第26話「騒動あけて、新しい1日(後編)」

  ガチャリ……。


 扉を開けて中に入ると、ミィナがすっぽんぽんでキョロキョロとしていた。


 …………うん、ちっぱい。


「…………………………何やってんだ?」

「あ、アルガスさん!───ごめんなさい、ミィナのお洋服破れちゃって……」


 しゅーん、としたミィナ。

 そう言えば、昨日のボロ服のままだった。


 聞けば起きた拍子に服が破れてしまい、何とかしようとしているうちに、ドンドン破れて───今やただのボロキレの塊になってしまったらしい。


「あー……。取りあえず、これ着とけ」


 アルガスの予備パンツを差し出す。


 ブッカブカだけど、ミィナが切るとオーバーオールのようになった。


 せっかくなので、ボロ切れを回収して、スリングを作ってやると結構いい感じの服に見えなくもない。


「いいんじゃなぃか?」

「ありがとぅ♪」


 パァ! と後光が刺さんばかりの天使スマイルに、思わずアルガスが仰け反りそうになる。


 おっふ。

 パンツあげただけで、そんなキラキラした目を見せないでおくれ……!

 幼女が素っ裸でウロウロしてる方が色々外聞悪いのよ。

 分かってる君ぃ?!


「ま、あとで街にいって服を買おう」

 金はあるしね。


「いいの?」

「気にすんな、大した額じゃない」


 ミィナのお陰で回収できた軍団のお金が、まだまだ唸るほどある。

 その対価として考えれば、本当に微々たるものだ。


「それよりほれ、飯にしようぜ」

「はーい♪ ワぁッ! おッ肉ぅ」


 ミィナはバーガータワーを見て目を輝かせている。

 この見た目のインパクトも、ミィナの感性からすればなんてことはないらしい。


「好きなだけ食えよ。皿は──────ほい」

 串から外してパンと肉を分けていく。


 そも、バーガーにする意味があったのかどうか……。


 更に山盛りになった肉を二人してモリモリ食べながらミィナに語り掛ける。


「ほうぃへば、ほのあほヒルホひひふへど、ふるか?」

(そういえば、このあとギルドに行くけど、来るか?)


「ほや? ヒルホ……。ほん、ひふ……」

(ほえ? ギルド……。うん、いく……)


 ミィナが少し顔を曇らせて言う。


 やはり、ギルドには良い感情がないのだろう。

 …………無理もないが。


 アルガスとしても、無理につれていくつもりはないのだが、昨日の今日のことだ───ミィナが誘拐されたのは。

 さすがにもう、盗賊ギルドは手を出してこないろうが、暗殺者ギルドやその辺りはよくわからない。

 連中はメンツやプライドで動くこともあるからな……。


 しかも、それを取り締まるべき衛兵逮も壊滅しているし、していなくとも、そんな頼りない連中に任せるくらいならアルガスと一緒にいるほうがいい。


「んぐんぐ……ぷぅ。わかった、じゃぁ飯食ったら、行こう」


「ほーひ」

(はーい)


 うん、食いながらしゃべると何言ってるか分からん。

 つーか、肉どんだけあるんだよ!

 さすがに喉に引っかかるわ。


 貰ったドリンクは薄めの果実酒らしく、クピクピ飲みながらミィナがモリモリ食べる様を眺める。

 ぶっちゃけアルガスより食べてる、食べてる、食べまくってる。


 まぁ育ちざかりなのでな、ドンドン食うがいいさ。


 それにしても……。

「───なぁ、ミィナ。その……ギルドに来るまでは何をしてた? どこに住んでたとこ覚えてるか?」


 キョトンとしたミィナ。


 肉をモグモグしながら、


「ごっくん……。んー。あっちー」


 なんか遠くの方を指さしてる。 

 窓から見えるのは遥か彼方の大山脈──。


 うん、わからん。


「あっちか」

「うん」


 ……こりゃ、難儀しそうだ。


「んっと、お母さん───ゴメンねって言って、ご飯足りないから、ウチに置けないって……」


 すん……と、軽くしゃくりあげながらミィナは言う。


「あー……そっか。そりゃ……どうしたもんかな」


 人攫いか盗賊の類かと思ったが、どうも口減らしの方らしい。

 こりゃ、親元に返すのは無理かもな……。


「アルガスさん、ミィナ……いたら邪魔?」


 うるッ、と目を潤ませながら上目遣いで見られる……。

 うん、止めてくれ───そーゆーのに弱いのよ俺。


「い、いや、邪魔じゃない。邪魔じゃないけど……」


 ───家に帰りたくはないか?


「………………ううん」


 少し長めの沈黙の跡、ミィナは小さく首を振った。

 彼女なりに思うところがあるのだろう。


 もう少し詳しく聞いてみてもいいが、どうやら親に売られたらしい事を思えば、彼女が帰るべきウチはもうないのだろう。


 いつか彼女が望むなら、少々のお金付きで送り届けてもいいが……。

 どうにも、ちょっと複雑そうだ。


「わかった。前に行ったが、しばらく一緒にいよう」

「え…………いいの?!」


 ミィナが顔を輝かせて、アルガスを見上げる。


「おう。…………そのかわり!仕事は手伝ってもらうぞ? 相棒ッ」


 ニッ、と歯を見せて笑うアルガス。


「うん!! ありがとう~!!」

「うぉッ!?」


 ピョンとアルガスの首に抱き着くミィナ。

 食事中に飛びつくもんだから、肉汁とかついてベッタベタになる。


「おいおい、ベッチャベチャだぞ……。それに、ミィナ───」

「あ、ご、ごめんなさい!」


 慌ててアルガスから離れると、旋毛を見せて頭を下げる。

 年の割には利発な子だ。


「いや、いいさ。それより───」


 アルガスは拳を突き出すと、ミィナに翳す。


「え?」

「相棒同士の挨拶はこうすんだよ」


 ミィナに拳を作らせると、拳を突き合わせさせる。


「んで、こうして、こう」


 拳を、ごんごん、ぐっぐ、最後に平手でハイタッチ!───オーケィ?


「は、はい!」


 ごんごん、ぐっぐ、ハイタッチ!


「いえー!」

「ぃ、ぃぇ~」


 ククク、と腹で笑うアルガス。

 ミィナの戸惑った笑いと仕草が、冒険者になりたての頃のリズを彷彿させて、実に懐かしい思いだ。


「さ、相棒契約も済んだことだし飯くっちまおう……その前に、着替えかな」

「あ、はい」


 沁みにならないうちに、パンツ型のオーバーオールを脱がせると選択桶につけておく。

 いや、オーバーオール型のパンツだったか? まぁ、どっちでもいい。


 あとは、道義的にちょっとどうかと思うが、替えの服がないので乾くのを待って、先に飯を食べてしまうことにした。


 モリモリと素っ裸のまま肉を食うミィナに、グビグビと朝っぱらから酒を飲むアルガス。


 さーて、腹ごしらえを済ませたらギルドだな。

 そんなこんなを考えて次の予定を立てていたのだが、そうは上手くことが運ばなかった。


 さすがに、着替えのないミィナを連れていくわけにもいかず、さりとてサイズも分からないので服も買えず……。

 そもそも子供服なんてものはどこで取り扱っているのか分からん。


 諸々を含めてギルドにいくかと、ミィナに絶対に宿から出るな、と言い含めてアルガス一人で宿を出たわけだが……。


 まー……なんというか、人、人、人!!


 昨夜の戦いの余波も冷めきれぬと言わんばかり、街中がお祭り騒ぎだ。


 衛兵隊に代わり、地元出身者と青年グループで結成されている自警団が治安を受け持ち、重税により鳴りを潜めていた露天商が、所狭しと軒を並べている。

 

 そのうえ、そいつらがやたらとアルガスを英雄だ何だと持て囃してくる。


 鬱陶しくてかなわないので、民衆の間をそそくさと逃げるようしてギルドに向かったものの、テンヤワンヤの大騒ぎ……。


 ギルドはギルドで無茶苦茶だ。


 ギルド職員が出たり入ったり、自警団が関係職員を連行していたりと───……こりゃダメだ。


 ギルドマスターが犯罪に手を染めていたのだ。当分は通常営業できまい。


「こりゃ。まいったな……しばらく身動きできそうにないぞ」


 さすがに、荒野の端に位置する冒険者ギルド。なくてはならぬ存在ゆえ、潰れるとは思えないが……暫くはバタバタとするだろう。

 もっと大手の冒険者ギルドから、応援や監察が入ることは間違いない。


 ここのギルドには「光の戦士たちシャイニングガード」の動向確認を依頼しているので、そうそう離れるわけにはいかない。


 くそ……しばらく缶詰だな、こりゃ。


 お祭り騒ぎの街を他所に、アルガスの気持ちは暗い落ち込む。

 こんなところで足止めを食らっている場合ではないのだ。


 一刻も早く、リズを…………。



「クソッ!」

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