第76話

 ずぶぬれになった魔犬達は、本能的に恐れる火に対しても、必死で本能にあらがい、私の指示通り炎の壁に突っ込んでくれました。

 最初はずぶぬれなので問題無く炎の壁に入れました。

 水分が蒸発する手前に、オーロラとノームがトンネルを創り出してくれました。

 その御陰で魔犬達は無事に炎の壁を突破する事ができました。


「ウォォォォォン!」


 雄叫びと共に、魔犬達の逆襲が始まりました。

 彼らは格段に強くなっています。

 一噛みで手足を噛み千切り、倒れた襲撃者の喉笛を喰い破ります。

 魔犬達が情報を送ってくれる私の心眼に、魔法使いらしい男が映ります。

 私はこれ以上魔法を使わせないように、魔法使いを先に殺すように指示しました。


 殺人に対する恐れというか、忌避感は多少あります。

 ですが、それ以上に仲間を傷つけられた怒りの方が大きいのです。

 正直な話、徐々に人の感覚から、魔犬の感覚に慣れてしまった感じがします。

 元々魚肉を食べる事に忌避感はありませんでした。

 でも、自分の手で狩りをして獣を殺す事には、少し抵抗がありました。

 ですが、魔犬達と絆を結んでからは、全く抵抗がなくなりました。

 私が平気で人を殺せと命じられるのも、魔犬達の影響かもしれません。


「御嬢様。

 状況を教えていただけますか?」


「奇襲が成功したようです。

 トンネル作戦は大成功ですね。

 ほとんど抵抗される事なく、襲撃者を斃しています。

 今三人目の魔法使いを斃しました。

 魔道具を持っている者も次々と斃しています。

 全滅も時間の問題です」


「そうですか、それはよかったです」


「ガァアァアァァアア!」


「敵です!

 魔虎です!」


 私が命じる前に、ムクとアズ、それにコックスの魔犴一頭が駆けだしました。

 よほど強敵なのでしょう。

 私にまで恐れと緊張が届きます。

 まともに戦うのではなく、牽制して時間稼ぎしてくれるようです。

 襲撃者に向かった仲間に、戻れとムクが指示を出しています。

 私の指示を否定してでも、彼らを戻さなければいけない緊急事態のようです。


「リリアン!

 魔虎はとても強敵のようです。

 ムクが魔犬達に集合をかけました。

 気をつけてください!」


「五陣だ!

 御嬢様を死守せよ!」


 リリアンを戦闘侍女を全員集合させました。

 元々近くにいたのですが、堅守円形陣を命じる事で、強敵が現れた事を周知徹底したのでしょう。

 しかし、誰一人欠けることなく、魔虎を撃退できるのでしょうか?

 ムクから伝わる情報では、魔虎は体高一三〇センチくらい、体長は三〇〇センチを超えているようです。

 体重も三〇〇キロを軽く超え、圧倒的な質量と威圧感でムクを怯ませています。

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