光の戦士たち4

 湿地帯を抜けた先、乏しい植性と岩だらけの土地に差し掛かったジェイス一行。


 リズを先頭に黙々と歩いているが、彼女を除く全員が疲労困憊し、息も絶え絶えとなっていた。


 いや、リズとて平気ではない。


 頬がやつれ、顔色も良くない。

 肉体的にも、精神的にも、彼女も疲れ切っているのだ。


 水もなければ、食料も乏しい。

 休む場所もない……。


 照りつける太陽に、顔中にたかる虫がまた余計に疲労を増やす。


 だけど、今ここで倒れるわけにはいかない……。


 アルガスを───……例え亡骸だけであったとしても、彼を見つけなければと───、それだけを心にリズは荒野の脱出を図っていた。


 図らずとも、それがゆえにジェイス達がついてきているのだが、好きにすればいい。

 本当なら助けてやる義理もないし、むしろ憎んですらいる……。


 だけど、アルガスがいれば絶対に見捨てないだろうし、きっと嫌な目にあっても許してしまう。


 それくらいに懐の大きな人で、優しい人───……。


 彼が怒るとしたら、身内に手を出したものだけ。

 昔、リズの両親がまだ健在だったころ。リズが見ず知らずの大人に誘拐されたことがあった。


 あの時のアルガスのブチ切れ具合といったら……。


 誘拐そのもの───その時のことは思い出したくもないが、でも一つだけいい思い出もあった。


 大きな組織の絡む誘拐事件で、当時は誰もが絶望視していたらしいが、アルガスはリズの両親とともに奮起し、なんと組織の中まで突入し彼女を救い出してくれた。


 狂戦士バーサーカーのごとく暴れ、千切っては投げ、千切っては投げ!

 獅子奮迅の大暴れ───。


 とても強かった……。

 とてもカッコよかった……。

 とても頼もしかった───。


 あの時以来───リズはアルガスを見ている。

 一人の男性として、父として、兄として───……アルガス・ハイデマンという、いとしい人として。


 ……結局は、当時のケガなどが元で両親は他界してしまったが、それでもアルガスがいてくれた。


 さほど年は変わらないというのに、無理をして両親の代わりをしようと、リズを引き取ってくれた……。


 嬉しかったし、同時に救われた思いでいた。

 アルガスとともに過ごせることに、喜びすら感じていた……。


 いたんだよ──────……アルガス。


 リズの視界が滲む。

 どうしても、アルガスが死んだという事実が認められなくて……。

 寄り添ってくれたあの人が、たった一人で荒野の果てで死んだなんて認めたくなくて……。


 でも、アルガスなら、こんな時メソメソすることを許さない。


 冒険者として大成していた彼なら、まず目的を達成するために全力を尽くす。

 だから…………リズもアルガスを見倣い。全力を尽くす!!


「うぉぉおい……リズぅ!」

「ど、どこに向かってるのよぉ」

「も、もう限界です……」


 うるさい連中だ。

 こうなったのは、自業自得だろうに。


 鬱陶しそうに振り返ると、無言で前方を指さした。

 リズにはとっくに見えている。


 だが、疲労困憊の彼らは気付きもしていない。


「な、なんだ?」

「え。えええ! ジェイス、見て見て」

「む、村ですか?!」


 突然色めき立つ面々。

 人工物の発見に驚いているようだが、別に珍しくもない。


 それにここは──────。


「は、早くいくぞ!」

「そうだね! いこいこ! きゃっほー!」

「まーた、湿気た村じゃないんですか~?」


 ゲラゲラと笑いながら村に向かって元気いっぱい走り出す3人。

 もうリズは用無しと言わんばかり。


(馬鹿ね……。見ればわかるでしょうに──そこは、)


 全力疾走していく3人だが途中で気付いたらしく、足が止まる。

 まるで絶望するようにガックシと……。


「そ、そんなぁ」

「え~! 廃村じゃん」

「あぁ、先日のようには、うまくは行きませんな……はは」


 また?

 先日───?


 ………………一体なんのことだろうか?


「り、リズ! こ、こんなもののために荒野を彷徨っていたのか?!」

「そうよ! 責任取りなさいよ! 無駄足じゃない!」

「そうです! 責任を取って、その背嚢に隠している食料を我々に───」


 ふん。

 馬鹿馬鹿しい。


 これが勇者パーティ?


 冗談じゃない……。


 3人を完全に無視したリズは、スタスタと廃村に向かて進む。

 この3バカは無駄足だと思っているようだが、大間違いだ。


「ちょっとまてよ!」「止りなさい!」「リズ!」


 無視、無視。

 鬱陶しいことこの上ない。


「「「リズぅ!!」」」


「うるさい」


 冷たくあしらうとリズは、武器を抜いて廃村に向かう。

 無人だとは思うが、一応警戒だ。


 荒野と違い、遮蔽物が多すぎるし───なにより敵対者が潜んでいる可能性もある。


 探知系スキルには何も引っ掛かっていないが、隠蔽スキル持ちがいた場合、それは意味をなさない。


 こんな荒野の果てにそんな手練れがいるとは思えないが、警戒するに越したことはない。


 慎重に慎重を重ねて進むが、どうやら杞憂で済んだようだ。

 荒れ果てた家が数件並ぶだけで猫の子一匹いやしない。


 いたらいたで、3バカが食らいつくだろうけど……。


「クリア──────ここは大丈夫よ」


 一応教えておいてやる。

 どうせ、何のあてのない連中。


 何をおいても、リズに追従しようとするだろう。


「くそ! お前が偵察で見つけたのはこの程度の物か!」

「あったま来るわね~! 廃村でどうしようっての!」

「こんなところ、何も残っていませんよ!」


 あーうるさい。


「別に、人がいることを期待していたわけじゃないわ」


 そうとも、最初から廃村だとあたりを付けて来ている。

 そもそも、周辺には人の手が入った痕跡が全くない。

 それくらいわかる。


 ここも廃村になってから随分と経つのだろう。


「なら、なんで!」


 はぁ。

「───こんなところでも、人が暮らしていたことがある……つまり、」


「あ!!」


 ここまで言ってようやくザラディンが気付いたようだ。


 これで賢者……。本当か?


「水ですか!」


 ようやく合点がいったという様子。


「えぇ、きっと水源がどこかにあるわ」


 でなければ人は暮らせない。

 持ち込んだ水だけで村を起こすなど正気の沙汰ではない。

 どこかに飲める水源があって、それがためにここに暮らそうとした。……多分ね。


 どっちにしても、まともな人間ではないでしょうけど……。


「そ、そうか! お、おい! メイベル、ザラディン───探すぞ」

「う、うん!」

「お、お任せください」


 ふぅ。

 水源はあの3バカに任せておこう。


 こっちはコッチでやることがある。

 リズは武器を納めると、淀みのない足取りで偵察に出かけた。


 村があるということは──────必ず文明との接触……つまり道の痕跡があるはずだと。

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