しばらくサボってましたが、開墾を再開します

クロノスタシス - きのこ帝国


 ―――――

 ”クロノスタシス”って知ってる?

 知らないときみが言う

 時計の針が止まって見える

 現象のことだよ

 ―――――


 深夜の路地を缶ビール片手に歩いて帰る。

 生ぬるい空気がゆらゆらとまとわりついて、何とも言えない気怠さがある東京の夜。


 この曲を聴くと、そんな情景に呑み込まれていきます。僕がきのこ帝国が好きになったきっかけの曲。気怠くお洒落でずーっと聞いていたくなるような中毒性がありますね。きのこ帝国を好きな友達と「ラララッハッハウーオーウオー」を一緒にやってるときもなんだか幸福感に包まれます。聞いてみたらわかると思います。やりたくなりますから。



 個人的にこの曲は少し思い出がありまして、あれはまさに東京の夜でした。


 会社の先輩と東京のライブハウスにちょくちょく遊びに行っていたころ、パスピエ(バンド名)のライブ前に先輩が言いました。


「今日、友達が来るんだけど合流していい?」 

 仲良くしてもらっている先輩のことです。友達も良い人に違いありません。僕は「もちろんです!」と告げて共に新木場にあるライブ会場Studio Coastへ向かいました。


 雑多な人の中、会場内で先輩が手を振る先にいたのは小柄な可愛らしい女性の方でした。(COMEBACK MY DAUGHTERSが好きな方だったので以下カバさんと表記します)


「よろしくね」

 そう言って挨拶をしてくれたカバさんは、周りの空気がゆったり流れるような柔らかな雰囲気を持つ女性でした。初対面でも年下の僕が緊張しないように気を使ってくれていて、とても親しみやすい第一印象だったのを覚えています。僕たちはすぐに仲良くなり、ライブの興奮も冷めやらぬまま、その後も三人で飲みに行ったりするようになりました。


 もちろん飲み会での話題はもっぱら音楽の話。先輩は趣味でバンドを組んでいて、カバさんも先輩と音楽繋がりの友達を通して知り合ったそうなので当然ですね。僕はそこまで音楽を深く知っているわけではないのですが、二人が好きな音楽を教えてもらったり、ライブの話で盛り上がるのがとても居心地が良かったのを覚えています。


 ある時カバさんが夜に「ゆったり聞ける曲が好き」と言ってるのを聞いて、僕が思い浮かんだのが、この「クロノスタシス」でした。


「きっと気に入ると思いますよ」

 そう、おススメすると「じゃあ聞かせて」と言う彼女。


 東京の夜の下、僕は生まれて初めて片耳のイヤホンを通して同じ曲を聴いたのです。


 ―――――

 ゆらゆら揺れて 夢のようで

 ゆらゆら揺れて どうかしてる

 ―――――

 

「めちゃくちゃ良いね」

 そう言ってくれたような気がします。

 


 その後、僕が遠方へ転勤し、先輩も東京を離れ、カバさんは数年前に結婚して、今では集まることも難しくなりました。ふと東京時代が懐かしくなった時、この曲を聴くのです。


 今でもあれは夢だったのではないかと不思議に思いますが、この曲を聴くたびにあの東京の夜の空気が蘇って来て、言葉にできないようなノスタルジーに包まれます。

 

 ふいに真夜中の散歩に出かけたくなりました。

 近くのコンビニエンスストアで350mlの缶ビールでも買おうかな。







 クロノスタシス / きのこ帝国

 https://youtu.be/cCx4I4Fk5FE

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る