第29話「活気付く街」

 昼前のベームスの街は活気づいていた。


 数日前までは、街全体にどんよりとした空気が漂っていたというのに、今の活気といえば、まぁ凄い。


 取り締まりの厳しかった露天商があちこちに立ち並び、裏ギルドの連中が仕切っていた怪しい軽食屋も消え失せ、かわりに陽気な料理人が作るソレが多数軒を連ねていた。


 また、陰険でセコい衛兵隊に代わり、柔和な顔つきの自警団が治安維持に当たっており、住民たちと朗らかに交流している。


 これが、本来のベームスの街の姿なのだろう。


「新しい服を買う約束だったな?」

「い、いいですぅ! これで!」


 パンツ型オーバーオールのミィナがブンブン頭を振って恐縮しているが、アルガスは構わずズンズン歩いていく。


 冒険者ギルドに向かう途中にみかけた服屋に寄り、そこで中古やら新品やらを適当に見繕い、または店に見繕ってもらい、ミィナの服を新調していった。


 ふむ…………。


「き、綺麗な服です」

 モジモジしたミィナが、上目遣いでアルガスを見つめていた。


「似合うじゃないか。……これ、全部くれ」

「毎度ありがとうございます!」


 服屋の店員がホクホク顔になるくらい、たっくさん服を買ってやった。


 うむうむ。


 年相応の格好をすれば、やはりというかなんというかミィナは結構な美少女だ。


 幼少期の栄養状態が悪かったのか、その───随分痩せており、ガリガリな点を覗けば普通の女の子と変わらない。


 買ってもらったばかりの服に着替えて、はにかむ姿は、小さかった頃のリズを思い出して懐かしく感じる。


「ありがとー!」


 と、満面の笑みで返されればアルガスも悪い気はしない。

 キチンとお礼も挨拶もできる利発な子だ。


「おう。次行くぞ」

「はーぃ♪」


 アルガスは服屋を経て、簡単な防具などをミィナに買い与えると、その足で冒険者ギルドに向かった。


 その途中、くだんの城門付近にさしかかったのだが……。


「うわー……すっかり、まぁ───さっぱりしちゃって」

「何にもな~い!」


 果たして、そこにあったのは威圧するような巨大な門扉ではなく、壁に開いたぽっかりとし穴であった。

 荒野の先まで見通せそうなほど澄んだ空気の中で、街道と荒野の果てが、まぁよく見える。


 そして、城門前には戸惑ったような顔の商人やら冒険者たち。


 先日まで、街の内外を威圧していた城門がないのだ。

 しかも、衛兵に代わり、自警団が入門? チェックをしている。


 常識的に考えて、何かあったのではと考えるのが普通だ。

 おっかなびっくり城門まで近づき、温和な雰囲気の自警団に事情を尋ねている。


 その様子が気になり、ちょっと足を延ばしてみる。

 ここの城壁をぶっ飛ばした張本人でもあるので、目立たず騒がす、こっそりと……。


 旅人A「お、おい……何があったんだ? 城門はどうした? どっかに旅にでも出たのかい?」

 自警団「はっはっは! まったくもってその通り。門が急に歩き出してさー」


 おいおい……。


 商人B「あー……。こりゃ、あれかい? 例のお代官様が──、ゴニョゴニョかい?」

 自警団「はっはっは! まったくもってその通り。代官はゴニョゴニョされました!」


 なんだよ、ゴニョゴニョって!


 傭兵C「うお?! なんで門が無くなってんだい? 魔物が来たらどうする!?」

 自警団「はっはっは! まったくもってその通り。でも、大丈夫。ウチの街には英雄がいますからね!」


 ん? 英雄?


 冒険者「ありゃ?! 軍団阻止の依頼があるって聞いてきたんだけど……。この街て、門ないの?」

 自警団「はっはっは! まったくもってその通り。安心してください! 我が町には重戦車の守護がありますゆえ!」


 …………をい。


 衛兵E「……お仕事お疲れ様でーす。それじゃ、自分は国に帰るんで───」

 自警団「はっはっは! まったくもってその通り。って言うかボケぇぇえ! テメェ、衛兵隊の残党か、ごるぁあ!」


 柔和な顔の自警団が、一瞬にして怒髪天を突いた様な表情になって、代官の手下だった衛兵の首根っこを掴むと、物凄い勢いでどこかに連れ去っていった。


 「あーーれーーー」とか言って衛兵が消えていく。

 どこからともなく、子牛を売る歌が聞こえてきた……。


「アルガスさんが門を守るの?」

「なわけねぇ……!」


 んだよ、どいつもこいつも勝手なことばかり言いやがって!

 市長の野郎、適当に言いふらしてるんじゃないだろうな?


 怒気をはらんでプンプンしながらギルドに向かうとその途上で、城門跡付近に屯していた街の住民に見つかってしまった。


「おやぁ! アルガスさんにミィナちゃん!」


 げ……おばちゃんズ?!


「やぁやぁ! 城門前のティーガーが凄かったね!」

「ホントホント、救世主だよ~!」


 うげぇ……嫌な流れだ。

 これ、きっとお茶菓子とか出される流れ……。


「おぅ、そんじゃまたな。今忙しんで──」


 そそくさと立ち去ろうとするアルガスは、ミィナの手を引いて───……。


「お饅頭食べるかぃ?」

「食べゆ♪」


 満面の笑みを浮かべて、なんかの幼虫を丸めた団子を受け取っているミィナ……。


 おっふ。

 「食べゆ♪」じゃないよ、君ぃ!


「これ、好き───」


 モッキュモッキュ……。


 ………………食い付くの早いね、君。

 さっき利発な子とか思ってたけど、前言撤回───……。


 ミィナちゃんには、再教育が必要なようです。



《教育事項その1、知らない人から物を貰わないッ!》



 ガックシ、と項垂れたアルガスの目の間に、饅頭が差し出される。


 あ、はい。どーも──────。



※ ※



 結局、そこで小一時間ほど時間を食った。


 おばちゃん連中は、街のボランティアらしく、城門修繕の作業に駆り出されていた。


 とは言え、材料もないし、技術もないし、予算もない。


 無いないづくしで、取りあえず砂を練り固めた簡易コンクリートと、レンガ作りから始めようという事で、こうしてのんびりだらりとやっている。


 男爵軍が迫っているとか言っていた癖に、実にノンビリとしている。


 もっとも、これが完成しても急場しのぎにもなりはしない。

 ちゃんと石材を買ってきて作成しなければゴブリンも防げないだろう。男爵軍ならいわんや……。


 おばちゃん連中は、勝手に想像しているらしいが───俺が代官をする&いざという時には壁を守る、と思っているらしい。


 とんだ買い被りだ。


 一応、「そんな話はないし、用が済めば街を出る───」とも言っているが、誰一人として信用してくれない。


 段々話すのもおっくうになって、ムスっとしていると、そのうち作業再開の合図があり、おばちゃんズは勝手に去っていった。


 あースゲェ疲れた……。


「ほら、行くぞ───今度は、勝手に人から物を貰うなよッ!」


 最後ちょっと語尾を強めに行ったので、ミィナがビクリとして涙目。

 でも、自分が何か悪いことをしたんだと理解したのか、コクリと頷くと黙ってアルガスの後に従った。


 その様子が憐れみを誘うので、ため息をつきつつ、


「分かればいい」


 ポンと頭を撫でてやり、優しく声をかけた。

「ごめんなさい……」


 シュンとしたミィナだが、アルガスが怒っていないことを察したのか、オズオズと手を繋いできたので、そっと握り返してやる。

 そうした仕草一つ一つが、やはりリズを思い出させる。


「ふぅ……」


(リズ……元気にしてるかな?)

 リズのことだ。きっと無事でいると確信しつつも……。

 それでも、あの子の姿が見えないのは心臓に悪い。



 そうしてこうして、ギルドについて気づいた。そこは先日と違ってようやく落ち着きを取り戻しているようだ。


 さて、リズの情報が入っているといいけど……。

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