第74話

「リリアン、どうなっていますか?

 皆は無事ですか?」


「申し訳ありません、御嬢様。

 死者はでていませんが、追い込まれております」


「どういうことですか?

 リリアンが遅れをとるとは思えないのですが?

 襲撃者はどのような手段をとってきたのですか?」


「複数の魔法使いを投入するか、大量の魔道具を使ったと思われます。

 三方向から火炎攻撃を受け、魔境の奥に追い込まれております」


「複数の魔法使いと大量の魔道具ですか?

 そう判断した理由は何ですか?」


「普通の道具を使った火攻めでは、これほど早く火が回るとは思えません。

 ですが、火炎魔法の破壊力が一定レベル以上でもありません。

 もし向こうに高位魔法使いがいるのなら、破壊力の高い魔法を直接使ってきたと思われるからです。

 何より高位魔法使いは、各国が争って宮廷魔導師として召し抱えています。

 今の状況で王家が御嬢様に攻撃を仕掛けるとは思えません」


「分かりました。

 私もリリアンの考えに同意します。

 それで、全員が助かる方法があるのですか?」


「厳しいと思われます。

 今は敵の魔力と魔道具を使い切らせる様に、魔境の奥に後退しています。

 時期が来たら、側面を強行突破する予定ですが、それまでに火に怒り狂った強力な魔獣と遭遇する可能性が高いです」


「なるほど、確かにその危険性が高いですね。

 今火攻めを強硬突破するのは危険なのですか?

 突破できれば襲撃者を斃せるのですか?」


「私の計算だけですが、火攻めを突破するのに相当の損害を受けます。

 突破しても、損害は大きいと考えられます」


「遅延作戦しか方法がないと言うのですね?」


「はい」


「嘘、ですね。

 リリアンと私が何年の付き合いだと思っているのですか?

 リリアンが私を案じて危険な策を放棄しているくらい分かりますよ。

 あ、違いますね。

 危険な作戦ではなく、苦痛を伴う作戦なのですね。

 確実に皆を助けられるけれど、私が先程のように苦しむから放棄した作戦があるのですね?

 正直に言いなさい。

 これは主としての命令です」


 ごめんね、リリアン。

 私、嘘をついています。

 以前の私では、絶対にリリアンの嘘を見抜けなかったでしょう。

 ムク達と絆を結んだから、リリアンをはじめとする、私を愛し心配してくれる人達の思いやりを感じる事が出来るようになりました。


 そして、私の言葉が、リリアンを感動させ喜ばせているのも感じ取れます。

 別にリリアンの歓心を買おうとして口にした言葉ではありません。

 利益を得ようとして言ったのではないのです。

 今まで主として至らなかった自分を反省して、正直に感謝を述べただけです。

 それに、自身を傷つけられる痛みより、大切な人を傷つけられ殺される痛みの方が遥かに痛いのだと、生き戻った私は身に染みて知っているのです。

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