光の戦士たち10

「いひひひ。こりゃあ、使えるぞ!」

「どうしたのよ、ジェイス?」


 リズに回復魔法をかけていたメイベルが、訝しげな顔をする。


 今しばらくリズには病床に臥せってほしいジェイスの指示で、実は簡単な回復魔法しかかけていない。


 もっとも、それ以前にリズは精神的にも参っているらしく、回復魔法の効きはメイベルがどうこうする以前にあまりヨロシクはなかったのだが……。


「いいから、来いって───あ、リズはそのまま休んでていいぞ」


 労わる様にリズの枕元に、柔らかくカットしたフルーツをおいてジェイスは部屋を出た。


 去り際にリズが「ありが、とう……」と弱々しく呟いていたので、輝かんばかりの笑顔を送っておく。


 やまいゆえ、色々弱っているのだろう。ジェイスとしては好都合だった。


「───で、なによ?」


 ジェイスの部屋に入ったところで、メイベルがさっそく尋ねる。

 奥には、すでにザラディンも先に入室していたのでいつもの3バカ揃い踏みだ。


「そういえば、リズの様子はどうでした?」

「どうもこうもないわ。多分、過労ね」


 メイベルの見立てでは、何日か安静にしていれば治るだろうというもの。


「それはよかった───……では、ジェイス殿、その間に事を進めましょうぞ」

「おうよ───聞いて驚けよ、メイベル」


「な、なによ」


 もったいぶるジェイスに、メイベルがちょっと身構える。


 その目の前に突き出したのは、男爵府が出している告知書。


 このリリムダ街───男爵の庁舎で作られている書類だ。


「こんなの、どこで手に入れたのよ?……え、だ、男爵軍の招集??」

「へへ、色々伝手があるんだよ。で、なんで男爵が軍を招集していると思う?」


 ニヤニヤと笑うジェイス。


「さ、さぁ? 魔物の討伐とか、盗賊?」

「残念───こういうことさ!」


 ジェイスが得意げに語った内容は!アルガスをよく知るものからすれば驚きの出来事だった。


 ※ ※


「はぁ? ベームスの代官をぶっ飛ばした?

 あのアルガスが??」

「らしいぜ。街でクーデターがあって、それに乗じて、アルガスが代官を討ったみたいだな」


 多少誤報が入っているが、リリムダの街に流れた情報ではそうなっているらしい。


「なんのために?───って、それより大丈夫なの? そーいうのって、私達にまで責任が来るんじゃ……」

「大丈夫、大丈夫。手は打っておいた───俺達にとっては一石二鳥、……いや、三鳥の手をな」


 ニヒヒヒと、実に楽しそうにジェイスは笑う。

 ザラディンもニヤニヤと楽し気だ。


「へっへー。実はここの男爵と、ウチの家は昔っから懇意なんだよ。だから、話は通しやすい───むしろ、協力を頼まれたぜ」


「ど、どういうこと?」


「決まってるだろ? 代官の仇討あだうちの協力さ。代官を仕留めたのはアルガスの単独犯で、俺達パーティとは無関係って、しっかり話をしといたぜ」


 メイベルの感性では、男爵がそれで信じたかどうかはわからなかったものの。こう見えて、ジェイスの家系は勇者の系譜。

 ゆえに貴族にも顔が広く、王国での受けがいい。……ならば、信じる可能性は高い。


 一方でアルガスは、所詮は流れの冒険者。

 実績はそこそこあれど、名声とはほぼ遠い。


 そんな奴が、勇者パーティと別行動をして、代官を討ったとなれば───たしかに無関係を装える。

 むしろ、被害者ぶることさえ可能だ。

 名声につられた悪人の仕業とでもしておけばいいのだから、楽なものだ。


 ついでに、パーティメンバーの責任をとる! とか適当なことを言っておけば、逆に協力を仰がれてもおかしくはない。


「じゃ、じゃあまさか……」


「おうよ。男爵をけしかけて仇討をさせるのさ───アルガスを名実と主に消してやる。…………代官殺しの罪でな」


 ぐひひひひ、と笑うジェイスを見て、「なるほど、なるほど」とメイベルは首肯した。


「───でも、アルガスは根無し草の冒険者よ? これに気付いたら隣国にでも逃げるんじゃ………………あ、そっか!」


「くく。そうさ、ここにリズがいるからな。逃げようにも逃げられないって、わけ。だが、アルガスはまだ居場所を掴んでいないはず。下手すりゃ、リズを探して闇雲に行動するかもしれねぇ。それはちょっと困る───そこで、」


 ニィと、笑ったジェイスの後を継いだのがザラディンだ。


「───そこで、ベームスに釘付けにするためアルガスに罠を仕掛けます」


「罠?」


 これですよ。

 といって差し出したのは、複数の紙束。


「あら? リズが持っていた備忘録よね?」


「えぇ、これで手先の器用な者に手紙を複製させます───ベームスにこちらから伺うとね」


 ザラディンの考えでは、近いうちに「光の戦士たちシャイニングガード」の動向はアルガスの耳に入るだろうというもの。


 一度ギルドに顔出している以上、勇者パ―ティの所在はすぐに世間に知れわたることだろう。


 ならば?


 そう、ならばアルガスがジェイスを追って、このリリムダに来る可能性は高い。


 というか、手を打たなければ必ず来るだろう。


 本来なら、代官を誅されたことで面目を失ったリリムダの男爵としては、この街で迎え撃った方が都合がいいので、「飛んで火に入る夏の虫」とばかりに、ほっておけばいいのだが…………。


 (迎撃側としては、アルガスが来てくれるならそれに越したことはない)


 だが、それではジェイスが困るのだ。

 なんせ、リズがここにいる以上、彼女は何があってもアルガスと共にいることを望む可能性が高い。

 下手をすれば、リズまで男爵に刃向かうかもしれない。


 それくらいなら、遠くの地でリズに知られることもないまま、アルガスには死んでもらった方がいい。


 いくら軍団を降したとはいえ、さすがのアルガスも、正規の軍隊と戦って勝てるわけがないのだ。


 男爵軍が出動した時点で、アルガスの命運は尽きた。


 あとは、ここではないどこかでアルガスを男爵に討たせるのだ。


「な~るほど!……でも、もう時間がないんじゃない?──私たちがこの街にいるって、アルガスの耳に入るのもそう遠くないんじゃない?」

「その通り。だから、一刻も早くアルガスを足留めする必要がある。……あと、嘘か本当かは知らねぇが、軍団を倒したっていうなら───アルガスには、俺たちが知らない何か奥の手があるのかもしれねぇ」


 今のところ不安要素はそれらに尽きる。


 アルガスの足留め。

 アルガスの正体不明の戦闘力を削ぐこと。


 これらに一つ一つ対処するのだ。


「何か手があるの?」

「おうよ、一個だけある──────」


 ジェイスが差し出したもの。

 指名依頼書───……。


「これは?」


「この街にはいるんだよ。迅速に手紙が届けられそうで、かつ、アルガスに近づきやすそうな奴がな」



 リリムダ冒険者ギルドへ、指名依頼。

 『韋駄天のシーリン』A級冒険者。

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