光の戦士たち8

「えぇ?! 『光の戦士たちシャイニングガード』御一行ですか? いやー、初めてお目にかかります! あわわわ!」


 ジェイス達はたっぷりと休養を取って疲れを落としたのち、昼頃に起き出すという重役出勤でギルドに顔を出していた。


 メンバーはいつもの3バカ───もとい、三人。


 なぜなら、間の悪いことにリズは高熱を出して寝込んでしまったのだ。


 やはり、無理が祟ったのだろう。


 毎日毎日、行軍行軍。

 そして、心労につぐ心労。


 アルガスの死、それだけでも心に耐え難いというのに、3バカの相手……。

 そりゃあ、キツイ。


 しかも、昼間は経路の偵察のために3バカが休止している間もほとんど休まず行動していた。


 さらにはその合間に食料と水の確保……。


 よく持った方だと思う。

 アルガスがいれば、間違いなくリズを褒めていただろう。


 それでも、アルガスはいない。

 もう、いない………………。


 仕方なく、ジェイス達は宿に看病を任せて、渋々ながらギルドに向かうことにした。


 リズやアルガスに任せることもできないので、本当に嫌々ながらだ。

 報告義務を怠ると、色々面倒なのだ。


 それでも朝飯を食って、湯を浴びれば、いつもの余裕を取り戻したらしい3バカ。

 宿に用意させた装備を着込み、不敵な表情でギルドに乗り込んだ。


 その恰好は街用の軽装主体だったが、ピカピカの装備で見栄えだけは、まさに勇者パーティだ。


「ささ、どうぞこちらへ!」


 ギルドでは、禿頭の男性に案内されて奥の応接セットに通される。


「いやー。高名な皆様にお越しいただくとは! 私、当ギルドのマスターを先月仰せつかったものです。どうぞお見知りおきを!」


「おう、覚えとくぜ───そんなにしょちゅう顔は出せないが、当面はこの荒野付近で活動する予定だ」

「はい! それは光栄です──で、今日のご用向きは? あ、もしや、例の件で……?」


 揉み手をせんばかりに、平身低頭のギルドマスター。


 ギルドマスターは大抵、元冒険者がやることが多いが、このギルドマスターはどうみても冒険者には見えない。


 ちいさな手は女の子の様に柔らかそうで、筋肉もなにもない。

 剣など握ったこともなさそうだ。


 見た感じ、ただのオッサン。

 禿の中肉中背の、どこに出しても恥ずかしくない普通のオッサンだった。


「例の件……?──分からんが、多分それかな。今日は、報告と貯金の引き出しに来た」


「かしこまりました! では、報告は───例の件、荒野に発生した軍団レギオンの件についての、補足でよろしいですか?」


 やはり、すでに噂になっているようだ。


 あれ程の規模だ。

 いくつかの逃げおおせたパーティが、軍団に危機について報告したのだろう。


 ならば、ジェイス達にはもう報告することは、規定情報の確認と補足くらいなもの。


「───そうだ。それだ!……あれは、酷く凶悪な軍団だ! あれはもう、魔王級のそれと言っていい! すぐに国に報告し、王国軍を、」


「えぇえぇ! そうですね! まさに類を見ない規模の軍団レギオンです。ですが、まさかたった一人で殲滅されるとは……! さすがは『光の戦士たちシャイニングガード』達のメンバーですな」


「───おう。そうだ! 今すぐに、軍の派遣要請をしてくれッ! 俺達をもってしても、奴らに痛打をあたえた・・・・・・・・・・ものの、惜しくも・・・・取り逃がしてしまった。だから、その援護に───…………………って、え? 殲滅?」


「えぇ、そうです。そうです! ベームスの街はいま沸き返っておりますよ。新たな英雄が生まれたと! 皆さまのお仲間の、」


 え、いや、ちょ───。

 待て待て待て。


「な、なにを言ってんだ? 軍団レギオンだぞ?! 1000体もの魔物の群れを───」

「───そう! アルガス殿が、たった一人で軍団を殲滅されたそうです!」


「「「はぁ?!」」」


「いやー……! すばらしい! まさに英雄です。いえ、もしかしたら彼は勇者───おっと、こちらに本物の勇者がおられましたな、ガハハハハハ!」


 勝手に納得、勝手に突っ込み。

 ギルドマスターは一人でゲハゲハと笑う。


 さらに、

「───で、軍の派遣要請とは? そして、アルガス殿はご一緒ではないので?」


 いや──────その、


 ……………………えっと。



「「「…………………………」」」


 固まるジェイス一行。

 全員が全員で顔を見合わせ、目配せであーでもない、こーでもない。


 だが、ここはやはり、


「…………………………………おう! く、苦戦したぜ!!」


「でしょうなー! でしょうなー!! いやー、すごい!! さすがは『光の戦士たちシャイニングガード』です! これはもう、大戦果ですぞ! 軍団殲滅の報告は今朝届いたばかりのホカホカの情報なのですが、さすがに『ベームス~リリムダ』間は距離がありますからな、今日までかかってしましました。ガハハハハハ」


 一人でバカ笑いするギルドマスター相手に、ジェイス達は引き攣った笑いしかできない。


 というか、問い詰めたい──────「冗談だよな?!」と……。


「ガーーハハハハハ───…………。で、軍の派遣要請とは?」


 く。


 しつけえ!

 忘れろっつの、失言だっつの!


 ダラダラと汗を流しつつジェイスは必死に、軍の派遣というドデカイ爆弾に近い発言を誤魔化す方法を考えていた。


 そこに、

「いえいえ、ほらマスターどの、ジェイス殿は軍団殲滅後のドロップ品について言及しているのですよ。冒険者どもに拾われるよりも軍を派遣して、国庫に収めようという広い御心が───」


「ガッハッハッハ! なーにをご冗談を? ドロップ品もオール回収。1000体以上の討伐証明に、ベームスでは買取しきれない量のドロップ品の山と聞いて、各地の冒険者ギルドや、魔導商会に商人ギルド、それに鍛冶屋組合がこぞってアルガス殿と交渉をしたがっているそうですぞ───かくいう我がギルドも、いくつか欲しい魔物の素材がありましてな」


 いやーよかったよかった。と、一人でホクホク顔のギルドマスター。


 当然、ジェイス一行の顔は疑問顔と失言と、何が起こっているのか分からない状況で、七色に顔色が変化していた。


「最高のポーターと重戦士の組み合わせだそうで、いやー……凄い。さすがです! で、こちら───当ギルドでお引き取りしたい素材なんですが、」


 勝手に素材リストを取り出し、皮算用しているギルドマスター。


 ジェイス達は、もはや軽いパニックだ。


 色々なことがいっぺんに起こり過ぎて、頭が「バーーーーーーン!」といく一歩手前。


 ただ、幸いなことに───この場にリズがいない。

 それだけが、ジェイスにとって幸運なことだった。


 ───だってそうだろ?


 あり得ないはずのこと。

 あのアルガスが生存しており──しかも、あの軍団をどうにかして、殲滅しただとか……?


 いや、マジで?


 それだけでなく、ドロップ品をすべて回収?! いやいやいやいやいや…………いやいやいやいや……あ、あり得ないだろう?


 え?

 いや、マジで?


 全然、どうやればそんなことができるのか分からない……。


 王国軍一個師団でも連れていったとか?

 ……んなわけねー。


 3人の顔色が真っ黒になって、土色に染まる頃、3バカの景色はグニャーと歪みつつあった。

 ギルドマスターがいなければ、3人ともバッターーーン! と倒れていただろう。


 だが、それをさせないのもやはりギルドマスターの一言だった。


 彼は素材目録と一緒に、他のギルドから送られてきた近況情報を見ているのだが、そこにある詳報のアルガスの戦果の一文に引っかかりを覚えた。


「───で、この素材と、これは高く買い取らさせていただきます……。ん? なんだこれ、」


 アルガスの戦果詳報、備考欄。


「……なお、アルガス・ハイデマン氏の「将軍級討伐」改め「軍団級の阻止」のクエストは達成を確認。しかし、達成の戦果は『光の戦士たちシャイニングガード』にあらず、アルガス・ハイデマン氏およびポーターのミィナ氏の二名の戦果とすることを特に言及するものなり──……って、なんだこりゃ?」




 しーーーーーーーーーーーーーーーーん。




「───『光の戦士たちシャイニングガード』の戦果じゃない? んん? どういうことだ?───ジェイス殿……って、」


 ───あれ?


 いつの間にかもぬけの殻になっていた、応接セット周り。

 ジェイスはおろか、メイベルもザラディンもいない。


「…………??? えーっと、御貯金の御引き出しは───」



 もちろん答えるものはどこにもいなかった。

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