第109話

「御嬢様、幸運でございます。

 大理石の山が発見されました。

 これで石材の心配がなくなりました」


 白々しい御芝居です。

 全てを理解している戦闘侍女達は、笑いをこらえるために厳めしい表情です。

 王家や有力貴族家から入り込んだ密偵を騙すために、偽情報を広めさせるために召し抱えた侍女達が、私の運のよさに眼を見開いています。

 それもそうでしょう。

 半砂漠を奥地に進めば進むほど、多くの鉱山が発見されるのですから。


 ですが全部自作自演の芝居です。

 発見したのではなく、中級精霊達の複合精霊術によって創り出したのです。

 金銀銅鉄といった鉱山に加え、金剛石や青鋼玉に赤鋼玉といった宝石の鉱山まで、連日のように発見されるのです。


 砂漠領に入植してから一年少し、地下用水路を利用した農業は順調です。

 今年は三万人の領民を養えるだけの収穫があるでしょう。

 魔犬達も二度目の出産を終え、最低限の育児も終わっています。

 新たに仲間に加えた野生の魔犬や魔虎も沢山いるので、五百頭を超える魔犬と魔虎が仲間なっています。

 彼らによる狩りで、莫大な量の獣や魔獣が手に入るようになっています。


 純粋な戦闘力で考えれば、もうゴードン王家王国は私達に手出しできません。

 魔犬達だけでなく、人間の数も急速に増えました。

 最初に移民させた犯罪者奴隷が五千人。

 周辺の貴族達が追い払った難民奴隷が二万人。

 シーモア公爵家から連れてきた農民が五千人。

 シーモア公爵家や王都から集めた難民奴隷が五万人。

 土地の自力開拓を条件に騎士や徒士の位を約束した冒険者が五千人。

 シーモア公爵家から分家してきた家臣が五千人。

 その全員が剣や槍をとったら、王家王国が侵攻してきても、人間戦力だけでも十分防衛戦争が可能です。


 ヘンリー様もヘンリー様の側近達も馬鹿ではありませんから、勝てない戦争を仕掛けてくることは、普通はありません。

 普通はありませんが、人間は摩訶不思議なモノで、常に理性的に行動できず、時に面目をかけて、死を覚悟して戦うようなところがあるのです。

 戦い自体を恐れるわけではありませんが、人間を虐殺したいわけでもありません。


 だがら面目を立ててあげることにしました。

 私を優遇しても恥ずかしくないようにしてあげました。

 自分で自分の伝説を作るのは恥ずかしいですが、リリアンと相談して聖女伝説を創り上げることにしたのです。


 軽微な罪の犯罪者奴隷には、恩赦を与えて自由民にしました。

 難民奴隷も罪のないモノは恩赦で自由民にしました。

 シーモア公爵家や王都からだけでなく、各貴族領の難民や貧民を移民として受け入れると宣言しました。

 聖女らしい態度をとるように気を付けました。


 王家の直臣や貴族家の陪臣の中で、性格のよい者を新規召し抱えてして、高家や貴族家との絆を深めました。

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