第99話

「慌てなくていい、全員に行き渡るまで終わらないから。

 二杯でも三杯でもお替りしていいから、順番は守れ!

 一杯目の人間を優先しろ、守らないと二杯目を渡さないぞ!

 仕事が欲しい人間はこっちに並べ、飯を喰ってからでいいぞ。

 病気を癒して欲しい人間はこっちだ。

 御嬢様が治して下さるんだから、ちゃんと風呂に入ってもらうからな!

 蚤や虱をつけたまま来るんじゃねえぞ!」


 家臣達が面白いくらい真っ赤になって大声で叫んでいます。

 私に虫がついたままの病人を診させたくないのでしょう。

 ですが私は蚤や虱を気にしたりしません。

 そんな事を気にしていたら、タマやムク達と触れ合う事などできません。

 それに中級精霊の御陰で、虫が私に近づかないのです。

 除虫駆虫効果が私を護ってくれています。


「聖女様!

 ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます!」


「まだ安心してはいけません。

 その子には栄養が足りていません。

 このままでは栄養失調で死んでしまいます。

 ちゃんと食事を与えないと死んでしまいます」


「申し訳ありません、聖女様。

 頑張って食べさせます、ですから見捨てないでください」


「見捨てたりはしませんよ。

 貴女が身体を張って子供達を育てている事は知っています。

 ですが今の貴女では、満足に客をとる事ができないのではありませんか?」


「御嬢様!

 御嬢様がそこまで気にする事はありません!

 どうしても食事が必要なら、炊き出しにくれば何とかなります。

 炊き出し担当に言葉をかけておきますから!」


 リリアンは私の気持ちを察して黙っていてくれますが、母上が私につけた侍女が口出ししてきます。

 私の、いえ、シーモア公爵家の体面を考えての助言でしょうが、私の行く道を邪魔されているように感じてしまって、苛立ってしまいます。

 この苛立ちは孤高の魔虎タマの影響でしょうか?

 それとも序列に厳しい魔犬のムク達の影響でしょうか?


「黙りなさい!

 私は恵まれない人達に救いの手を差し伸べると決めたのです。

 私の行く道を阻む事は許しません!

 今度差し出がましい口を利いたら、二度と同行を許しません。

 リリアン、次にこの者が余計な事を口にしたらつまみ出しなさい!」


「はい、御嬢様」

「ガァオァァァ!」

「ウゥゥゥゥ!」

 

 リリアンが即答してくれたと同時に、私の側にはべっていたタマとムクが歯を剥いて、余計な事を口にした侍女を激しく威嚇しました。


「ヒィィィィ!」


 侍女が恐怖のあまり失禁してしまいました。

 こんな胆力のない侍女にかまっている暇はありません。


「この者の言う事は気にしなくていいわ。

 貴女が考えるのは子供達を餓えさせないことよ。

 私の仕事を手伝わない?

 給金は安いけれど、貴女と子供達に御腹一杯の食事を毎日三度与えるわ。

 どうかしら?」


「ああ、御嬢様!

 どうか、どうか、お助け下さい!

 私を働かせてください!」

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