第47話

 領地に戻ってからの旅は、王都から領地までの旅と違って安心快適でした。

 代官や村長が手厚くもてなしてくれました。

 特にありがたかったのは、ルーカス叔父上が贈って下さった魔獣肉です。

 鮮度のいい魔獣肉は、ムク達の健康に欠かせないのはもちろん、銀狼達が魔獣化するのに必要不可欠です。

 僅かではありますが、食事のたびに銀狼達に変化があるので、もう間違いないでしょう。


 デビルイン城に着いてからの安心感は、領内に戻ってビルバイン城に入った時以上でした。

 到着した時には、非常時に父上様が使用される領主の間と側近の間が掃き清められ、私達が何もしなくても直ぐに使える状態になっていました。

 そして私達の外側を護ってくれる第二騎士団の練度と礼儀は、ビルバイン城の守備兵と比較するのが失礼な程、ずば抜けていました。


「ルーカス叔父上。

 私が魔獣使いと精霊使いの技を学んでいるのは御存知だと思うのですが、その為にはここにいる魔犬達を側近くに置かねばなりません。

 叔父上がここまで掃き清めてくれた場所に、この子達を入れるのは申し訳ないのですが、曲げて許してくださいませ」


 本当に申し訳ない事ですが、御願いするのではなく、押し切るように言わねばなりません。

 リリアンが教えてくれた、王太子殿下の婚約者候補復帰話は青天の霹靂で、心の動揺が激し過ぎて、ムク達を側から離すと、不安に圧し潰されそうになります。

 もちろんうれしい気持ちが一番ではあるのです。

 王太子殿下が本当に私の事を想って下さっているというのは、望外の喜びです。


 ですが同時に、また刺客に狙われる日々になります。

 以前のように、私を庇って多くの者が傷つき死んでいくことでしょう。

 それを想うと、胸を剣で刺し貫かれるような痛みを感じます。

 でも、側にムク達がいてくれれば、その不安も少しは和らぐのです。

 まるで母上様の胸に抱かれているような安心感です。

 ムクムクとした柔らかな毛並みも、絹糸のようなサラサラとした艶やかな毛並みも、高級毛織物のような何とも表現できない毛並みも。


 一頭一頭手触りも違えば、頬擦りしたときの柔らかさも微妙に違うのです。

 もちろん体臭も違います。

 さすがにこれはリリアンにもコックスにも話せませんが、ムク達の体臭を嗅ぐ事も、心の平安に繋がっているようです。

 私のベットに入って一緒に眠れるのは、序列の問題があって、ムクと魔豺に限られています。

 銀狼達は、寝台の周辺やテラス、侍女達の部屋や通路を護ってくれています。


「分かっております、御嬢様。

 魔犬や銀狼は御嬢様の新たな護りでございます。

 戦闘侍女達には失礼な言い方になりますが、彼女達に準ずる待遇を御約束いたします。

 何も気になされますな」

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