソロリとアルガスに近づくと懐に手を伸ばす。


 そーっと、薄い胸の中から取り出したものをアルガスの枕元に近づけると、


「(って、ひぇー?! こ、このオッサンなんでパンイチやねん! ってか、ミィナを上に乗っけとるし……!)」


 顔をひきつらせるシーリン。

 貞操の危機を感じる瞬間だ。


「(や、やっぱ、ロリコンちゃうんか? ジェイスさんの情報通りなんやな。ひえー、ウチ犯されるとこやったわ……あーこわ)」


 ビクビクとしながらも、ゆっくりとアルガスに近づくシーリン。


 すると、


「んみゅ?……シーリンさん?」


 ギク……。


 アルガスの腹の上でムクリと起き上がるミィナ。

 完全に気配を絶っていたはずだが、何かの拍子に起きてしまったらしい。


 アルガスでさえ気づかないように、念入りに魔道具で偽装しているというのに、子供というのは恐ろしい……!


 ダラダラと汗を流すシーリン。


 ミィナがモゾモゾと動くものだから、その下のアルガスも目を覚ましそうだ。


「どうしたの~……シーリンさぁん?」


 ショボショボを目を擦るミィナ。

 こ、これならまだ誤魔化せるか……?


「むぅ?」


 ゆ、

「───夢や、夢」

 

 ドキドキと心臓が鳴る。

 ミィナだけでなくアルガスも目覚めそうだ……!


「夢かぁ……んみゅう♪」


 ゴロゴロと喉を鳴らしそうな雰囲気でミィナが再びアルガスの上で丸くなる。


 そのせいかアルガスが苦しそうに呻いている。


 多分、悪夢を見ていることだろう。


「(ふ~……心臓に悪いでぇ)」


 ミィナが寝静まったことを確認して、こそーっと、枕元に水差しに取り出した水薬をポタポタと垂らす。


 無色透明のそれは、すぐに水に馴染んでしまい、見た目からはまったくわからなくなってしまった。


「(ほんま、堪忍やで……。全部終わったら何でも償いするさかい、堪忍してや……)」


 シーリンはすまなさそうに心の中で謝ると、闇に溶けるようにスーと部屋を後にした。


 その後は念入りに周囲を確認して、再び扉に鍵をかける。


 そのあとには、痕跡は何もなかった……。

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