光の戦士たち7

「み、見ろ……!」

「街道だぁ!」

「あ、あの先を! あれは街ですか?!」



 廃村を出て丸3日ほど。

 小休止と大休止を挟みつつ、ジェイス一行はひたすら歩き続けていた。


 見え隠れする道の後を辿るだけの行軍は酷く疲れたが、それも終わりに近づいてきたらしい。


 あの軍団レギオンから逃走して約1週間。


 リズの活躍により、ついにジェイス一行は荒野を踏破したのだ。


 魔物の接触がなかったとはいえ、これは驚異的なことだ。


 くだんの軍団の追跡がなかったのも奇跡に近い───。


「ふぅ。あと数時間ね───それと、悪いけど。街についたら別行動させてもらうわよ」


 リズは額に浮いた汗を拭ってから、3人を突き放す様にいう。


「な、何言ってんだよ? ここまで来て!───な、仲間だろ?」

「そ、そうよ……。ほ、ほら、報酬とか山分けしないと」

「感謝しているのですよ。お礼もさせてください」


 作ったような笑いが酷く気味が悪い。

 リズはうんざりした表情で言う。


「仲間? 報酬? 感謝ぁぁ?…………そんなもの───」


 吐き捨てるようにリズは言うと、もう3人を顧みることなく再び歩き始めた。


 その表情は疲労しきっており、ジェイス達3バカよりも酷く消耗していることが窺える。


 ただ後をついていくだけの3人とは違い、リズは偵察を兼ねて経路を探しつつ、先頭員ポイントマンとして行軍速度の維持、そして前方警戒などを一人で全てをこなしていたのだ。


「そう言うなよ! 今の俺達は文無しだろ?───ギルドについたら、貯金を引き出して分配する。本当だ」

「そうねー。街に着いたらどうしようかしら。まずはお風呂に入って、美味しいもの食べて───あ! スイーツ食べたい!」

「いいですなー。私はまずたっぷりの水を飲んで、柔らかいベッドで休みたいですね」


 好き勝手なことを言って、和気あいあいと道中を楽しむ3人。

 さっきまで死にそうな顔をしていた癖に、街が見えたとたんこれだ。


「お、あの煙───ってことは、あそこの街はリリムダか。……前に何回か行ったな」

「あー、煙臭い街ねー。スイーツは期待できなさそう」

「製鉄と工芸の街ですな。あと、田舎です」


 ようやくの街に感謝もなしに、辛辣な感想。

 このあとも、ピーピーと煩い3人のおしゃべりを聞きながら歩くのはウンザリだった。


 本気で街に着いたら別行動をしようと考えていたのだが、さっきジェイスが言った通り文無しなのは事実……。


 パーティとしての貯金はあっても、個々で持つお金はベームスの街の宿に預けたままだ。


 その点では暫く行動を共にしなければならないだろう。業腹ではあるが、ジェイスに報酬を貰わないと食事もできない。

 だから、うんざりする思いを抱えつつも、リズはただただ感情を押し隠して歩く。

「はぁ…………。ねぇ、アルガス聞いてよ、私───一人でも荒野を抜けたよ?」


 いつも隣にいてくれたあの人に聞こえるように、リズはそっと囁く。

 誰も聞いていなくてもいい。

 空のもと、アルガスに届けばいいなと思い、ただ……そうッと呟くのだ。


 彼の教えに従い、身に着けた生存技術を駆使して荒野を抜けた。


 アルガスに師事していなければきっと全滅していたであろうという事実。それだけが少し誇らしい。


 ジェイス達は理解できないだろうが、間接的にも、彼らはアルガスに救われているのだ……二度も。


(アルガス───待っていてね。すぐに探しに行くから……)


 アルガス……。

 アルガス───。


「私の、アルガス……」


 リズの心の大部分を占める、愛しい人。


 今はもう、いなくなってしまった大切な人……。


 今でこそ、荒野を抜けるという行動に自分を律していたからこそ、深く考えずにはいられたが、街に着き───一息ついたらどうなるか分からない。



 アルガスが死んだ………………。



 この事実を、どこかで受け止めなければならない。


 ゲラゲラと笑うジェイス達の声が、どうしようもなくリズの心をざわつかせていたが、それを知るのは彼女ただ一人。


 ジェイス一行はついに荒野を抜け───リリムダの街に着いた。


※ ※


 ざわざわ……。


 ざわざわ……。


 浮浪者よりもひどい恰好をしたジェイス達だったが、Sランクパーティの証明と王国公認の勇者の威光で入門は難なく進んだ。


 リリムダの街はベームスなんかよりもずっと栄えており、垢ぬけていた。

 それでも、やはり荒野の傍にある街らしく冒険者の姿が目立つ。


 おかげで、ボロボロで全身から酷い匂いを放っているジェイス一行も、さほど目立つことなく街の雑踏に紛れ込むことができていた。


 エエ格好しいのジェイスは、こんなボロボロの格好を見られることを良しとしないだろう。


 それゆえか、俯き加減でズンズン歩く。


 いつの間にか先頭を入れ替わっていたが、リズとしても街中においてはジェイスに先を譲っている。


 勝手知ったるといった雰囲気で歩を進めるジェイスだが───。


「ね、ねぇ? どこいくの? ギルドはたしかこっちじゃ───……」


 何よりも先にギルドに向かうと思っていたリズは戸惑いの声をあげる。


「はぁ? 何言ってんだよ……まずは宿に決まってんだろ? 疲れてんだよ」

「そうよ───ギルドなんか!いつでもいいじゃん」

「まったくです……。もうクタクタですよ」


 ギルドに行くという、考えすらなかった雰囲気の3人。

 

「で、でも───あの軍団レギオンの情報を、一刻も早く伝えないと!」


 あの軍団がベームスの街を飲みこみ、破壊していたら、次はまた別の近隣の街が襲われるのだ。


 荒野の傍の街かもしれないし、あるいはベームスを破壊してさらに人類の勢力圏に奥地に向かうことも考えられる。


 軍団は破壊と混沌の存在で、一カ所に留まるよりも常に獲物を求めて突き進む。

 一刻も早く対処しないと被害が甚大なものになるのだ。


「もう、誰か報告してるって───いいから、いいから」


 それだけ言うと取り合わずにさっさと街の高級宿に向かうジェイス達。

 リズは一瞬どうしようかと思ったが、自分の実績ではギルドがまともに話を聞いてくれるかどうか自信がなかった。


 報告だけしても、リズは途中で気を失っていたため、軍団の全容や進行方向を報告できないのだ……。


 それにリーダーを差し置いて報告すると、色々と不都合も生じるのだ。報酬の不正受給を疑われたりなんだのと───。


 リズは知る由もないが、それは、ちょうどアルガスがベームスで単独報告をした時のように扱われるのが関の山であるのだ。


 それも、アルガスよりも実績のないリズならいわんや……。


「く……」


 唇を噛みつつも、リズはジェイス達に従うしかない。

 それに、リズも疲れ切っていた───明日でいいかという、甘美な誘惑に抗いきれずにトボトボとジェイスに追従した。


 その様子を何か勘違いしたのか、

「大丈夫だって! ここの宿は馴染みだ。ツケが効くんだぜ。ま、金は心配すんなよ」


 ゲハハハハ、と見当違いに悪いジェイスに一瞬殺意すら覚えるリズであった。


 この男のせいでアルガスは死んだというのに、報告するおざなりにしようというその態度───!


 やはり、報酬をもらったらこのパーティから抜けよう。


 そして、たった一人ででもアルガスを探すのだ……。

 たとえ、彼の骨の一欠片でも、彼の形見の一つででも───。


 その夜、疲れ切ったジェイス一行は放浪の汚れを落とし、美食に舌鼓を打ち、そしてふかふかのベッドで寝た。


 後日とんでもない事実が分かるとも知らずに……。

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