光の戦士たち6

 まず食材の下ごしらえだ。

 簡単に調理するなら卵から。


 無精卵ならよかったのだが、恐らく全部有精卵。

 なかにはリザードマンが孵る寸前の物もあるだろう。


 だからこれは蒸し焼きにする。


 焚火の下に空洞を作り、大きな葉っぱで包んでおいて、灰を被せて火の下に。そのまましばらく放置。


 次に芋虫だが、デッカイこいつは一匹でかなりの重量。

 生でも食えるというが、寄生虫などの危険を考えると火を通した方が無難だ。


 だから、まずは背を割って内臓を取り出す。

 ナイフを入れた瞬間ブシュ! と緑色の液体が飛び出しメイベルが悲鳴をあげて逃げていった。

 男二人は腰は抜けている。


 さて、内臓を火に投げ込んだら、芋虫の頭を落とし、ざっくりと切り分け串に刺す。

 わりと硬い表皮に比べて、中身はゲル状の何かだったが一応形を保っている。


 火に投げた内臓が香ばしい匂いを立てているのでたんぱく質だけは豊富。味は知らない。

 ブヨブヨとする身に岩塩を粗く削っても見込みヌメリを落とす。

 妙にドロドロとしていたのは表皮の裏側だけで、中はしっかりとした身が詰まっていた。


 色は緑だけど……。


 そこに山椒の葉を散らして香り付けすると、火から少し離してかける。

 ジュウジュウと香ばしい音を立てているけど、再三言うが味は知らない……。


 次にトカゲ。

 コイツは皮も固いし、身もまるで革靴のようにかたい。

 ナイフが中々通らないので酷く苦労した。

 知れでもなんとか皮を剥ぐと、大きく腹を裂いて内臓を掻きだす。


「お、おい……どうみても噛み千切れないだろ、それ……」


 勇者の割に軟弱な顎を持つジェイスは不満げだ。


「身は保存食よ」

「じゃ、じゃあ、」


 ブチ。リズが何かを切り取る。


「ここは食べれるわ。多分ね」


 過食できる部位としてこれほど適切なものはないだろう。

 身の割にデッカイ肝臓。そして、まだ動いて見せる心臓だ。


 それを半分に割り串に通して直火に当てる。

 爬虫類の内臓は、やはり寄生虫の危険がある。硬そうな身は焚火の真ん中に入れて軽く灰を被せた。カリカリになるまで焼き締めれば保存食になるし、身を焦げて脆くなるだろう。


 さて、残るところはネズミと毛虫。


 ネズミはトカゲよりも楽に皮を剥ぐことができた。

 あとは内臓を出して火に当てるだけ。


 トカゲと違い内臓は食べれるほど取れないので全部火に投げた。

 あとはトカゲの内臓と同じく直火に当て骨ごとじっくりと火に当てる。


 毛虫は下処理として、フライパンの上にドサッと放り入れた。

 ウゾウゾと熱にのた打ち回る毛虫。

 メイベルがさっきから戻ってこない。

 男性陣はさっきから腰が抜けて復帰不能……情けない奴ら───。


 さて、どうかな? と覗き込めば思った通り毛が全部落ちている。

 なので一度毛虫を板に戻すと、フライパン上の毛を掃除する。


 そこに、ネズミの皮についていた油を塗り込み、もう一度毛虫を投入する。

 今度はイイ感じに火が通り始めた。

 

 何度か、じゃっじゃっ! とフライパンを躍らせ毛虫に満遍なく火を通す。

 そこに、フライパンを揺すりながら岩塩を振り入れ、山椒の葉を細かく潰しながら入れていく。


 毛虫が全部、身をキュっと丸めれば完成だ。


 フライパンの素熱を取るため揺すりながら火から離すと皿代わりにデン! と地面に置く。

 最後に積んだばかりにハーブをいくつか並べると──────「毛虫炒めのハーブ添え」完成。


 さて、後は順繰りに───……。

 まずは、灰の中から棒で卵を取り出せば───あ、できてる。

 卵の殻が割れて中身が透けて見えている───ビジュアルはちょっと凄い……けど、匂いは中々オイリーな感じ。

 「リザードマンのバロット」完成。


 次は、お手軽簡単荒野料理、火から離せば───はい、完成。お好みで塩を振りかけて食うべ「ネズミとトカゲのモツ直火焼き」召し上がれ。


 最後はこれ───……「巨大芋虫の串焼き山椒和え」。

 火から離してクルクル回していたけど、いい感じに熱が通って身がギュッと引きしまっている。

 色は緑だけど……。塩味はついているけど、足りないならお好みで。



「できたわよ」



 はい。とネズミの串焼きをジェイスに押し付ける。


「お、おう……」


 無茶苦茶ドン引きしている。

 知った事じゃない。ここはお綺麗なホテルじゃないのよ。


「好きに取って食べて、量はあるはずよ」


 リズはあとは知らんとばかりに、毛虫炒めに手を伸ばす。

 イイ感じに焼き上がっており、香ばしい香りがする。

 一つ手に取ってみて、頭を落として背を開き、わた取り除くとさて実食───……あ、うまいわね、これ。


 意外とクセもなく、ちょっと口当たりがボソボソすることに目をつぶれば全然食える。

 塩味がいい感じにあうのだ。


 塩由来のしょっぱさの中にたんぱく質の甘味が加わり、ネズミのラードがよく馴染んでいる。

 なんだろう…………。あ、半生の魚卵に近いかも。うん、イケルイケル。


 リズはアルガスに冒険者としての知識を叩き込まれていたのでサバイバル技術も中々のものだ。

 さすがに荒野を越えた経験こそないものの、もっと過酷な環境を彼と過ごしたこともある。


 他国の砂漠地帯……。高山と雪の世界───……。どれもこれも苛酷な場所だったけど、アルガスと一緒ならどこでも平気だった。


 あの人といれば、なにも怖くなかった……。


 グスリと思わずしゃくりあげてしまう。

 その雰囲気を気まずく思ったのかジェイスがバツが悪そうに焚火に向かい、ポリポリとネズミを齧っている。


 ドン引きしていた癖に、空腹には抗えなかったのだろう。食ったら食ったで、「あ、うめぇ」とか言って喜んでいるし。


 だが、頑なに虫には手を付けない。

 リザードマンも同様。


「肉だけじゃ足りないわよ」


 そう言って、不機嫌を隠しもせずにリズは芋虫の串焼きをザラディンに突きつける。

 緑のビジュアルがすごい……。


「い、いいいいいいいいえ、えええええ、遠慮しておきます───あまりお腹が空いていないもので、」


 グーーーーーギュルルルルル……。


 お約束のタイミングで腹が鳴るザラディン。

 毛虫の意外とおいしそうな匂いに空腹が刺激されたらしい。


 その瞬間無言でがっしりと、串を掴む賢者殿。


 じっと、芋虫の切り身を見ていたが恐る恐る口にして、チミッと噛み切ると、恐る恐る咀嚼する。


 ムッチッムッチッ…………ごく。


「お、おい。どうだ?」

「げ、た、食べてる……味は?」


 いつの間にか戻って来ていたメイベルも、顔を引き攣らせながらも興味津々だ。

 ザラディンは全て飲みこみ、目をパチクリ。


「────────────……海老?」


 ズルッ、とずっこけるジェイス&メイベル。


「う、うそつけ!」

「あ、ありえない!!」


 だが、二人の意見など聞こえないかのように、ザラディンが今度はモリッと被り付く。

 中々汁だくでボタボタボタ……と中身の水分が零れる。うん、緑……。


「あ、これ旨いわ。海老だわ、エビ」


 お前マジかよ……みたいな目で見られるザラディンだったが、割とお気に召したらしく食べきる。


 そして、ジェイス達が食べないようなので残りの身を食べようと───……がしり。


「待てよ」

「待ちなさいよ」


 ジェイスとメイベルが殺気立った顔でザラディンを止める。

 そして、芋虫の串焼きを引っ手繰るとガブリと一口──────「「……エビ?!」」


 エビらしい……。


「「「……………………」」」


 そして、三人とも顔を見合わせると恐る恐る他の料理にも手を伸ばし始めた。


 「リザードマンのバロット」にトカゲのモツも恐る恐る口に運んでいる。


「あ、ダメだ。俺これダメ」

「あ、私好きかも───頂戴」


 バロットの見た目のアレ差の割に意外と柔らかく食べやすいことに気を良くしたメイベルがゴリゴリとリザードマンの幼生を骨ごと齧る。

 とはいえ、骨は柔らかく軟骨のような触感らしい。


 ジェイスは代わりにトカゲのレバーをモリモリと食べている。

 レバーは好みが分かれる味だろうがジェイスは割と平気なようだ。


「あ、これ普通のレバーとそう変わらないな。味が濃い分、コレうまいわ」


「では私はこれを───……ほう、」


 モリモリとトカゲの心臓を頬張るザラディン。


「なんでしょうかね。……牛肉に近い味がします。旨いものですね」


 最初のドン引きがどこへやら、結構モリモリと食べだすジェイス達。

 口の周りと緑色に染めながらモッシャモッシャと頬張る頬張る。


 しまいにはリズがもそもそと食べていた毛虫炒めにも手を伸ばし、まるで酒のつまみのようにしてアルコールを飲み交わしながら器用に食べ始めた。


 実に現金な奴らである。


「いやー……虫も意外とうまいな!」

「ほんと、びっくりしたわ~。リズぅ、明日もお願いねー」

「これはこれは、知識が増えました。都に戻れば話のネタになりますね」


 ぎゃはははははははは! と、笑いつつ、細工残った小刀で毛虫を処理しつつ食べる3人。


「………………───ねぇ、その小刀どうしたの? そんなの前使って無かったよね?」


 ぎゃは──────……。


 不意に静まり返る3人。

 それを訝しがったリズは彼らの背嚢に手を伸ばすと、

「あ、何をするんですか!?」


 手近にあったザラディンの物を取り、中を確認する、すると……。


「ちょ、ちょっとこれ……何よ!」


 ガラガラガラと出てきたものは民族工芸品の様なものと──────耳。


「ち……」


 それを取り出した瞬間、3人の纏う空気が変わる。

 スゥと冷えた空気に、リズがビクリと竦むと、ジェイスがゆっくりと立ち上がる。


「なんだよリズ。耳がどうかしたのか? ん?」


 ゆっくりとゆっくりと、

「───はは、これか? 討伐証明って奴だよ。知ってるだろ?」


 ヒョイっと拾い上げた耳。褐色の笹耳───……。


「ダークエルフに出くわしたのさ。連中いきなり襲ってきやがってさ、返り討ちにしたんだけど、どうも犯罪者っぽかったからな。ギルドに討伐報告する義務があるからこうして持ってるのさ、な?」


 メイベルとザラディンにも笑いかけ同意を求める。


「え~そーよー。私も仕留めたもん、ほらこれこれ」

「じ、ジェイス殿もたくさん持っておりますぞ」


 鞄から取り出した乾燥した笹耳のネックレスを自慢げに見せるメイベル。

 ザラディンも追笑して、それを裏付ける。


「は、犯罪者って……そ、そんなの、手配書でも見ないとわからないじゃない」

「ハッ! なぁに言ってんだよ。俺達が最初に襲われたんだぜ? 殺人未遂は犯罪さぁ、そうーだろぉ?」


 ゲヒャハハハハハと下品な笑いで耳をポンポンとお手玉するジェイス。


「そうです、そうです! 王国警察法にも書かれておりますぞ」

「正当防衛よ、せーとぼーえー。んね、リぃズ?」


 ニッコォと微笑みかけるメイベルに、目をあわせないザラディン。


 な、なんなの。

 一体何をしたの?


 こ、荒野にだって……人はいる。

 魔物とうまく共存する部族や、食い詰めた物が仕方なく暮らしていることもある。


 凶悪な魔物を生態を知れば避けて通ることもできるのだ。


 だから、ダークエルフだって…………。

 襲われたからって──────そんな。




 どう見ても、略奪したようにしか、見え……な───い。





「「「リズ」」」


 ニコニコ笑う3人。


「「「リズ」」」


 ゆっくりと迫る3人……。




     「「「リズ」」」




 ──────気にするな。


 余計な事は、


「見ない」

 と、ジェイスが宣う。


「言わない」

 と、メイベルが宣う。


「聞かない」

 と、ザラディンが宣う。



 それでいいじゃないか?



「「「な?」」」


 コクリ、コクリと頷くしかできないリズ。

 震える手を隠すのがやっとだった。



 何かが、何かを………………。


 こいつ等、何を?


 何をしたの? 荒野の奥で───……!





 荒野の脱出はもう間近……。リズは文明の痕跡を見つけていた。

 廃村から続く、道の痕跡。

 必ず人里に繋がる確かあ道の跡を……。


 だが──────このまま街に向かって大丈夫なのだろうか?




 リズがいなければ・・・・・・・・脱出不可能な荒野・・・・・・・・の奥で、彼らと一緒に街に向かって大丈夫なのだろうか?




 一緒に…………行動して大丈夫なの?


 ねぇ、教えてよアルガス。


 守ってよアルガス……。





 傍にいて──────アルガスっ!!

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