第72話暗殺ギルド長視点

「準備に怠りはないか?

 魔法使いは本当に来るんだな?」


「ああ、大丈夫だ。

 火魔法が使える魔法使いを三人用意出来た。

 補助に使う油も巻物も用意出来ている。

 確実に殺せる」


 くそ!

 こんな寄せ集めで暗殺を行うとは!

 いや、女一人殺すのに、大々的に火災を起こすなんて、もう暗殺とはいえない。

 こんなやり方、刺客の矜持に係わる大問題だ。

 今度からこんなやり方を暗殺に指定されたら、たまったもんじゃねえ!


 だが何度も失敗を重ねてしまったから、依頼者の命令を拒否することは出来ない。

 そもそも必要な人員の大半は、依頼者が集めてくれたのだ。

 さらに普通なら一人集めるのにも苦労する魔法使いを、三人も集めてくれた。

 依頼者も、もう絶体絶命なのだろう。

 自分達の加担が露見してでも、標的を殺さねばならん状態のようだ。


 俺達だってここで失敗したら再起不能になる。

 今までの失敗で暗殺ギルドの腕っこきの大半を失ってしまった。

 準備資金も底をつきかけている。

 隠し金はまだたっぷりあるが、これを使ってしまったら、万が一俺が逃げ隠れする事になった時に困る。


 問題はあの犬っころだ!

 いや、駄目だ!

 甘く見ちゃいけない!

 犬っころなんて意識があるから、これまで何度も失敗したんだ。

 あいつらは優秀な戦士だ。

 人間を超える戦士だ!

 しかも主人を護るためなら平気で身を挺して盾になりやがる。


「煙幕と目潰しの準備はいいか?

 香辛料をけちるんじゃねぇぞ!

 命がかかっているんだからな!」


「分かってるよ……

 みんな命は惜しんだ。

 これまで何度も失敗しているのは知っているよ」


 大丈夫だ。

 こいつらに頼んだのは、俺の伝手では買えない貴族ルートだ。

 少々ネコババされても、そもそも俺達では買えなかった分だ。

 少しでも数が増えたら儲けものなんだ。


 依頼者とその仲間の領地や王都から集めたゴロツキ共。 

 俺達や今回共同した他の組織が集められる本職の刺客とゴロツキの寄り合い所帯。

 その全員で犬戦士の鼻が利かない遠くから火攻めにする。

 徐々に火攻めの包囲網を狭め、反撃してきたら目潰しで犬戦士を無力化する。

 目潰しは人間の戦士にも通用するだろう。


 上手く包囲網を狭められたら、魔法使いの火魔法で止めを刺す!

 依頼者から無理矢理出させた火魔法の巻物も、暗殺ギルドとっておきの火魔法の巻物も、ケチったりしない。


 犬戦士だって獣には違いない。

 火は怖いはずだ。

 だが、本当に大丈夫か?

 まだ準備できることがあるんじゃないか?

 暗殺ギルドの誇りなんて捨てるんだ。

 なにがなんでも生き延びて、傾いた暗殺ギルドを再建するんだ。

 潰れちまったら、誇りも何もねえんだからよぉ。

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