第35話「野生のドワーフ」

「A級冒険者のシーリン。またの名を『韋駄天のシーリン』て言われてるんやで」


「聞いたことないな」「知らなーい♪」


 口をあわせるアルガス&ミィナのコンビに、ズルッとこけるシーリン。


「くっ……。ま、まだ売り出し中やねん! リリムダでは有名やねんで!」


「そうか? 凄いな」「すごーい♪」


 全然凄そうな雰囲気で言わないものだから、シーリンが顔面に青筋を立てている。


「く、し、信じとらへんな! ええい、あれを見てみぃ!」


 シーリンが指さしたのは、ギルドの前にと前られている赤い木馬のような物。


「なんだ? おまる子供用携帯トイレか?」


 ガンッ!

 シーリンがテーブルに頭を打ち付けている。


 ……どしたん?


「いたたた……。って、なんで、おまる・・・の自慢せにゃならんねん!」

「いや、そう言う趣味かと」


「どんな趣味やねん!?───アタシは街中でクソをしてみせてまわる変態かぁ!?」


 違うのか?


「ちゃうわぁぁあ!!」


 ごもっとも……。


「あぁ、もう見とれ───」


 肩をいからせたシーリンが、ノッシノッシとギルドを出ると、おまるに跨り───「おまるちゃうわ!」、もとい赤い木馬のような物に乗ったかと思うと、


 キィィィィ…………。


「お?」

「ふぁ?」


 フワリと浮かび上がった、おま───「ちゃうっつってるやろ!」、赤い木馬。


「全開やでぇ!」


 ギュン─────────!!


「うお!」

「ひゃ!」


 アルガス達が見守る中、空気の擦過音を残して、ギューーーーーーン! と飛んでいく木馬。


 どうやら、地面スレスレを浮いているようだ。


 あまりに速度に、通行人が驚いて慌てて道を開ける。


 大通りでやるから、スッゴイ迷惑……。


 そして、ギルドから見えなくなるほど離れたかと思うとクルリとUターン。

 そのまま、再び高速でカッ飛んで来ると、ギルド前で急停止。


「ぷひー」


 肩で息を切らせながらシーリンが席まで戻ってきて、ドヤ顔。

 取りあえず、アルガスとミィナ。そして、見守っていたギルドの人間がパチパチと拍手───。


 ……うん、なんぞこれ。


「見たか! アタシの作った魔導スクーターの性能を!」

「お、おう。凄い」「しゅごーい♪」


 うん、素直に凄い。

 …………っていうか、作った?


「ふふん。こう見えてアタシは手先が器用なのよ!」


 ジャーン!! と、着ていたジャケット型の上着をはだけて見せると、その下に収納していた工具をズラリ───。


「………………お前、ドワーフなのか?」

「その通り! ドワーフ鉱山で修業を積んだ凄腕冒険者、『韋駄天のシーリン』とはアタシのことさね」


 パパーン! と効果音がしそうなくらい、ドヤ顔で決める。


 うん。

 つかつかつか、ゴンッ!


「いっだぁあ!? な、なな、何で? 何でいま殴ったん? ねぇ、ねぇ、なんで?!」


「───やかましい。ドワーフってことは、お前結構な歳だろうが、さっき手加減した分だよ」

「い、いい、意味わかんないわ! ちょっとぉぉお!」


 だって、子供だと思って手加減しちゃったんだもん。それはそれでムカつくので……。


 うん。


 ドワーフの女性は、人間でいうところの十代前半くらいの見た目を長年維持する。

 いわゆるエターナルロリ。

 エルフほどではないにしても長命種で、手先が器用だ。

 

 男はガチムチになり、女はこのとおりチンマイ。


 鉱山では男が採掘などの重労働と製鉄などを営み、女は鉱石の選別や工作、細工物を得意とする。


 特徴としては男も女も技術馬鹿で、常に工具を持ち歩いているというが……。


「そういや、野生のドワーフは初めて見たな」

「見た~♪」


「誰が、野生のドワーフじゃ! だれが!」


 ドワーフは基本引き籠りで、鉱山や集落を出ることが稀だ。

 大好きな技術を、ひたすら磨く事を常としている。


 エルフ程、排他的ではないにしてもあまり人里に顔を出すことはない。


 どちらかというと人間が彼らの集落に赴き、商売や技術を学ぶことが多い。


 一般的に、石炭の出る鉱山を好むことが多いが、それ以外の土地では常に燃料を必要とする。

 そのため、薪としての材料を欲して、人間との取引を行う。

 持ちつ持たれつで、人間とドワーフはそういった交易を通じて繋がりが多いものだ。


 都合、人間が燃料や原材料。

 ドワーフが技術や加工品と言ったものが中心となる交易だ。


 ちなみに、大量の燃料を必要とするため、木を大切にするエルフとは大変仲が悪い。


「すまん、すまん。お前には借りがあったな───ほれ、どんどん食っていいから許してくれ」

「ったく、こんな飯で釣られると思わないでよね……あ、お姉さん、このフルーツ山盛りパイと、ミルクと卵の焼き菓子ちょうだい。───支払いはこのオッサンで」


 釣られとるやんけ。


「お前より年下だと思うぞ」

「見た目がオッサンじゃん」


 20代だっつの!!


「しかし、そうか。リズが無事か……よかった」


 アルガスは、再びしみじみという。


 そして、

「リリムダのどこにリズはいる? 宿の名前を教えてくれ」

「え? なんで?」


 そりゃ、お前───。

「俺が直接行く」




「え゛…………」

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