第26話「騒動あけて、新しい1日(前編)」

 チュンチュン……。

 チチチチ…………。


 朝の気配にアルガスは目を覚ます。

 とは言え、結構な時間らしい。


 顔に当たる日光は、かなりの高さだった。


「ん。むぅ……さすがに寝すぎたか」


 ふわぁ~~~~あ、眠い。


 ん?

 なんか体が重いと思ったら……。


「ミィナ。起きろ───自分の布団で寝ろ」


 わざわざベッドが二つある部屋を借りているというのに、なぜかミィナがアルガスの腹の上で丸くなって寝ていた。


 ちっこいので然程重く感じないが、これじゃあどっちも熟睡できない。


 …………まぁ寝てたけど。


 幼女を上に乗せて寝ていたアルガス(字面ぁぁああ!)は、首をゴキゴキ鳴らして起き上がる。

 ミィナはスピー、スピー、と可愛く鼻を鳴らしてぐっすりと寝ている。


 やれやれ……。


 猫のように眠るミィナを、アルガスは首根っこを掴んで持ち上げ、ポーンと隣のベッドに入れてやる。


「ほやぁ?」

「寝てろ」


 一瞬目を覚ましたミィナだが、アルガスが手を布団の中に入れてやり、ゆるゆると顎まで布団を被せると、またスヤスヤと眠りについた。


 日光が当たって、布団は実に温かそうだ。


「あー……腹減った。昨日は……つぅか、今日になるのか?───は、最悪だったな」


 まったく……。


 ボリボリと腹を掻きつつ、ズボンを履くアルガス。

 パンイチだけど、別に変なことしてないよ?


 軽装で寝るのが楽なのよ。はい。


 「あーまだ眠い……」と、アルガスは首を振る。

 なんせ、文字通り一晩中戦闘をする羽目になってしまった。


 アホのギルドマスターに、裏ギルドの連中。おまけに悪徳代官と来たものだ。

 そして、極めつけはゴーレム。


 どんだけ詰め込むんだよ……ったく。


「───ありゃ、子どもにゃぁ酷な時間だよな」


 ミィナは小さいながらも、昨日は一晩中頑張っていた。

 ティーガーⅠのクソ重い防弾をひたすら装填、装填。


 物騒な連中に攫われ、危ない目にもあったというのに健気にもアルガスを信頼して着いてきてくれた。


 普通なら、こんな目にあったら二度と関わりたくないとか思うんじゃないだろうか?


 ま、子供の感性はわからん。


 とは言え、いつまでも連れ歩くわけにもいかないだろう。

 事情は知らんが、もし親が存命なら見つけてやるべきかもしれない。


 ミィナの柔らかいホッペをプニプニとつつきながら着替えを終えると、

「………………ま、取りあえず飯食ってからだな」


 一晩中動き回ったから腹が減った。


 あと、難しい事を考えすぎたから、余計腹が減った。


 重戦車……。

 もと重戦士はパワーファイターなのだ。


 こうみえて、頭を使うのは向いてないのよ。


 さって、飯、飯~。


 スヤスヤと眠るミィナな頭を撫でてアルガスは部屋を出た。

 昨日はこの瞬間に暗殺者どもに襲われたのだが、今朝は当然そんなこともない。


 なんせ、連中の親玉をぶっ潰してやったのだ。


 組織としてはしばらく動けないだろう。

 報復とか、そーいう面倒なことがありそうだけど……。


「っと! アルガスさんッ!? おはようございます!!」


 部屋を出た瞬間廊下を掃除していた宿の女将さんに、物凄く丁寧に挨拶された。


 出た瞬間に、暗殺者じゃないのはありがたいが、朝一番のおばちゃん的ハイテンションもちょっときつい。


「あ、あぁ、おはようございます。食事をお願いしたいんですが……」

「えぇ! もちろんです! 腕によりをかけて作りました!」


 そう言って無茶苦茶テンション高めで女将さんは食堂へ駆け下りていく。


 ……もしかして持ってくるつもり?

 ええで、そーいうの。食堂に食いに行くから。


 おばちゃんを追いかけるように、ズシンズシンと宿を征くアルガス。


 元重戦士なだけあって威圧感がすごいらしい。

 女将さんのハイテンションを訝しがった宿の客が、廊下に出たアルガスを見て仰け反っている。


 まぁ、俺ゴツイからね……。

 露骨にビビられると、ちょっと傷付くけど。


「おう! アルガスさん! いやーよかったよかった! 中々起きて来ないから心配したよ」


 はぁ?


 食堂についたと途端、コック兼宿の店主の親父が女将さん同様のハイテンション出迎えてくれた。


 だけど、意味が分からん……。

 なんでこんなにテンション高いねん。


「はい! どうぞッ! 悪徳代官を誅した英雄に捧ぐ朝食です!」


 ドン、デーーーーーーン! と、めっちゃ豪華な飯を用意される……。


 っていうか、なんだその『悪徳代官を誅した英雄』ってのは?!


「お、おい……こんなに食えねぇよ。それになんだその、」


「おぉ! アンタがアルガスさんかい!? いやー、助かったよ!」

「おぉ! 豪傑だとは聞いていたが、なるほど───強そうだ!」


 まばらにいた食堂の客がワイノワイノとアルガスを褒めたたえる。


 うん──────すげー居心地悪い。

 ついでに朝飯がすごい……。


 パンとパンに具材を挟んだ簡単な軽食──なのだが、『パン、肉肉肉肉肉、卵、野菜、肉肉肉肉肉、パン』って感じだ。


 食えねぇよ……!

 タワーになっとるがな!!


 どこから齧りゃええねん!!


 って、倒れるぅぅぅう!!


「はぁッ!」


 ドスぅ! と、女将さんが倒壊寸前のバーガータワーに特大の串を突き刺した。


 すっげぇ……。

 めっちゃ切れのいい一撃。


 バーガーのど真ん中に串がブッ刺さって、上から下まで貫通している。


 「はぁ!」じゃ、ねーわ! メッチャびびったんですけど。


 凄腕のおばちゃんに「はい、どうぞ」と手渡されるバーガータワー。

 混じりっけなしの100%の善意のバーガータワー……そして、褒めて沸き立つ客のせいでスゲー居心地悪い───。


「て、」


「「「「「て?」」」」」


 アルガスが何を言い出すのかスゲー期待勘丸出しの店主&おばちゃん&客にドン引きしながらも───、


「───テイクアウトで……」


 うん。

 こんなとこで食えるかッ!!


 っていうか、俺は別に英雄じゃねぇ!

 身内に手ェだされたから、権力に楯突いただけの、ただの一冒険者だ。

 下手すりゃ、王国からお尋ね者に指定される危険だってある。


 もっとも、正当防衛は間違いない。

 なにより職権を乱用したあげくにアルガスの身内に手を出し、財産を奪おうとした連中が咎められずアルガスが咎められるなら、……俺にもそれなりの考えがある。


 具体的には、こう───アハト・アハトでドカーン! 的な?


 とはいえ……今は、この居心地の悪いのだけは勘弁願いたい。


 いっそ街を出てもいいのだが、リズの情報を集めるためにも、ここの冒険者ギルドに頼らねばならない。

 別に他の街でも同じように情報を収集できるが、その手間も時間も惜しい。


 しかし、アホギルドマスターがいなくなったことで、ここの冒険者ギルドの明日がそもそもないかもしれないけど……。


 ロングソードみたいになったバーガータワーとミィナ用のドリンクを貰って、スタコラサッサと食堂を後にするアルガス。


 英雄だの何だのはご勘弁願いたい。

 アルガスの望みはただ一つ。


 平穏だ。


 だから、その胸中にあったのは、

(やっべー……なんか、面倒なことになりそうだ───)


 と、いうことであった。


 今日の予定はギルドに顔を出したり、ドロップ品を細々と売ろうと思っていたのだが、どうもそれどころじゃなさそうだと考えを改めた。

 でも行くしかないわけで……。


 うーむ……。参ったな。

 取りあえず、飯を食ってから考えよう。


 いつの間にか英雄に祭り上げられていることに、一抹の不安と居心地の悪さを感じるのであった。


 そして、すごすごと部屋に戻るアルガスの元に、想像通りの面倒ごとがズンズンと近づいていることにまだ彼は気付いていなかった。

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